テクノロジーとお客さまの理解が進めば、出来ること、可能性もより広がっていく――J.フロントリテイリング 野村泰一氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

J.フロントリテイリングのチーフ・デジタル・デザイナーである野村泰一氏は、独自の人財育成プログラムでコア人財を育成しながら、同時にアバターロボットを現場でどのように使えばもっとも効果的か、その可能性を探っている。DXの実現に向けて走り始めたJFRの取り組みについて、ITmediaエグゼクティブのプロデューサーである浅井英二が話を聞いた。

» 2023年03月14日 07時01分 公開

 J.フロントリテイリング(以下、JFR)は、百貨店の大丸と松坂屋が経営統合して2007年に生まれた持株会社だ。現在はファッションビルのパルコも傘下に収め、2021年度からスタートした中期経営計画では、3つの重点戦略の1つに「リアル×デジタル戦略」を掲げ、昨年度からは独自に開発した人財育成プログラムによるコア人財の育成や現場のワークショップを実施し、変革に取り組んでいる。

 同社でグループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナーを務める野村泰一氏は、これからのデジタル変革(DX)を担う人づくりを行う一方、店舗や催事でアバターロボットを活用することで顧客に新しい価値を提供できないかと考え、その可能性も探っている。攻めの経営戦略に転じたJFRがその打ち手の核ともいえるDXついてどのように取り組んでいるのか野村氏に話を聞いた。

人財育成のポイントは、スキル、ナレッジ、マインドの3つ

J.フロントリテイリング グループデジタル統括部 チーフ・デジタル・デザイナー 野村泰一氏(提供:永山昌克、Darsana)

 テクノロジーやデータを活用するためには人財育成が極めて重要になるのは言うまでもない。その人づくりに欠かせないのが、「スキル」「ナレッジ」「マインド」の3つだと野村氏は考える。スキルも重要だが、例えばデータサイエンティストのスキルを一部門の業務プロセスだけに使っているのでは十分に活かしきれない。そこで一部門の課題だけを見るという「マインド」を刷新し、会社全体の業務を理解する「ナレッジ」を習得することで、身につけたデータに関するスキルを最大限に生かすことができる。「三位一体」の取り組みが同社の人財育成の最大のポイントとなる。

 現在、JFRではデジタル化の領域で活躍する人財として、「データアナリスト」と「デジタルデザイナー」という2つのタイプのコア人財を定義して、グループデジタル統括部を中心に人財育成プログラムをスタートしている。データアナリストは、統計解析のナレッジをベースに、BIツールなどを活用してデータを分析し、ビジネスレポートや施策の立案、評価などを行う人財。デジタルデザイナーは、ビジネスとテクノロジーの両方のナレッジを生かし、課題や戦略に基づいたビジネスデザインを行う人財である。

2つのコアデジタル人財

 2022年12月よりスタートした人財育成プログラムは、まずはパルコとJFR本社で3カ月のタームで実施し、2023年2月末で1期生のプログラムが終了した。例えばデータアナリストのプログラムには、デジタルデータを使って課題に対する解を導き出す「PBL(Project Based Learning:課題解決型学習)」を採用。一方、デジタルデザイナーは、店舗のスタッフにインタビューをし、現場観察をして課題を見つけ、それを解決するビジネスデザインを考える。どちらのプログラムも、スキルを取得するだけでなく、現場で生かせるマインドとナレッジを身につけることができる実践的なプログラムに仕立てられている。

目指したのは現場で自走しながらCoEのようにつながる人財育成

 3月からは2期生のプログラムもスタートした。1期生は10人だったが、2期生はもう少し規模も拡大される。野村氏は、「2024年までに100人、2030年には1000人の人財を育成する計画ですが、トレーナーの育成も必要になります。また、100人のコア人財を育成しても、習得したスキルを実際に現場で活用できなければ意味がありません。そこでプログラムの一部を切り出したデザイン思考や問題解決に関するワークショップを並行して開催し、現場の底上げも図っています。受講者はすでに500人を超えています」と話す。

 一般的に人財育成の考え方は、コア人財を1箇所で集中的に育成するCoE(センター オブ エクセレンス)型か、現場で自走させながら育成するかの大きく2つがある。JFRでは、現場で自走しながらもCoE型のようにつながっている人財育成を目指している。

「わたしたちは“バーチャルCoE”と呼んでいます。現場での自走とCoE型の“いいとこ取り”です。CoEだけではコア人財と現場との乖離(かいり)が生まれ、現場だけだと現場のやり方にコア人財が埋没してしまう課題を防ぐことができます。2月にプログラムが終了した1期生、今後は2期生、3期生、その次とずっとつながっていきます」(野村氏)

 さらに複数のグループ企業が参加した現場の人財育成ワークショップも意図的に実施したり、今後は経営層向けにデジタル化を体感してもらえるプログラムも実施する予定だ。グループ企業への横展開だけでなく、ボトムアップ、トップダウンの両面からも人財育成プログラムを充実させていく計画だ。

 「先日、博多大丸とパルコの2店舗合同でワークショップを実施しています。1つの課題に対し、同じ地域の合同チームで解決策を考えてもらい、発表してもらうことで横のつながりが生まれます。同様の取り組みは札幌でも実施する計画ですし、今後は、百貨店以外のグループ企業も巻き込んでいく計画です。違う会社のメンバーが出会うことで、新たな価値が生まれることが期待できます」(野村氏)

アバターロボットによるリモート接客対応の実証実験を実施

 野村氏はデジタルデザイナー育成プログラムを進める一方、アバターロボットを活用した、店舗および催事におけるリモートでの接客対応の実証実験も行っている。実証実験では、アバターイン社のアバターロボット「newme(ニューミー)」を2022年10月〜2023年2月末の期間でレンタルし、12月のJFR本社イベントでお披露目。まずまずの反応だったことから、1月に神戸の大丸インテリア館[ミュゼ エール]にアバターロボットを持ち込み、店舗編と催事編という2つのシナリオでその効果を確認したり、課題を洗い出した。

催事会場でのアバターロボットによるリモート接客対応の実証実験

 野村氏は、「広大なスペースがあり、在庫が豊富な神戸の大丸インテリア館にアバターロボットを設置し、京都店と心斎橋店のスタッフに操作してもらう実証実験を実施しました。まずは使ってもらい、体験として価値があるか、操作して楽しいかなどを検証してもらいました。その後、2月に東京と大阪のイベント会場を相互につないだテストも実施しています」と話す。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆