デジタルで20世紀型の産業構造を変革する――ラクスル 松本恭攝氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

伝統的な産業にデジタルテクノロジーを持ち込むことで、20世紀型のアナログな産業構造を変革し続けるラクスル。より適切なテクノロジーを導入し、顧客の課題に向き合い解決することで顧客のDXを着実に推進している。ITmedia エグゼクティブ エグゼクティブプロデューサーの浅井英二が話を聞いた。

» 2021年10月28日 07時04分 公開

 20世紀型産業にデジタルテクノロジーを融合させ、その産業構造を変えることで、世の中をより良くしていくことを目指すラクスル。創業はリーマンショック後の2009年。B2Bプラットフォーマーとして、需要と供給をマッチングさせ、従来の営業を介した取引に比べ、取引コストを最小化させる取り組みを推進してきた。同時に、パートナーや顧客の業務、オペレーションに入り込み、そこで生じるコストの最小化に取り組むことで、新しい価値をデマンド側、サプライ側双方に提示することで急成長。2014年7月にラクスル初のTVCMの放映を開始し、2018年には東京証券取引所マザーズに上場した。干支がひと回りした創業13年目の今年、コロナ渦で自らが直面した課題を解決すべく事業開発した「ジョーシス」をスタートさせた。

 創業に至った思いや経営理念、成長戦略、DXの取り組み、今後のビジネスモデルなどについて、代表取締役社長CEOである松本恭攝氏に話を聞いた。

ラクスル 代表取締役社長CEO 松本恭攝氏

印刷業界の問題を解決することで世の中に貢献

 「大学卒業後、新卒で外資系の経営コンサルティング会社に入社したのですが、2008年〜2009年のリーマンショックのときに、大企業のコスト削減プロジェクトを担当しました。このとき、印刷業界がもっともコスト削減効果を出しやすく、業界的、構造的な非効率をビジネスとして改善できるのではないかと考えました。この経験が、創業のきっかけにつながりました」(松本氏)。

 2009年9月、印刷の新しい発注の仕組み作りを目的に設立されたラクスル。「仕組みを変えれば、 世界はもっと良くなる」という創業のビジョンに基づき、当初は印刷通販の価格比較サービスサイト「印刷比較.com」の運営を開始。2010年9月には、印刷比較.comを「ラクスル」に名称変更した。その後、2013年3月に印刷のシェアリングプラットフォーム「ラクスル」の運用を開始している。

 印刷業界の問題を解決することで、世の中に貢献できると考え創業したが、創業から12年たった今でも、多くの産業がテクノロジーの変化に対応できていない。それらの産業構造は、その産業が興された75年前や150年前のまま、その延長線上で発達してきたためだ。

 しかし、1995年にWindows95が登場し、広く一般にもインターネットが普及したことで、この四半世紀でテクノロジーの進化が、社会制度の進化より、はるかに速いペースで進んでいる。松本氏は、「デジタルテクノロジーを前提として、多くの産業の構造が今よりもはるかに便利で効率的なものに生まれ変わることが必要なタイミングにきています」と話す。

 デジタルテクノロジーを活用し、社会や産業を再定義する取り組みは、まさにDXそのもの。これまでの産業の仕組みは、「ビフォア」ソフトウェアテクノロジーの時代のものであり、「アフター」ソフトウェアテクノロジーの時代は、産業の在り方、業務の在り方、生活の在り方など、さまざまなものがデジタルにより再定義されるはずだ。「これこそが、仕組みを変えれば、世界はもっと良くなるというラクスルのビジョンそのものです」と松本氏。

新規事業はマクロとミクロの2つのパターンで開発

 ラクスルでは、印刷のシェアリングプラットフォームに続き、2015年12月に物流のシェアリングプラットフォーム「ハコベル」を、2020年4月に広告のプラットフォーム「ノバセル」を、2021年9月にコーポレートITのプラットフォーム「ジョーシス」の提供を開始している。同社の新規事業のアプローチは、産業構造全体を捉えて参入するマクロのパターンと、身近な問題から入っていくミクロの2つのパターンがある。

 「ハコベルは、物流業界の非効率を解消するというマクロのパターンから入った事業です。運用型テレビCMサービスのノバセルも同様に、マクロのパターンからです。従来難しいとされていたテレビCMの広告効果測定をリアルタイムで可能にし、広告投資の見える化を目的としています。テクノロジーを活用することで、テレビCMはオープンで透明化され、今後は費用対効果を測ることができる有望なチャネルになると考えています」(松本氏)。

 一方、ジョーシスは自らが直面した課題からスタートしている。新型コロナウイルス禍により、ラクスルも2020年5月のピーク時は売上の4割減に見舞われた。マーケティングコストやシステム開発コストなどの変動費を削減して雇用を守る必要に迫られたが、情報システム部のアウトソーシングコストは15%程度しか削減できなかった。こうした課題を実体験として痛感した松本CEOは、その解決を目的にジョーシスをスタートさせた。

 「情報システム部は、業務の幅が非常に広く、人による対応が多くありました。自動化が進んでおらず、作業が非常にアナログでした。自動化できる要素はたくさんあるのに、人が対応していることで、情報システム部のメンバーが生産性の低い業務に工数を費やさざるを得ない状況でした。この部分を自動化することで、情報システム部の生産性を向上し、働く満足度、および価値を向上させることができると考えました」(松本氏)。

 情報システム部門の仕事に関して、ヒアリングやサーベイをした結果、PCの購入作業、キッティング作業、SaaSの管理、資産の棚卸などに課題があった。例えば、100人分のキッティング作業を行う場合、まず1台のPCをセットアップし、残り99台にコピーして、動作確認が必要になるため、1人分の80倍、90倍の作業が必要になる。作業がアナログなので、人数が増えると生産性はさらに低下する。

 しかし、デジタル化されれば、この課題は簡単に解消される。例えば、デジタル化以前の情報検索は、まずは辞書を探すことが必要だったが、デジタル化により、検索サイトで簡単に検索でき、多くの時間を短縮することができた。これがまさに自動化だ。人の判断が発生しない部分は自動化できる領域なので、自動化により、生産性の向上、ミスの低減、セキュリティの強化などの効能が期待できる。

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