太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用が進む中、寿命を迎える太陽光発電用ソーラーパネルの大量廃棄問題が懸念されている。
太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用が進む中、寿命を迎える太陽光発電用ソーラーパネルの大量廃棄問題が懸念されている。パネルは製造の際に強力な接着剤を使っているため、分別解体が難しいが、環境負荷の少ない熱分解方式を用い、部材の再利用を可能にする処理装置の開発に、岡山県新見市の「新見ソーラーカンパニー」が成功。昨年12月に普及モデルを発表した。同社の佐久本秀行社長は「国内のソーラーパネルを再生して半永続的に循環させるサイクルを構築したい」と意気込んでいる。
政府は令和32(2050)年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すと宣言。同年度の太陽光発電の導入量は4年度末の約6倍の400ギガワットと予測されている。
平成24年の再生可能エネルギーの「固定価格買い取り制度(FIT)」の導入を受け、国内での太陽光発電は急拡大。令和4年度末の導入量は累計87ギガワットで、中国や米国に次ぐ世界3番目の規模となり、国内の全発電電力量の1割近くを占めるまでになった。
一方、発電用のソーラーパネルの耐用年数は20〜30年で、2030年代半ば以降、寿命を迎えたソーラーパネルの大量廃棄が予想されている。既に発電効率の向上を狙って最新機器に置き換える「リパワリング」が進んでおり、大量廃棄の時期が早まる可能性もある。
新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの調査では令和18(2036)年の廃棄量は年間17〜28万トンに上ると予測され、国はソーラーパネルのリサイクル義務化の検討を進める。
リサイクルを阻む要因がパネルの構造だ。ガラスや太陽電池セル、銅線などの部材は強力な接着力を持ったEVA(エチレン・ビニル・アセチレート)で固着され、素材の分別解体が難しい。
佐久本社長は「ガラスやセルシートに接着剤が残った状態では完全な分別は難しい」と指摘し、「現在の主な処分方法は埋め立てや再利用のための輸出だが、処分場は2030年代半ばには逼迫(ひっぱく)する」と危機感を示す。
これに対し、新見ソーラーカンパニーが開発した佐久本式熱分解装置は「高温の水蒸気を利用するため燃焼工程がなく、二酸化炭素を出さずにガラスや銅線、電池セルを高純度で分別抽出することが可能な世界初で唯一の装置」(佐久本社長)だ。
また、同社は廃棄されるパネルの大半が割れていないことに着目。昨年12月に1日当たりの処理枚数を増やしながら機能を絞り込むことで価格を抑え、さらに部材のガラスを板ガラスのまま取り出すことが可能な普及モデルを発表した。
10代の頃、「どこにいても誰にでも平等に降り注ぐ太陽のエネルギーで発電する方法に感動を覚えた」という佐久本社長は平成21年に新見ソーラーカンパニーを設立。自社製パネルの製造販売などを手がけるうち、廃棄パネルの行く末に疑問を抱き、「メーカーとして最後まで責任を持つべきだ」と考えた。29年から倉庫にこもって試行錯誤を重ね、約5年かけてパネルの部材を高純度で抽出できるようになった。
廃棄パネルから取り出した部材を使って新品パネルに再生(リボーン)するサイクルの確立を目指し、同社が令和4年に設立したのが、岡山県西粟倉村に事務局を置く一般社団法人「PVリボーン協会」。協会は「岡山モデル」として、9年にも県内にパネルを再生・新生するリボーンパーク(工業団地)を開設。大量廃棄時代に備えてリボーンパークを全国に広げていくとともに、世界市場での国産パネルのシェアを高める計画を描く。
西泰行代表理事は「産官学オールジャパンで連携を図り、『日の丸ソーラーリボーン』として日本での資源自立経済の推進、持続可能な社会の基盤構築を目指す。『岡山モデル』を成功させたい」と強調。佐久本社長は「美しい地球を次の世代にバトンタッチするのが私の願いだ」と話している。(和田基宏)
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明治学院大学 経済学部准教授