顧客価値創出へのAIの貢献視点

2000年代から続いている第三次AIブームは、ビッグデータを用いてAI自身が知識を習得する「機械学習」の実現から始まった。近年は、知識を定義する要素である特徴量をAI自身が習得するディープラーニングにより、ビジネスでのAIの実用利用が急速に進んでいる。

» 2021年12月20日 07時00分 公開
Roland Berger

AI技術の進化によるビジネスの自律化

 2000年代から続いている第三次AIブームは、ビッグデータを用いてAI自身が知識を習得する「機械学習」の実現から始まった。近年は、知識を定義する要素である特徴量をAI自身が習得するディープラーニングにより、ビジネスでのAIの実用利用が急速に進んでいる。

 ここで、AIが実際のサービスにおいて果たす機能は「識別」「予測」「実効」に分類できる。識別機能により、画像解析、データからの示唆抽出など、人力では成しえない処理の効率化や品質向上を実現できる。更に、予測機能により、マッチング・レコメンドなど、流動的な将来に対する確からしい情報提供により、判断の妥当性の向上や大幅なリスク低減が可能となる。そして、実効では、識別・予測したデータから環境や状況を総合的に評価し、次の打ち手を判断することで、ビジネスの自律化が進む。(図A参照)

AIの進化

AIによるビジネス価値増大

 識別・予測の精度が向上し、テキストデータ・数値データのみならず音声データ・画像データ・IoTデータまでも扱って、AI自身が最適行動を判断し行動できるようになってきた今日、例えば以下の観点からのAIの活用により「AIによる自律世界」の実現によるビジネス価値の増大を目指すケースが増えている。

  • 識別・予測した音声・画像データから、概念の高度分析や自動プランニングにより、環境や状況に総合的に適用できる音声・画像データを作り出し、複雑な現実社会に合致するサービス提供
  • ユーザの実社会の詳細な行動データ等を用いて環境分析を高度化することにより、デジタル世界のやりとりに基づくオンラインビジネスの高度化の枠を超え、オフラインビジネスも合わせたユーザのジャーニー全体をサポートするサービスの実現
  • 画像・音声・IoTの複合認識やAIの自立学習による大規模な知識理解を活用することにより、これまで人が判断していたホワイトカラー領域のビジネス判断を代替させ、処理の迅速化・品質向上の実現

自律した会話による顧客対応

 音声データである「会話」の潤滑化にAIを組み込み、オフラインビジネスとオンラインビジネスをつなぎ、ユーザエクスペリエンス向上を果たしている好事例としてLINEのAiCallを紹介する。

 企業活動において、各種案内・問い合わせ対応・受付などの手段として電話は多用されており、顧客満足度を左右する大きなポイントとなっている。「いつでもつながる」「分かりやすい双方向コミュニケーション」が求められる中、有人対応やIVR対応では限界がある。LINE AiCallは「長い発話も正確に聞き取る音声認識」「高品質の自然言語処理」「滑らかで自然な音声合成」といった高度なAI技術を組み合わせることで、人の発話を正確に理解し、顧客と会話型で対応が行える電話応対AIサービスである。

 人と会話しているような自由度の高い対話でやりとりを進められるだけでなく、対話において追加の情報提供や代替案の提案もできるなど、自動応答でよくある一方通行なコミュニケーションとは違うユーザ体験を提供できる点に大きな特徴を有する。

 ステーキハウスの最高峰と称される名店であるピーター・ルーガーが2021年10月に恵比寿で米国外初の店舗として営業を開始しているが、顧客に対しLINE AiCallを活用した「電話予約」サービスを提供している。オンライン予約以外でも人を介在させることなく全て自動で予約を完了させることで、オーバーブッキングなどのトラブルを回避し、また、オンラインと電話予約を融合させることで、確実な予約管理を可能としている。同時に、電話対応にかけるスタッフの負担を大幅に軽減し、新たに生まれた時間を対人接客のレストランサービス向上に生かしている。

機械の目を使った安心・安全の自律化

 AIの実効に向けては、さまざまなデバイスからのデータ活用が前提となる。すなわち、さまざまな社会インフラにデバイスを組み込み、きめ細かに人々の生活を支援することで、安心・安全・快適な世界が実現できる。ローランド・ベルガーが主催する価値共創ネットワークの一員であるモルフォAIソリューションズでは、ドローン、ロボット、ウェアラブルデバイス、AGVといったエンドポイント(端末)上で効率的に動作する画像AIの技術開発が可能という特長を生かし、社会インフラ×メンテナンス領域などでの課題解決を支援している。

 例えばビル警備・防犯という領域では、人影検知を通じた夜間の不審者侵入検知、オープンスペースでの不審者検知、ナンバープレート認識による車の不審行動判定を行うことや、群衆判定を通じた混雑度分析・入場規制・三密回避、移動ロボットカメラの撮影画像、環境情報及び位置情報からの見守り巡回の自動化などを可能としている。

ビジネスの自律化によるヒトによるサービスへの回帰

 以上の事例のように、AIの実効によるビジネスの自律化は、業務の効率化や品質向上にとどまらず、ヒトがヒトでしかできないサービスに回帰するための特効策となりうる。ローランド・ベルガーはさまざまなAIプロジェクトの推進、また、事業価値創出にむけたデジタル活用支援における豊富なプロジェクト実績や知見を有している。

著者プロフィール

横山 浩実(Hiromi Yokoyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学大学院工学系研究科修了。米系会計系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社等を経て現職。内閣官房IT総合戦略室にてIT戦略調整官としても勤務。公共業界、IT分野を中心に、デジタル事業戦略、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入など多岐にわたるコンサルティングプロジェクトに従事。


著者プロフィール

石毛 陽子(Yoko Ishige)

ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー

東京大学文学部卒業後、日系投資銀行を経てローランド・ベルガーに参画し、東京及びシンガポールにて日本企業のアジア展開を支援。人材系ITベンチャーの役員を経て再参画。DX、全社戦略、組織改革やM&Aなど、幅広いプロジェクトを手掛ける。


著者プロフィール

速水 亘(Wataru Hayami)

ローランド・ベルガー プロジェクトマネージャー

大阪大学国際公共政策研究科修了。消費財、小売り、エンターテインメントを中心とした領域において、さまざまな戦略プロジェクトを手掛ける。


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