企業変革の要諦:オペレーティングモデル(前編)〜 「20:マイナス20の法則」とPOLG 〜視点(1/2 ページ)

成功企業は、過去に拘泥することなく、事業環境変化をきっかけにオペレーティングモデルを再構成し、戦略を確実に実行している。

» 2020年12月07日 07時00分 公開
[田村誠一ITmedia]
Roland Berger

玄人は兵たんを語る

 企業変革の頓挫。自身の「参謀」「投資」「経営」経験に鑑みると、頓挫の原因は「実行軽視」に尽きる。変革の壁は戦略立案の難しさにあるのではない。難しいのは実行力の担保だ。実行なくして実効なし。ところが現実には、戦略と予算配分(資源配分)が結びついていない、旧態依然の組織構造が温存されているなど、「実行軽視」が跡を絶たない。

 軍師は、「素人は戦略を語り、玄人は兵たんを語る」という。経営も同様。素人は戦略(だけ)を語り、玄人はオペレーティングモデルを(も)語る。これは、経営企画部の「作文」と真の経営者の「本気」の違いにも通ずる。

「20:80の法則」の効かない世界

 戦略立案の世界の常とう句の1つ、“Quick and Dirty”。100の努力で100%を狙わず、20の努力で80%の精度を担保する。背景にあるのは「パレート分布」。不確実な事業環境下、検証困難な20%に対する80の努力は非効率だし、100%検証できるとしたら、それはそもそも戦略仮説と呼ぶべきものでない。

 一方、実行は様相が全く異なる。20:80どころか、20:マイナス20、80:0の世界だ。現状否定の影響は、常に負の面から発現する。不慣れな業務プロセスしかり、組織間のポテンヒットしかり。20の努力で終えるくらいなら、やらない方がマシ。80まで来てようやく±0。第4コーナーを過ぎて一気に効果が具現化する。

 この感覚、経営者には常識だろう。中途半端な実行は、百害あって一利なし。成功企業に共通する戦略実行の三要件は、「即行」「断行」「遂行」。“Quick and Dirty”で戦略立案を終えたら、すぐに実行に取り掛かり、くじけることなく続け、最後までやり遂げなければならない。(図A1参照)

図A1:「20:マイナス20の法則」、図A2:オペレーティングモデルの4要素

オペレーティングモデルの核心(1):網羅感(POLG)

 戦略の実行とはすなわち、オペレーティングモデルの再構成に他ならない。企業が「なぜ(why)」存在するかを示す「パーパス(存在意義)」、パーパスを「いかにして(how)」達成するかを示す「戦略」に対し、戦略を「いかにして(how)」実行するか、いわば、求められるケイパビリティ構造が「オペレーティングモデル」だ。正しく構成できれば、戦略実行にあたり各組織の果たすべき役割が一貫性を生む。組織間の透明性が高まり、経営者は場当たり的な「火消し」実務から解放され、事実に基づく能動的な意思決定が可能になる。株主や金融債権者の期待に応えることができる。

 では、求められるケイパビリティ構造を構成する要素とは何か。ローランド・ベルガーは、(1)業務プロセス(Process and Tools)、(2)組織構造(Organizational Structure)、(3)リーダーシップ(Leadership Model)、(4)ガバナンス(Governance)の4つに分解する。順に、(1)経営資源を製品やサービスといった提供価値に転換する活動、(2)各活動の役割や権限配置のくくり方と拠点配置、(3)経営スタイルや企業文化、(4)戦略との整合性を保つべく各活動をけん制する仕組み、だ。意外なことに、多くの企業でこの網羅感が欠如している。(図A2参照)

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