韓国のエンタメ業界がこれまで以上に世界規模で大成功を遂げているのには、アーティストやタレントの才能、作品性の高さは言うまでもなく、それに加えてエンターテインメントの事業としての成功要因を隅々まで押さえていることが背景に存在する。
BTSは近年K-POPの枠組みを越え、全米ビルボードチャート1位を獲得、グラミー賞へもノミネートされ、世界的大人気のアーティストへと躍進している。おそらく今ではアジア人で最も世界的に成功したアーティストと言えるのではないだろうか。また、近年はステイホーム生活の中でNetflixなどの動画配信サービスを楽しむ機会も増え、その中でも特に愛の不時着、梨泰院クラス、ヴィンチェンツォをはじめとした韓国ドラマのプレゼンスが以前にも増して高まり、「第4次韓流ブーム」をけん引している。
また、BTSや愛の不時着は決して日本国内でのブームに止まらず、エンタメ大国のアメリカ、欧州、東南アジアなどで一大ブームとなっていることは今回の「第4次韓流ブーム」の特徴だと言えるだろう。加えて、2020年のアカデミー賞で「パラサイト」が作品賞を受賞するなど、韓国エンタメ業界の大躍進は止まることを知らない。
韓国のエンタメ業界がこれまで以上に世界規模で大成功を遂げているのには、アーティストやタレントの才能、作品性の高さは言うまでもなく、それに加えてエンターテインメントの事業としての成功要因を隅々まで押さえていることが背景に存在する。韓国エンタメ業界の成功の鍵は、「A、 世界標準のコンテンツ制作力」「B、徹底したローカライズ」「C、アーティスト・タレントへの徹底的な“アメとムチ”」「D、デジタルによる「パリパリ」なアップデート」「E、マルチチャネルでのマネタイズ」の大きく5つに集約される。
まず最もコアとなるのが、音楽・ドラマ問わず韓国のコンテンツ制作力がこれまで以上に進化を遂げていることである。楽曲・ダンスなどの全てにおいて韓国国内だけではなくグローバルで通用するコンテンツ制作を韓国国内のクリエイターのみならず、世界有数のクリエイターたちも交え、制作している。ドラマなどの映像作品でも同様に、1話あたり数億円の製作費をかけ、最先端の映像技術により世界標準で質の高いコンテンツを数多く輩出している。
世界で通じるコンテンツを作り続けながらも、各地域・国での展開に向けてはローカライズを徹底して行う。まずはアーティスト自身の語学力が日本をはじめとする他国のアーティストに比べて高く、制作会社やタレント事務所にはまたコンテンツの世界展開を支える税務・法務、マーケティングなどでのスペシャリスト集団がそろえられている。例えば、韓国には「A&R(アーティスト&レパートリー)」という職種があり、アイドルの育成からプロデュース、世界観の作り込みまでを行う、いわばアイドルの設計士が多数存在するのも韓国のエンタメ業界の特徴だろう。
韓国でのアーティスト・タレント間の競争はどの国よりも激しく、今現在もHYBE、JYPなどのタレント事務所には世界各国から1日1万人以上が応募してくる。アーティストのオーディション番組なども巧みに活用し、相互の競争によって有能なタレントのみが勝ち残る、いわばかつての日本の昭和的な仕組みも併せ持っている。他方で、成功した暁には演者も裏方へも多額の報酬が支払われる仕組みになっており、こうした徹底した“アメとムチ”のシステムは第二のBTSや愛の不時着を目指す若者のモチベーションの源泉になっている。
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明治学院大学 経済学部准教授