組織変革は「どこにいくか」ではなく、「どこからどこへ行くか」ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

» 2022年08月18日 07時01分 公開
[市谷聡啓ITmedia]
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 では、From-Toを捉えられたとして、どのようにしてそのギャップを埋めて行けば良いのでしょうか。ここで用いるのが「アジャイル」の考え方とその取り組みようです。アジャイルとは、本来ソフトウェア開発のための手法です。ですから、ここでいう「アジャイル」とは、アジャイル開発そのものではありません。アジャイル開発を支える原則やプラクティス(実践方法)を、組織内の活動により広く適用するのがその狙いです。ここでは、組織戦略や運営といった観点で「アジャイル」を適用します。

 From-Toで組織の有りたい姿を描いたとしても、一気呵成にたどり着けるわけではありません。数年がかりの取り組みとなることが大半でしょう。その長い期間を進んでいくためには、アジャイルの特徴の一つである反復活動が欠かせません。2週間から1カ月程度の期間を繰り返しの間隔として定義し、その反復によってたどり着きたい場所へと向かうわけです。

 わざわざ反復を前提と置くのは、反復期間ごとに「ふりかえり」と「むきなおり」を行うためです。ただ単に反復を繰り返していれば理想的なToにたどり着けるほど甘くはありません。おそらくFromからToへと一歩踏み出したところで、思うようにならない進み、想定外の出来事などが現れてくるはずです。そうした課題に適宜適応していく必要があり、そのために「ふりかえり」を行います。「ふりかえり」とは、反復期間の中で取り組んだことを棚卸し、そこから課題を捉え、カイゼンを図ることです。

 また、ぶつかるのは課題だけではありません。実際に進んでいけばより分かることも増え、目指そうとしていたToが理想とするものではなかった、他に目指すべき方向性があるといった気付きを得ることがあります。むしろ、そうした気付きを逃さないようにするために、「ふりかえり」同様に、定期的にToを問い直す「むきなおり」を行いましょう。

 場合によってTo自体を再定義し、それから改めてこれからやるべきことを挙げ直します。「ふりかえり」が過去から見て現在を正すならば、「むきなおり」は未来を捉え直して現在を正す機会と言えます。こうして、反復ごとに「ふりかえり」と「むきなおり」を行うことで、From-Toの長い道のりを進んでいけるようにするのが「アジャイル」を組織運営に適用する狙いです。

 こうして「むきなおり」によってTo自体を再定義することがありえるということは、最初に描くFrom-Toの戦略とは必ず守るべき絶対的なものにはならないということです。この考えに最初からのっとるならば、From-Toの戦略を立てるのに1年もかけるべきではなく、踏み出すこと自体を重視するべきだと言えます。どれほど事前に正解を考え出そうとしても、DX戦略にせよ人材計画にせよ、組織にとっては初の試みです。いまだ誰も経験したことがないことに踏み出すのです。ならば、想像に想像を重ねることに時間をかけるよりも、動き出すことを選択したほうが、よほど「その次の判断や行動」をより適切にする情報が得られるはずです。

 DXの名の下に組織が取り組むべき施策、計画は数多く挙げられることでしょう。業務のデジタル化、人材のトランスフォーメーション、ビジネスの変革、いずれも必要なことで、よどみなく進めていく必要があるのは確かです。しかし、そうしたこと以上にこれからの組織が基礎として身に付けることは適応を可能とする「動き方」です。反復に基づき「ふりかえり」「むきなおり」といった動き方が取れなければ、組織はFrom-Toの間でたやすく迷走し始めることでしょう。組織にアジャイルの「動き方」を宿すための試みを、より詳しくは書籍「組織を芯からアジャイルにする」で確認していただければと思います。

276ページを1枚で、組織を芯からアジャイルにする

著者プロフィール:市谷 聡啓

株式会社レッドジャーニー 代表 / 元政府CIO補佐官 / DevLOVE オーガナイザー

大学卒業後、プログラマーとしてキャリアをスタートする。国内大手SIerでのプロジェクトマネジメント、大規模インターネットサービスのプロデューサーやアジャイル開発の実践を経て独立。現在は日本のデジタルトランスフォーメーションを推進するレッドジャーニーの代表として、大企業や国、地方企業のDX支援に取り組む。新規事業の創出や組織変革などに伴走し、ともにつくり、課題を乗り越え続けている。訳書に「リーン開発の現場」、おもな著書に「カイゼン・ジャーニー」「正しいものを正しくつくる」「チーム・ジャーニー」「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」がある。


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