人的資本を活かせるのは、人材をやりくりして管理で結果を出す「強いボス」から、人に頼ったり任せたりすることで結果を出す「弱いリーダー」へ。
世界のトップ企業は確実に「人的資本経営」へと舵を切っています。
人的資本を活かせる企業とそうでない企業との差は開くばかりです。
世界の時価総額ランキングを見ると、アップル、マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、テスラ、メタ……など、ソフトウェアやプラットフォームに強みを持つ企業がトップにずらりと並びます。
これらの企業に共通するのは、人材や知財などの無形資産から価値を生み出していること。その源泉は人間の持つ知識や技術や発想、つまり人的資本です。
この「人的資本経営」の潮流に、日本の企業は乗り遅れていると言わざるを得ません。かつて日本の製造業を世界一に押し上げたのは、日本的経営といわれる強固な仕組みでした。属人的な能力に頼らず、均質な製品やサービスを提供する。それは圧倒的な強みでしたが、人の個性や多様な能力を活かすことには不向きで、人的資本への投資が進んでいないのが現状です。
例えば「S&P500」と「日経225」の市場価値に占める「有形資産」「無形資産」の割合を比較してみると、日本企業の持つ資産が設備や建物、現金などの有形資産に偏っていることが明確に分かります。
また、働く人の価値観も変化しています。近年の働き手は経済的、物質的な豊かさだけでは仕事を選びません。自己成長や自己実現、あるいは社会貢献に働く価値を求めています。自分が働く意義や、自分の能力を活かす「自己効力感」がモチベーションになります。
これは若手だけに限りません。40代以上の中高年世代も「自分はこのままでいいのか」「自分はどうあるべきなのか」とキャリアを考え直したり、学び直したりするケースが増えています。
いま、日本の企業も「人的資本経営」へと大きく変革せざるを得ない地殻変動が起きています。
事業には、人の力によるイノベーションが必要です。
投資家は、人に投資しない企業を「未来のない企業」とみなします。
個人は、働く意義や自己成長のない企業からは流出します。
社会は、人の多様性を尊重しない企業を見放します。
「企業は人なり」はもはや単なるお題目ではないといえるでしょう。
日本企業の「人的資本経営」はまだ始まったばかりで、現状は人的資本情報の開示や戦略策定が議論の中心です。しかし今後実行にあたっては、現場の働き方、特に管理職以上のリーダーの役割が大きく変わります。
より効果的に人的資本を活かせるのは、人材をやりくりして管理で結果を出す「強いボス」ではなく、どんどん人に頼ったり任せたりすることで結果を出す「弱いリーダー」です。
弱い、というと語弊があるかもしれませんが、自分の弱点や未熟さを素直に受け入れて、外部の知見やスキルを積極的に取り入れる柔軟性は、人的資本を活かす大切な資質だと思います。
かつての終身雇用・年功序列のピラミッド型組織では、管理職が知識も経験も秀でているのが普通でした。また、仕組み化と分業が確立された仕事では、業務に専門特化した能力を磨き上げればよく、多様な力を活かす必要はありませんでした。
ところがいまは、終身雇用・年功序列を維持することが難しくなり、年齢もバックグラウンドもまるで異なる人材が組織内に混在するようになっています。
仕事も、ツールが多様化し、情報量は爆発的に増え、処理するスピードも加速して、どんどん複雑化しています。
もはや管理職一人が、自分の持てる知識や経験、スキルの範囲で「やりくり」するには限界があります。むしろ自分には分からないこと、できないことを部下の「強み」として発見し、ときには組織の外から人的資本を取り入れて新たに価値を生み出すことが、これからの管理職の仕事です。
それでは、人的資本時代における管理職は、どのような存在になっていくのでしょうか。私が考える方向性をひと言でまとめると次のようになります。
「資源」をやりくりするポジション
↓
「資本」から利益を生み出すファンクション
従来の中間管理職とこれからの管理職はまったく違う仕事になります。
私たちはそこで、「人的資本経営」の時代における管理職を「チーム経営責任者」あるいは「TMO(Team Management Officer)」と呼んでいます。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授