データ駆動型経営の現在地と未来(後編)〜企業変革力(DC, Dynamic Capability)強化に向けて〜視点(1/2 ページ)

組織は常に、長期合理性と短期合理性の不一致、全体合理性と個別合理性の不一致に苦しむ。この不一致を回避するには。

» 2021年03月22日 07時03分 公開
[田村誠一ITmedia]

前編より続く)

企業変革力:Doing the Right Things

 2020年5月に公開された「令和元年度ものづくり基盤技術の振興施策」(2020年版ものづくり白書)。わが国製造業が採るべき戦略として、(1)企業変革力(DC, Dynamic Capability)強化、(2)DCを強化するDX(Digital Transformation)推進、(3)設計力強化、(4)人材強化、が挙げられた。

 David J. Teece教授(University of California, Berkeley)の提唱するDC。通常能力(OC, Ordinary Capability)を「ものごとを正しく行う(Doing Things Right)」能力とするなら、DCは「正しいことを行う(Doing the Right Things)」能力。組織は常に、長期合理性と短期合理性の不一致、全体合理性と個別合理性の不一致に苦しむ。この不一致回避の本質がDCであり、「イノベーションのジレンマ」(“Innovator's Dilemma”)の打破、「両利きの経営」(“Ambidexterity”)実現の鍵だ。現在進行形の経営概念だが、必ずしも製造業に限った話ではない。

 DCを構成する要素は、感知(Sensing)、捕捉(Seizing)、変容(Transforming)。データ駆動型経営に例えるなら、「感覚神経」(データを察知する力)、「中枢神経」(データを解釈する力)、「運動神経」(施策を断行する力)。いかにしてこの3神経を研ぎ澄ませるか。機械学習/AI進化の方向性はここにある。一つは運動神経の強靭化、もう一つは中枢神経の分権化だ。(図A1参照)

A1:機械学習/AI進化の方向性、A2:連合学習(Federated Learning)

運動神経の強靭化:行動変容

 機械学習/AIが合理解を導出したとして、ヒトが機械の提案通りに行動するとは限らない。組織は生き物。運動神経には、心理学と意思決定理論を融合させた行動経済学が有効だ。Richard H. Thaler教授(Chicago University)らの提唱する「ナッジ(nudge:そっと後押しする)」もその一つ。行動変容には「ナッグ(nag:しつこく言う)」より「ナッジ」が効く。有名な実践例は、清掃費8割削減を実現した蘭スキポール空港の男性用トイレのハエの絵。欧米では公共政策にも積極的に応用されている。

 また、画一的な働きかけでヒトは動かない。パーソナライズして働きかけてこそ、行動変容が促進される。いつ、誰に、どのように働きかけるか。センターピンを捉えれば、企業変革は波状的に拡がる。ここに機械学習 /AIの進化形がある。

社会課題解決に向けて環境省の推進する「BI-Tech」(バイテック)(注1)。個人/世帯の行動情報や属性情報を IoTで収集(感覚神経)、AI技術で解析(中枢神経)、パーソナライズしたメッセージでナッジ (運動神経)し、行動変容を促す試みだ。いわば、DIDI(Data Informed Decision Implementation)。 DIDM(Data Informed Decision Making)と DIDIは、企業変革の両輪だ。

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