デジタル化へ突き進む日清食品、データ活用、内製化、会社の枠を超えた次なる挑戦を直撃――日清食品HD 情報企画部 次長 成田敏博氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

創業者の安藤百福氏から連綿と受け継がれるイノベーターのDNAがデジタル変革にも及んだ今、キーパーソンは何に取り組み、次にどのようなアクションを起こそうとしているのか。

» 2020年09月14日 07時29分 公開
[酒井真弓ITmedia]

 経済産業省と東京証券取引所は8月25日、デジタル技術を活用してビジネスモデルや業務、組織を抜本的に変革し、競争力につなげている35社を「DX銘柄 2020」として選出した。前身の「攻めのIT経営銘柄」を含めこれが初選出となる日清食品ホールディングスは、ここ5年ほどで急速にIT化を進めてきた。社内会議にPCを持って集まるようになったのも、ほんの2、3年前だという。

 日清食品グループといえば、遊び心のある新商品や攻めた表現のテレビCMでお茶の間に話題を振りまき、コロナ禍でも過去最高売上、最高利益を記録。6月には時価総額が1兆円を超えた。創業者の安藤百福氏から連綿と受け継がれるイノベーターのDNAがデジタル変革にも及んだ今、キーパーソンは何に取り組み、次にどのようなアクションを起こそうとしているのか。情報企画部 次長の成田敏博氏に話を聞いた。

日清食品HD 情報企画部 次長 成田敏博氏

デジタルを武装せよ

 昨今の日清食品グループの動きを整理しよう。2013年に今や「武闘派CIO」としても知られる喜多羅滋夫氏が初のCIOに就任すると、お助け役にとどまっていたIT部門を戦略部門にシフトさせ、レガシーシステムの刷新に着手した。15年には基幹システムとしてSAPを導入し、17年には40年使い続けたメインフレームを撤廃。19年にはオンプレミスだったSAPの基盤もMicrosoft Azureに移行した。

 並行して、18年からは「DIGITIZE YOUR ARMS(デジタルを武装せよ)」をスローガンに、社内標準PCを携帯性に優れたMicrosoft Surfaceへと移行し、Microsoft Teamsの活用もスタートさせた。また、VPNが必要なシステムを徐々になくしていき、クラウドサービス上で業務を完結できるようにするなど、20年に向けてテレワーク環境を整えていった。東京オリンピック期間中の出社制限に照準を合わせた取り組みだったが、これが今回、思いがけず新型コロナ対策として機能した。

2020年までの目標は、「エブリデイ・テレワーク」だった

 2月27日に国内グループ約3000人が原則在宅勤務となったが、混乱はほとんどなくスムーズにテレワークに移行できたという。多くの企業を悩ませた「VPN問題」も、日清食品グループは会計システムなど一部のシステムを残してほぼ解決済みだった。それらのシステムも、クラウド型のセキュリティサービスであるZscaler Private Accessの導入によって、近くVPNなしで使えるようになる予定だ。

 成田氏は、DeNAやメルカリといった先進ネット企業を経て、昨年12月、日清食品ホールディングスに入社した。日清食品グループのIT環境に対する第一印象は、「思っていたよりもデジタル化が進んでいる」だったという。いつでもどこでも仕事ができるプラットフォームが整いつつあり、ネット企業からの転職でもフラストレーションを感じなかったほどだ。

「出社しない」にとどまらない、紙とハンコをデジタル化する意義

 しかし、テレワークが長期化するにつれ、いくつかの問題が顕在化してきたという。

 「デジタル化が進んでいる一方で、紙とハンコの業務がかなり残っていました。以前から"脱・紙文化"の目標を掲げ、各部門がどれくらい紙を使っているかモニタリングし、減らす努力は続けてきたのですが、決裁や契約、申請などの業務に関しては、商習慣や取引先との兼ね合いもあり、"紙文化"が根強く残っていました。そこを今、ピッチを上げてデジタル化しているところです」(成田氏)

 申請書類に関して新たにワークフローシステムを導入。社外との請求書や契約書類に関しても、電子請求や電子契約等への移行を進めている。以前なら、「今までのやり方があるので……」とお茶を濁されていたものも、新型コロナを機に社会的機運が高まり、一気に進めやすくなったのは事実だ。

 「これら各種文書がデジタル化できると、さまざまな業務がデータ化されていくことになります。データ化されることでシステム間で連携が可能になったり、統計データにより業務にかかった時間やリードタイムなども把握できるようになります。業務の状況や各部門の負荷などが可視化され、問題があれば原因も探ることができる、デジタル化の先には、そういったデータの利活用も検討しています」(成田氏)

 データの利活用においては、社内に良い先行事例がある。18年に稼働を開始した日清食品の関西工場では、省人化・自動化を徹底したスマートファクトリーを実現している。ここでは、生産工程をIoTでデータ化し、集積した情報をAIで分析する取り組みにも着手している。

 「トップである安藤宏基CEO自身も、価値あるデータは資材調達や物流、販売といった生産以外の分野にも活用でき、ビジネス全体を効率化、高度化できるといった考えを持っているのです」(成田氏)

強烈なトップダウンのもと、各部門がDXを掲げている

 日清食品グループが怒涛(どとう)のようにデジタル化を進められる背景には、トップから発信される強烈なメッセージがありそうだ。トップ自ら、「デジタルを駆使して、生産、物流、営業、人事、資材といったあらゆる分野で事業構造改革(ビジネストランスフォーメーション)を進めていかなければ生き残れない」と危機感をあらわにしている。

 この考えは社内に浸透しており、各部門が「人事DX」「財務DX」などを掲げ、自部門の業務領域でデジタル化によって解決できそうな課題を見つけ、IT部門と連携しながら主体的に取り組んでいるという。

内製化を見据えたローコード開発

 だが、多くの非IT企業と同様、日清食品グループのIT部門もエンジニアリソースは限られている。ここで鍵となるのは、高度なコーディングの知識や経験を必要とせず、最小限のコーディングで迅速に業務アプリケーションを開発できるローコード開発ツールの活用だ。

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