料理などの商品の配送をロボットが担う「ロボットデリバリー」が各地で始まっている。インターネット通販の拡大で宅配需要が増える一方、少子化や働き方改革でドライバー不足が深刻化。
料理などの商品の配送をロボットが担う「ロボットデリバリー」が各地で始まっている。インターネット通販の拡大で宅配需要が増える一方、少子化や働き方改革でドライバー不足が深刻化。改正道路交通法の施行で自動配送ロボットの公道走行が可能となったが、普及には安全確保や緊急事態への対応、配送効率の向上など課題も多い。
「ロボットが動きます。ご注意ください」と周囲に呼びかけながら、赤信号で停止、青に変わると横断歩道を渡る−。宅配代行大手のウーバーイーツが昨年11月14日、人工知能(AI)搭載の小型配送ロボットの運用を大阪市内で始めた。同年3月に導入した東京に次いで全国2カ所目だ。
スマートフォンの専用アプリからの注文に従って店員が料理などをロボットに積み込むと、ロボットは歩道を走って顧客のもとに到着。顧客はアプリで開錠し、受け取る。大阪では午後9時までの夜間注文に同社として初めて対応している。
最高時速5.4キロと人の歩く速度よりやや速い。高度なAIとアルゴリズム(計算手法)を活用し、障害物を検知する距離測定カメラを3台搭載してスムーズな走行が可能になっている。
万一の事故や盗難など緊急時に備え、高解像度カメラ4台で常に遠隔監視し、救急や警察に連絡する態勢を敷いている。配達員と同様、事故やトラブルの際は損害賠償保険が適用される。
かつて、ラーメンや丼などの出前風景は街で当たり前にみられたが、現在は飲食店の人手不足が常態化し、配達員を出す余裕のない店が増えた。配達員の勤務時間を適正化することで人手が足りなくなる「2024年問題」も深刻だ。
一方、ネット通販が普及し、小口の配達需要は拡大。新型コロナウイルス禍の影響も残り、料理の宅配ニーズも膨(ふく)らんでいる。過疎地では、店まで出かけるのが困難な高齢者が増えている。
こうしたニーズをとらえたロボット配送は米国や中国で先行し、国内では日本郵便や川崎重工業など8社が22年、社会実装に向けた安全基準などを策定する「ロボットデリバリー協会」(東京)を設立。23年4月に改正道交法が施行され、小型配送ロボットは遠隔から監視・操作することで届け出のみで公道(歩道)を走れるようになった。
同協会の会員である楽天グループは昨年11月から東京都内で配送ロボットの運用を始め、パナソニックホールディングスは神奈川県内で同月、吉野家や出前館との共同実証実験を実施した。
真にドライバー不足を補うには、配送効率の向上などが課題だ。小型ロボットは狭い歩道でも走れる半面、速度が遅く、積載量は少ない。米国や中国では中速・中型の導入が進み、米カリフォルニア州では時速40キロで車道を走行している。
京セラコミュニケーションシステムは最高時速15キロ、積載量90キロの中型ロボットの実証実験を進めている。同社は「法令やインフラが未整備で、地域の理解も必要」としており、時間をかけて実用化を模索する方針だ。
4月に開幕する2025年大阪・関西万博では、大阪大大学院の石黒浩教授(ロボット工学)が出展するアンドロイド(人間型ロボット)のほか、輸送や通訳、受け付け、警備、歩行支援など多様な場面で、さまざまなロボットが登場する。
電子部品大手アルプスアルパインなどの企業連合と日本科学未来館(東京)は、自律型誘導ロボット「AIスーツケース」を会場で運用する。目の不自由な来場者が声で指示すれば、目的地まで誘導してくれる。
竹中工務店などの企業連合は、水上の自動運転船「海床(うみどこ)ロボット」を披露する。3メートル四方の床(ゆか)の形をし、人を乗せて運ぶことができる。将来的には都市部の河川などで人やモノの輸送に活用することを想定している。
大阪メトロは会場でのバス運行を計画し、特定条件下で運転手が不要になる「レベル4」と呼ばれる高度な自動運転を行う。
日本総合研究所の藤山光雄・関西経済研究センター所長は「万博は未来社会の実験場であり、失敗を恐れず新技術を試すことができる」と指摘する。(田村慶子、黒川信雄)
自動配送ロボットの普及を考える上で最も懸念されるのは「道路空間」だ。運用中の小型配送ロボットは最高時速6キロで、歩道を走るのは問題ない。ただ、実験では許容範囲だとしても、ビジネスとして成り立たせるのは難しいといわざるを得ない。
採算性を考えれば、スピード向上が欠かせないが、安全をいかに確保するかが課題となる。歩道は歩行者の優先度が最も高く、高齢者や子供も安全に歩けることが重要であり、人間が制約されない空間であるべきだ。
ビジネスとして運用するには、車道空間に配送ロボット用のスペースをつくらねばならない。米国では時速約20キロの小型ロボットの歩道走行を認めた地域もあるが、日本では難しく、将来的には車道を走らせる方向で検討すべきだ。
配送ロボットは「買い物弱者」が多い過疎地での活用も見込まれる。社会で受け入れるにあたっては、搭載カメラや遠隔監視の仕組みを生かし、歩行者の安全確保や高齢者の見守りなど複数の目的を遂行して公共性を高めることが重要だ。(聞き手 田村慶子)
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