連載
» 2021年10月25日 07時09分 公開

競争環境を勝ち抜くためのDXによる標準化・差別化の進め方視点

企業はDXがもたらす価値を最大化するために、「標準化」と「差別化」という一見対極的な、しかし実際には両輪で取り組むべき活動をDX推進の中で行うべきである。

[横山浩実, 石毛陽子, 西山和希,ITmedia]
Roland Berger

企業にとってのDXとデジタルがもたらす価値

 企業におけるDXとは「データとデジタル技術を活用して製品やサービス、ビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する」全社的な取り組みである。DXは全く新しい概念であるわけではなく、創業以来抱え続け、生き抜くために行っている従来の変革を、デジタル技術の活用で進化・加速させていくことを意味する。生き抜くこととは、競争優位性を確保し続けること。具体的には、抜本的な業界構造の変化に食らいつく、ビジネスモデルを変革させる(新規顧客、新規サービス)、日々さまざまな顧客のエクスペリエンスを向上させる、プロセス改革による生産性向上・原価率低減、こういった研ぎ澄ましの行為が含まれる。

 DXがもたらす価値を類型化すると、以下図の7つに集約される。(図A参照) 企業は自身の状況を鑑みながらこれらの価値を最大化するために、「標準化」と「差別化」という一見対極的な、しかし実際には両輪で取り組むべき活動をDX推進の中で行うべきである。

DXがもたらす7つの価値

標準化による生産性の飛躍的向上

 「標準化」とは、外部のベストプラクティスを適用することでROIを最大化し、自動化や一括処理による生産性の飛躍的向上を成し遂げるという取り組みである。

 一見すると「標準化」は外部ツールを導入することで容易に成し遂げられるように見えるが、3つの落とし穴に注意し、慎重に大胆に推進する必要がある。

 1つ目は、最小公倍数的な標準化を目指し、ありとあらゆるものを取り込むなど時間とコストをかけて巨大な標準化像を定義してしまうことである。例えば、業界テンプレートを出発点として採用することで、必要最小限かつ合理的な標準化像の定義が可能となる。

 2つ目は、既存の業務プロセスの実装の意識が強いままに標準化した結果、標準化されたものがデジタルを活用した最適解とならずに真の生産性向上につながらないケースである。変革に向けては、大胆に業務プロセスを見直し新しい業務のやり方にどのように取り組むのがよいかを検討すべきだろう。

 3つ目に、リーンな標準化にこだわった結果、例外処理を認めず、結果的に他の業務プロセスを乱し生産性を下げるパターンがある。ここは慎重さが必要なものの、ガバナンスを意識した上で、例外パターンを洗い出し、許容したい。

 RPAは現場業務をデジタル化するツールとしての認知が高いが、UiPathの RPAのように、複雑・少量・多様なプロセスの最適化まで、例外処理を認めつつ、平易にかつ統制も利かせられるツールも出てきている。 UiPathでは、標準プロセスに加え例外処理を含めた現場のラストワンマイル業務を素早く自動化するデジタルツールを展開している。組織ごとの経費申請プロセスを分析し、複数の複雑な業務ルールを自動的にかつ適切にチェック可能とすることで、経費報告の監査時間を大幅に短縮するのみならず不正業務を発見した事例などがある。このように、効果的な外部ツールを適切に活用する「標準化」が企業の成長には重要になってきている。

差別化による競争優位性の磨き込み

 「差別化」とは、各社のプロダクト・サービスにおける既存の特異性・優位性をデジタル技術の活用で更に磨き上げ、競争力や顧客価値を最大化していくという取り組みである。

 例えば、ブリヂストンは、長年培ってきた素材・製品開発やモノづくりのノウハウにデジタル技術をかけ合わせることで、競争力を一段と強化していくことを中期事業計画で掲げた。既に、鉱山車両用タイヤについて、高度な設計シミュレーションを活用することで、効率的に個別の鉱山に最適なタイヤを開発することを可能にしている。

 ただし、「差別化」のみが先行し「標準化」とのバランスがおろそかになると、個別での機能強化や拡張が各所で推進され、全体感を欠いたつぎはぎのプロダクトやサービスが生まれてしまう。更には、独りよがりの差別化が進み、いわゆる「ガラパゴス化」に陥る恐れがある。

 正しい「差別化」を実現するには、常に全体最適を意識しつつ、「標準化」すなわち汎用モジュール化を並行して考えていくことが重要である。また、プロダクト・サービスのカスタマーエクスペリエンスを的確に捉えることは「差別化」の方向性を統一し、ガラパゴス化を回避することにつながる。

 カスタマーエクスペリエンスの把握は、顧客情報の収集・データの構造化から分析までのプラットフォームを提供する米企業のクアルトリクス(SAPが 2018年に買収)などのサポート・ツールを導入してスピーディーかつ効率的に進めていきたい。

 以上、DXを通じて企業が目指す将来像を実現するにあたっては、デジタル技術を最大活用した「標準化」と「差別化」を念頭に、両輪で変革を推進していくべきである。変革の効果を最大化、かつ最速で実現するためには、便利なツールは柔軟に導入しトライ&エラーのサイクルを加速化することが重要となる。その際には、常にカスタマー目線、大局観を忘れず、中期経営ビジョンとの整合性を担保することに注意いただくことで、変革を成功に導くことができるだろう。

著者プロフィール

横山 浩実(Hiromi Yokoyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学大学院工学系研究科修了。米系会計系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社等を経て現職。内閣官房IT総合戦略室にてIT戦略調整官としても勤務。公共業界、IT分野を中心に、デジタル事業戦略、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入など多岐にわたるコンサルティングプロジェクトに従事。


著者プロフィール

石毛 陽子(Yoko Ishige)

ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー

東京大学文学部卒業後、日系投資銀行を経てローランド・ベルガーに参画し、東京及びシンガポールにて日本企業のアジア展開を支援。人材系ITベンチャーの役員を経て再参画。DX、全社戦略、組織改革やM&Aなど、幅広いプロジェクトを手掛ける。


著者プロフィール

西山 和希(Kazuki Nishiyama)

ローランド・ベルガー プロジェクトマネージャー

早稲田大学卒、バージニア大学経営大学院卒。米系投資銀行を経てローランド・ベルガーに参画し、東京にて日本企業の成長を支援。DX、全社戦略、組織改革やM&Aなど、幅広いプロジェクトを手掛ける。


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