組織変革は「どこにいくか」ではなく、「どこからどこへ行くか」ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(1/2 ページ)

自分たちができることは何か、その一方、不得意は何か。現状の棚卸しから始めないことには、どれだけ理想的なありたい姿を描いたところで、そこに向かう険しさの度合いも分からないままだ。

» 2022年08月18日 07時01分 公開
[市谷聡啓ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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『組織を芯からアジャイルにする』(Amazon)

 今や、日本中の企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組んでいる、意識を向けていると言って過言ではないように思えます。日々、「新規事業の創出」あるいは「デジタル人材教育」といった話題に遭遇します。実際、企業のDX支援に携わっていると、新たな知識スキルを身に付け、それを活用しようと組織全体で躍起となっている雰囲気があります。

 獲得するべきものは多岐にわたります。AI、IOT、データの利活用といった技術に関して、あるいはプロダクトマネジメントやデザイン思考、アジャイル開発といったプロセスや概念も含め、学ぶべきことが山積しているようです。もちろん、いきなり新たな知識を実践レベルで使いこなすことは困難です。にわか仕込み、聞きかじりの知識で仕事にあたるという様子もよくある光景です。

 知識を使っているつもりで逆に知識に使われているだけなのではないか、そんな残念なDXも少なくありません。取ってつけるようにとにかく新たな知識を組織に持ち込もうとしても、実践や活用には程遠いままです。

 組織が新たな知識や技術を獲得して変わっていくには、まず自分たち自身に目を向ける必要があります。自分たちができることは何か、得意としてきたことは何か。その一方、出来ないこと、不得意とすることは何か。こうした現状の棚卸しから始めないことには、どれだけ理想的なありたい姿を描いたところで、そこに向かうのにどれほどのギャップがあり、その険しさの度合いも分からないままです。

 そう、欠落してしまっているのは、「From-To」の思考です。多くの場合、方針として定義しているのはTo(理想、ありたい姿)のほうです。「DXによって新たな事業やサービスをぽんぽん生み出せるクリエイティブな組織となる」あるいは「デジタルとデータを使いこなせる人材を圧倒的に増やす」といった具合にたどり着きたいToは立てられているかもしれません。世の中で紹介されている事例やケースを持ってきて当てはめさえすれば、一見体裁の取れているToを描くことはできるからです。

 しかし、先に述べたように、「どこへ行くか」(To)以上に問うべきは「どこからどこへ行くのか」(From-To)です。いかに理想的なToを掲げたところで、どこからそこへ向かうのか、出発地点次第でToに至るための距離つまり難易度が全く異なるからです。

 そして、From-To思考に立てば自ずと、外部から持ち込んだフレームやモデルをDX戦略やデジタル人材教育等のプランにただ当てはめるだけでは、うまくいかないということも見えてくるはずです。From-Toの「ギャップ」「差分」を捉えないことには、本当に組織が必要とすることは分からないままなのです。

 外部の知見を利用しつつも、結局のところ自組織の戦略は自分たちで立てるより他ありません。なぜなら、From(出発地点)を一番理解している、あるいは理解し直せるのは自分たち自身だからです。やはり、まず鏡に映し出すように自分たち自身を見据える必要があります。こうした立ち返りもなく、いきなりプロダクトマネジメントだ、アジャイル開発だと言っても、単に「手段」が先行しているだけで結果には結び付きません。

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