公共交通インフラの使命を軸に、事業継続への攻めと守りを大胆に実行する - JAL 鈴木氏セキュリティリーダーの視座(1/3 ページ)

「社会インフラを絶対に止めない」という強い想いを抱くJALの鈴木氏。過去の経営破綻という試練を経て、サイバー攻撃を最優先の経営課題と捉える。セキュリティを単なるコストではなく「お客様の安心への投資」と信じ、政府や現場と手を取り合いながら、全員で会社を守り抜く覚悟を語った。

» 2026年03月25日 08時00分 公開
[星原康一ITmedia]

 日本航空(JAL)でデジタルテクノロジー本部長を務め、セキュリティに関しても最上位の責任を持つ立場にある鈴木氏。主に経営企画と営業部門を歩んできた同氏は、2023年にIT未経験でデジタル部門のトップに就任し、現在はIT子会社の統合や「攻めと守りの一体化」という大改革を強力に牽引している。

 過去に経営破綻の最前線で立ち回った経験から、社会インフラを支える企業としての使命感を非常に強く抱く鈴木氏に、高度化するサイバー脅威に対する経営トップとしての覚悟と、確固たるセキュリティによって推進するDX戦略について聞いた。



鈴木 啓介(SUZUKI Keisuke)

――日本航空 デジタルテクノロジー本部長 兼 JALデジタル 代表取締役社長

鈴木啓介 Photo by 山田井ユウキ

 1989年、日本航空に入社。2003年以降、国内外の営業拠点の責任者と経営企画部門の責任者を交互に務める。2010年の経営破綻時には収支管理担当として再建の最前線に立ち、LCC立ち上げなどの新規事業にも従事。その後、カスタマー・エクスペリエンス本部長や東京2020オリンピック・パラリンピック推進委員会副委員長などを歴任した。2023年度よりIT・デジタル部門へ異動し、現在はデジタルテクノロジー本部長(セキュリティ責任者兼務)およびJALデジタルの責任者として、グループ全体のDX推進とサイバーセキュリティ戦略を牽引している。



未経験でIT責任者に! 経営破綻で刻まれた「社会インフラの使命」

――IT未経験でデジタル部門の責任者を任されたと聞きました。

鈴木氏: およそ社歴の半分は経営企画に、残りの半分は海外畑での営業やマーケティング領域におりましたので、セキュリティも含めてITの領域は全くの未経験でした。IT部門はデジタルの専門家の集まりですから、そこに素人が迷い込んできたようなものです。最初は組織の中で相当な異物感だったろうと思います。

 ただ、経営に近いところで長く仕事をしてきた立場から見ると、これからの時代、デジタル技術は経営戦略のベースであり、企業価値を直接決める最大のポイントになります。われわれの航空事業のオペレーションやサービスに、デジタルの進化をどうビルトインしていくかが問われている。たまたまそういう変革のタイミングで、私はこの部署にやってきました。

――経営企画時代には2010年の経営破綻も経験されています。価値観や考え方に変化はありましたか。

鈴木氏: 経営破綻の時、私は経営企画の収支管理におり、まさに「金庫番」の立場にありました。政府や金融機関、債権者、弁護士の方々からご指導をいただき、更生法の適用から、稲盛和夫氏らが主導する企業再建プロセスの実行に携わってきました。

鈴木啓介 Photo by 山田井ユウキ

 あの時、会社の全貌を、良いところも悪いところも含めて把握することができました。今後の経営という観点から、どこを改善し、どこに投資をし、どこでコストをセーブするのか。会社経営の全体像を俯瞰して見る必要性を肌身で感じました。

 そして何より大きかったのは、私たちが「公共交通機関」であるという使命の再認識です。空の安全運航をベースに、公益に資するネットワークを維持していく。それが私たちのレゾンデートル(存在意義)です。破綻という厳しい経験を通して、会社の極めてエッセンシャルな意味を改めて痛感し、絶対にこのインフラを止めてはいけないという強い責任感が養われました。

――経歴を見ると、「守り」だけでなく「攻め」の姿勢も大切にされている印象です。

 鈴木氏 安全をベースとした事業とはいえ、時流に乗って新しい価値を作り、お客さまから支持されなければ企業は存続できません。私はLCCのZIPAIRやスプリング・ジャパンなど、航空会社の新しいスタイルの立ち上げにも携わってきました。

 社会インフラとしての安定性・安全性を絶対的な基盤としつつも、新しいものを取り込んで変革し続けなければならない。ブレないで変革し続けること。これが、私の経営の根底にある考え方です。

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