変わらないと、LIXIL 2万人超えのテレワーク支援を内製エンジニアでやりきる――LIXIL IT部門 基幹システム統括部 統括部長 岩崎 磨氏緊急特集 デジタル変革の旗手たち――テレワーク対応編(1/2 ページ)

テレワークの実現に向けさまざまな技術やサービスを活用したが、かねてよりいつでもどこでも働ける制度とシステムを整えてきたからこそ、短期間で一気に移行できた。

» 2020年06月08日 07時03分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 コロナと共存する「ニューノーマル時代」の幕が上がり始めている。世界中の企業が同時に同じ試練と向き合い、次の戦い方を模索する中、やはりグローバルの猛者たちの動きは速い。今、企業に求められるのは、変化への対応力と、そのスピードではないだろうか。

 「高い製造技術、品質を誇りながら、デジタルの力不足によって押しつぶされてしまう企業は今後出てくるだろう」――そう危惧するのは、LIXIL IT部門 基幹システム統括部長の岩崎 磨氏だ。「LIXILは、衛生問題にコミットするプロダクトを作っているからこそ、もっと成長しなければならない。優れたプロダクトを世界に届けるために、デジタルはこう活用すればいいというのを証明していきたい」(岩崎氏)

 日本企業が再び勢いを取り戻し、愛されるプロダクトを世界中の人に届け続けるためにできることは何か? 岩崎氏へのインタビューからそのヒントを探る。

インタビューはZoomで行われた。岩崎氏の背景は、LIXILが無料で提供するバーチャル背景画像だ。「あら、いいお部屋に住んでますね」なんて会話が弾むかもしれない。

2年前に着手した「ゼロトラスト」で2万人超えのテレワークを実現

 LIXILグループは政府の要請に先立ち、テレワークへの移行をスタートした。約5000人が在籍する東京本社では、3月2日までに50%以上、3月27日までに85%、緊急事態宣言が発令された翌日の4月8日には、98%の社員がテレワークに移行した。国内で2万人超えのテレワークを実現している。

 「かねてより、いつでもどこでも働ける制度とシステムを整えてきたからこそ、短期間で一気に形にできた」と岩崎氏は振り返る。「2万人以上のテレワークを実現するため、今回さまざまな技術やサービスを使いましたが、全て導入済みのものでした。社内でアルファテストくらいまで済ませていた概念を緊急でリリースできるところまで持っていき、綱渡りながらも段階的にアップデートをかけていきました」(岩崎氏)

 例えばリモートアクセスに関しては、2年前から、Akamaiが提供するEnterprise Application Access(EAA)の導入を進めていた。2年前というと国内では非常に早いタイミングで、Akamaiと共同開発していくような気持ちで始めたという。

 EAAは、クラウドやDCなど複数の環境に分散した業務アプリケーションへのセキュアなアクセスを実現するソリューション。アプリケーションへのアクセスには常に認証・認可を行うゼロトラストモデルをベースとしている。選定理由は、テレワークに限らず、セキュリティ強化や業務効率化などDXに関わる複数のニーズに応えることだったが、これが今回、短期間で2万人超えのテレワークを実現できた一つの要因となった。

 EAAの強みは、クラウドベースのスケールアウトアーキテクチャであることだ。これがVPNのままだった場合、テレワーク社員が増えるたびに増強が必要で、容易にスケールアウトできない。これは今回、多くのIT部門が直面した課題だろう。急速に進んだテレワークは、ファイアウォールやVPNといった従来型のネットワーク設計がはらんでいた弱点を浮き彫りにした。これを契機に、先進企業や重要インフラ事業者を中心に、ゼロトラストモデルを検討・採用する動きがあると聞く。LIXILでは、一部のレガシーシステムを除き、基幹システムも含めてほぼEAAでアクセスできるようすでに移行を進めている。なぜここまで周到に準備ができていたのだろうか。

「変わらないと、LIXIL」

 実は、新型コロナ以前から、LIXILを取り巻くビジネス環境は決してかんばしくなかった。同グループの売上収益の約7割を占めるのは国内事業だ。しかし、日本の人口は減少の一途。住宅の新規着工件数が増える見込みはなく、この先10年で著しく売上が落ちると見られていた。

 グローバル化やリフォーム需要に力を入れる一方で、同グループのCEO 瀬戸欣哉氏は、国内事業活性化に向けての新方針「変わらないと、LIXIL」を打ち出した。「顧客志向に変える」「キャリアを変える」「働き方を変える」の3つを重点テーマに、ニーズを捉えたプロダクト開発によって差別化を強め、年功序列ではなく実力主義に転換することを示した。外部環境に左右されず、持続的に成長できる組織づくり、それを支えるシステムの構築は急務だったのだ。

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