JALグランドサービスとGMO AIRは、深刻な人手不足を背景に、羽田空港における航空機への荷物積み込み作業にヒューマノイドを導入するプロジェクトを始動した。実現への技術的ハードルは高いが、早期の実証でノウハウ蓄積を図る。
JALグループのグランドハンドリング業務を担うJALグランドサービスと、GMOインターネットグループでAI&ロボティクスの社会実装を掲げるGMO AIRは2026年4月27日、空港のグランドハンドリング業務にヒューマノイドを導入するプロジェクトを始動させた。
「フィジカルAI」というキーワードを毎日のように耳にする現在、ヒューマノイドの業務活用はどの程度現実的な選択肢なのか。両社の計画とヒューマノイド活用を選択した背景について紹介する。
今回のプロジェクトは、人間が担っている航空機への荷物の積み込み作業をヒューマノイドで代替することを目的としている。
背景にあるのは、危機的な人手不足である。「2030年に訪日外客数6000万人」(2025年実績:4268万人)という目標を掲げる日本にとって、空港インフラの維持は国策と言える。人手が足りないために航空機を飛ばせない、という事態を回避する施策の一つとしてプロジェクトが動き出した。
JALグランドサービス 代表取締役社長 鈴木 美輝氏は「人手不足の解消は急務」と強調する。JALグループは2030年度までに、2025年度比で10%の生産性向上を目標に掲げており、その手札の一つとしてヒューマノイドに白羽の矢が立った。
とはいえ、現段階のヒューマノイドは、まだまだ発展途上と言える。
私たちがよく動画で目にするヒューマノイドは、走る、踊る、ジャンプするというシーンがほとんど。いずれもヒューマノイド単体で完結する動作である。これらはヒューマノイド自身のバランスを制御できればどうにかなるものだが、例えば、初めて目にする物を持ち上げたり、周囲の環境や状況に応じて自律的に何かを判断したりといったインタラクティブな処理を自律的に行うのはまだ難しい。
一方で、空港ではすでに、さまざまな特殊車両・専用機材が稼働している。実績豊富で信頼性も高いので、こちらの延長で業務特化型専用機を開発したほうが早期に自動化・効率化が見込めるはずだ。
それでもあえてヒューマノイドを試すのはなぜか。
最大の理由は、既存設備を有効活用できることにある。現在の空港関連業務のほとんどは、人間が担う前提で設計されている。これを機械中心に設計し直すには、大きな投資が必要なうえ、切り替え時などに業務を止めなければならなくなる可能性が高い。社会インフラを担う航空会社が業務を停止してしまうと、多くの人や企業に影響を及ぼしてしまう。
そこで、ヒューマノイドである。ヒューマノイドであれば、人間と同じスペース、同じ動線で業務にあたれる。現在の設備をそのまま使えるため、業務停止を強いる可能性が低い。
さらにヒューマノイドは、将来的に1台で何役もこなす「汎用性」も期待できる。技術が成熟すれば、同じヒューマノイドでもプログラムを切り替えるだけで多種多様な業務をこなせる。長い目で見れば投資対効果は高いはずだ。
今回のプロジェクトで、ヒューマノイドの業務実装を担うGMO AIRは、2024年6月に設立された企業である。国内外からさまざまなロボットを調達し、自社のAIやネットワーク、セキュリティ技術を掛け合わせて、現場に合わせたソリューションを提供する。
また、GMOインターネットグループは2026年を「ヒューマノイド元年」と位置付け、ヒューマノイドのビジネス活用に向けた研究開発を進めている。2026年4月7日には、フィジカルAI研究開発拠点「GMOヒューマノイド・ラボ」を開設。各種ヒューマノイドをビジネスで活用するために必要なAIモデルなどを研究している。
今回の協業は、こうした取り組みの一環だ。
なお、このプロジェクトでJALグランドサービスが採用したのは、GMO AIRが提供する『ロボット派遣サービス』である。技術革新が続くヒューマノイドは、高価な機体を購入してもすぐに旧式化してしまうリスクがある。その点、ロボット派遣サービスであれば、ヒューマノイドをユーザー企業が自前で購入する必要がないため、随時新しいものを取り入れられるという利点がある。
また、現在のヒューマノイドを適切に動作させるためには、高度な専門知識に基づいた導入作業が必要である。ヒューマノイドが初期状態でできることは、歩くなどの基本動作のみ。しかも、人間がコントローラーで操作する必要がある。自律的に動作させるには、各ヒューマノイド専用のAIモデルを開発してインストールしなければならないが、ロボット派遣サービスでは、この導入作業をGMO AIRに任せられる。
今回のプロジェクトでヒューマノイドに任せるのは、手荷物を積んだコンテナ(想定重量約1.5トン)を「ドーリー(台車)」から「ハイリフトローダー(昇降機)」へと移送する作業だ。現在は5、6人が一組になって実施しているが、2028年度末までには中心作業をヒューマノイドに任せたうえで、他の自動化技術も活用しながら必要人員を半減させる意向だ。
開発は2026年から、以下の3段階で進められる。
片足でペダルを踏みながら、自身よりもはるかに重いコンテナに力を加えるなど、いずれもヒューマノイドとしては姿勢の制御が難しい処理になる。これらを個別に実現した後、一連のフローとして統合し、安全性を担保した上で羽田空港の現場へと投入する。
上記はいずれも人間にとってはそれほど難しくない作業だが、ヒューマノイドに任せるとなると「正直なところ、とても難しいチャレンジだ」と、GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニア 滝澤 照太氏は本音を吐露する。
大きな問題の1つは、シミュレーターと現実世界との違いだ。ソフトウェア上ではうまくいっても、ヒューマノイドに搭載するとうまくいかないことは多い。
「1つの作業を完成させるだけでもかなりのトライ・アンド・エラーが必要になる。単体で完結するダンスのデモでさえ、転ばなくなるまでに5〜6回は試行錯誤した。1.5トンのコンテナを扱うとなれば、その回数は10回、20回となるのではないか」(滝澤氏)
また、完全自律を実現するうえでは、人間との協働も設計する必要がある。
「本当に業務で役立つものを作るには、ヒューマノイドがどういう役割を果たすべきなのか、人間とどうコミュニケーションをとればよいのかなど、新しい試みばかり。実戦投入に至るまでには課題が山積みです」(滝澤氏)
走ったり、踊ったり、ジャンプしたり、という映像を見ると、ヒューマノイドの進化を強く感じる。しかし、実務で使うにはまだまだ課題が多いのが実情だ。
それでも、生成AIの目覚ましい発展により、そうした課題は瞬く間に解決されていくことだろう。GMOインターネットグループが「ヒューマノイド元年」と言うとおり、ビジネスで実用化されるのもそう遠くはないはずだ。少しでも早く試し、データとノウハウをためておくことが、将来に向けた何よりの投資になるのは間違いない。
単純作業はヒューマノイドに任せ、人間は安全管理などの「責任ある業務」に専念する。少子高齢化時代に求められる業務スタイルが形作られようとしている。
子供の夢をYouTuberからホワイトハッカーに! 具現化を進めるCISO - GMO 牧田氏Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授