テクノロジーとお客さまの理解が進めば、出来ること、可能性もより広がっていく――J.フロントリテイリング 野村泰一氏デジタル変革の旗手たち(2/2 ページ)

» 2023年03月14日 07時01分 公開
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 店舗で催事を開催する場合、顧客に催事会場まで足を運んでもらう必要があり、それが商機を逃すことにもつながってしまう。顧客がアバターロボットを自宅から操作できれば、出掛けることなく催事会場の商品を自由に見ることができるし、東京の店舗と大阪の店舗で催事を開催しているときに、大阪にしかない商品を東京の店舗に来店した顧客に見てもらうことも可能だ。それぞれの店舗や催事場にいるスタッフが接客し、商品の説明を行えるため、いわゆる「バーチャルショールーム」とは違った体験が提供できるのが大きな特徴だ。

アバターロボットを活用したアイデア〜催事編

 ネット越しに接客することもできるため、必ずしもスタッフが店舗にいる必要はない。通勤時間の削減やリモートワークの実現など、働き方改革も推進できる。言語の制約や営業時間の制約を受けることもなくなるといった利点も考えられる。

アバターロボットを活用したアイデア〜店頭編

 「店舗や催事における接客対応には、さまざまな課題がありますが、アバターロボットがあればこれまでとは違ったアプローチが可能になるのではないかと考え、JFR本社主導で進めてきました。店舗の課題に本社が向き合うのは異例ですが、検証の様子は人財育成プログラムも含めて社内ポータルで発信することで、1つの店舗の成果を全社で共有することができ、将来的には会社全体に広がっていくことが期待できます」(野村氏)

アバターロボットだから分かる情報を可視化して面白い価値を提供

 アバターロボットの実証実験では、いくつかの課題も見えてきた。例えば、商品の色合いや質感などを伝えるのは限界があることから、店員とのコミュニケーションでそれを補うことが成り立つのか、また技術的には、PCのスペックやネットワークスピードの問題、専用アプリをインストールするなどの課題があり、これらも解決する必要がある。

 野村氏は、「今回は、どんな時にトラブルが発生するのかを注意して見たり、アバターがどれくらいの段差なら移動できるかの実験も行い、検証結果に基づいてマニュアルを作りました。アバターロボットの活用には、さまざまなデザインがあると思っています。将来的には走行情報やお客さまの目線情報などを利用することで、買わなかったけどすごく見ていたとか、ヒートマップから導線を分析するなど、アバターロボットだから分かる情報を可視化できれば新たな価値を提供できると考えています」と話す。

 もちろん今回の実証実験でも多くの効果が確認できた。店舗スタッフがヘッドセットをつけ、顧客がアクセスしているアバターロボットに対して接客対応することで、JFRの強みである「接客力」を生かしながら、距離を越えることができ、店舗や催事イベントにおいて、これまではアクセスできなかった顧客にも買い物の体験を提供することができた。

 「店舗スタッフは、ヘッドセットをつけてアバターロボットとBluetoothでつながっているので距離にかかわらずお客さまと会話できるのですが、面白かったのは、アバターロボットに話し掛け始めるというシーンがあったことです。しかも顔を近づけて、ひそひそ話をしていました。ロボットに感情移入して、自然と人と同じ接客対応になっていきました」(野村氏)

 来店した顧客への接客と同様、一人ひとりに寄り添う「アバター接客」とも呼べる新しい考え方が生まれ、会社の文化を変えていくことも期待できそうだ。この取り組みは、単に課題を解決しようとするワークショップではなく、有形無形の資産を生かし、新たなアイデアを生み出すワークショップのひとつの在り方だという。

 野村氏は、「テクノロジーによる無人化を実現するにはもうしばらく時間がかかりますが、今ある人財の強みを生かしながら、今あるテクノロジーを活用することで、新たな価値を生み出していくことが、われわれの定義しているデジタルデザイナーの役割だと思っています。単に絵を描いているだけだと信用してもらえませんが、実際に動くものを見せれば考え方も変化します。難しい決裁文書を書く前に、検証結果を見てもらうこと。そして、現場と一緒に成果を広げていくプロセスがすごく大事だと感じています」と話している。

聞き手プロフィール:浅井英二(あさいえいじ)

Windows 3.0が米国で発表された1990年、大手書店系出版社を経てソフトバンクに入社、「PCWEEK日本版」の創刊に携わり、1996年に同誌編集長に就任する。2000年からはグループのオンラインメディア企業であるソフトバンク・ジーディネット(現在のアイティメディア)に移り、エンタープライズ分野の編集長を務める。2007年には経営層向けの情報共有コミュニティーとして「ITmedia エグゼクティブ」を立ち上げ、編集長に就く。現在はITmedia エグゼクティブのプロデューサーを務める。


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