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» 2022年02月07日 07時07分 公開

Employee Experience (EX)の向上を通じたサステナビリティ経営視点

EX向上を意識した経営により、優秀な社員をひきつけ、彼らの成長を促進し、顧客への提供価値を最大化していくことが企業価値向上に重要な要素となる。

[横山浩実,ITmedia]
Roland Berger

Employee Experience (EX)の重要性

 Employee Experience(EX)は、「従業員が会社の中で働くことを通して得る全ての経験」であり、また、「その経験を通じた感情や思考」を含む概念である。企業と従業員の関係性は対等であり、企業は従業員にとって有意義な体験を提供する代わりに、従業員の組織の発展に向けた貢献(エンゲージ)を期待する。

 従業員エンゲージメントは、ロイヤリティーや従業員満足度と明確に異なるものである。エンゲージメントは、企業と従業員が対等な立場から目指す方向性を議論・合意し、互いにその実現をめざすことで、企業及び従業員双方の成長スピードを最大化させることがポイントである。一方、「従業員ロイヤリティー」は従業員から企業への一方向の忠誠を示し、また、「従業員満足度」は企業から従業員に与える要素の満足度を把握するための尺度である。

 EX及び従業員エンゲージメント自体は新しい概念ではなく、1990年代、GEのCEOを20年間務めたジャック・ウェルチが企業の中長期成長のために従業員のエンゲージメントを最重視したことが認知を広める端緒となった。

 それが現在再度注目されているのは、主に以下の理由がある。

1、労働者の不足と人材の流動性の高まり

 人生100年時代を迎える中、従業員は「会社が自身の長期的成長を支援してくれるのか」をより重視する。企業は労働者が今後不足していく中、優秀な従業員を確保していくために自身の成長と従業員の成長を両立していかねばならない。

2、ビジネスサイクルの短縮

 技術進化やGAFAの台頭により、ビジネスモデルが高速で陳腐化する中、経営陣と従業員は既存知見をアンラーニングし、新たな知見やマインドセットを習得し続けなければならない。その実現には従業員が高い意欲で自発的に企業の発展に貢献しようとする意識が重要である。

 EX向上を意識した経営により、優秀な社員をひきつけ、彼らの成長を促進し、顧客への提供価値を最大化していくことが企業価値向上に重要な要素となる。

EX向上のための3つの要諦

 EX向上を実現するにあたり、経営者が意識すべき要諦は以下3つである。(図A参照)

EX向上のための3つの要諦

1、正確なファクト認識・可視化

 まず現状をファクト・データとして正確に把握・分析する必要がある。全社のみならず部門や機能などの単位、また、個人単位でEXを測定・分析し、現状や企業成長を成し遂げるうえでの課題のありかを把握する。人事組織施策はすぐに結果が出るわけではなく、定点観測と施策との突き合せも継続的に実施することが望ましい。

2、経営判断への反映とアクションの積み重ね

 EX向上の成否は、可視化した結果を経営者がどう受け止め、どこまで真摯に向き合うか、によって決まる。施策に特効薬はなく、会社と従業員の成長の方向性のすり合わせ、及び成長の実現に向けた従業員の支援を地道に積み重ねていく必要があり、通常の人事オペレーションを超えた組織の設計とリソースの投下を要する。

 なお、最近ではそのような意思決定の方向性を支援するツールも登場している。富士通がSEを対象に導入した米クアルトリクスのEXソリューションでは、定期調査によりEXの状況を可視化するのみならず、先進的なAI分析エンジンにより、今後のアクションを提示することができる。

3、従業員ジャーニーの俯瞰

 上記現状認識や経営判断においては、企業・従業員の活動を分断させずに、一連の流れ(従業員ジャーニー)でとらえないと課題の本質を突き止めることができない。特に部門間異動や縦割りで推進される人事施策により、従業員データが分断していることも多い。人事マスタと連動させながらあらゆるタッチポイントでEXの状況を可視化し、施策を構築していくことが重要である。

CX(Consumer Experience)とEX間の密接な連動

 EXがCXと深く結び付くことで、従業員が顧客への価値創造によって自身のエンゲージメントを深め、さらなる創意工夫が行われ顧客への提供価値が拡大するという正のサイクルを回すことができる。

 例えばアドビは過去、クラウドベースのビジネスモデルへの変革が必要なタイミングで、社内の制度や育成の仕組みが追い付かず、離職率が増加するという危機に陥った。最高人事責任者兼EX担当副社長を務めるDonna Morrisは、EXとCXを結び付ける方向で組織や制度を改革し、離職率を下げ会社の変革を実現した。

 例えば、同氏は社内に顧客の声を聴くための「リスニングステーション」を設置。従業員はこれにより顧客の声を直接聞き、自身のアクションへの反応を理解することができるようになった。自社の顧客に対するより深い理解が従業員エンゲージメントを高め、また、従業員は顧客理解を踏まえてさらに便利なツールやソリューションを開発し、結果CXも高まるという正のサイクルを醸成した。

 EXの向上は一朝一夕ではいかず、粘り強い経営者のコミットと意思決定、アクションの積み重ねが重要である。ローランド・ベルガーはEX向上も含む企業の中長期的成長に関わる豊富なプロジェクト実績や知見を有している。

著者プロフィール

横山 浩実(Hiromi Yokoyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学大学院工学系研究科修了。米系会計系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社等を経て現職。内閣官房IT総合戦略室にてIT戦略調整官としても勤務。公共業界、IT分野を中心に、デジタル事業戦略、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入など多岐にわたるコンサルティングプロジェクトに従事。


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