「低利用魚」「未利用魚」などと呼ばれる、流通されにくく消費者の口に入りにくい魚介類。漁業や食の持続可能性を目指し、こうした魚介類を有効活用する飲食店が5月、高松市中央卸売市場「うみまち商店街」の観光交流拠点内に誕生し、話題になっている。
「低利用魚」「未利用魚」などと呼ばれる、流通されにくく消費者の口に入りにくい魚介類。漁業や食の持続可能性を目指し、こうした魚介類を有効活用する飲食店が5月、高松市中央卸売市場「うみまち商店街」の観光交流拠点内に誕生し、話題になっている。運営する旅行会社「JTB」の担当者は「フードロスの削減に貢献するとともに、観光交流拠点としての役割を発揮し、市中央卸売市場や瀬戸内海の魅力をさらに発信していきたい」とアピールする。
水産庁加工流通課によると「未利用魚・低利用魚は定義が難しい。食用・食品加工には向かず餌や肥料などに加工されるものはそう呼ばれているようだ。量の正確な統計はない」というが、一般的には「漁獲量が多すぎる、少なすぎる」「知名度がなく安い」「サイズが規格外」「処理の手間がかかる」などの理由で市場に出回りにくい魚介類を指す。瀬戸内海は魚種が多く、恵まれた漁場である半面、食材として扱いにくいハモやエイなども多くロスが生じていた。
JTB高松支店観光開発プロデューサーの山田裕木さんは「市場関係者との話の中でそのことを知った」といい、サステナブルをテーマに未利用魚や規格外野菜を中心に活用した飲食店の可能性を模索。市場で出る下処理後の魚介の端材などの活用しただしをベースにした料理を検討。「さぬき蛸」が有名で、タコの消費量が都道府県別で上位となっていることや、多様な具材でアレンジ可能なことから、創作たこ焼きを考案した。
店名は「NEO TAKOBALL STAND クセモノズ」。いりこやハモ、エイなど基本6種の具からおまかせで2種4個の創作たこ焼きや、「ナゾ唐揚げ」や「変わりポテトサラダ」といった未利用魚や規格外野菜による日替わり総菜を提供。ディナータイムには、自分たちで焼く「タコパプラン」を始めた。
水産庁の担当者は「未利用魚という言葉は15、6年前から水産白書でも触れられ、課題となっていたが、SDGsなど人々の意識の変化で注目度が高まった」とする。地域ごとに魚種は異なり、全国の漁港では気候変動の影響で漁獲量が減ったり、とれる魚種が変わったりしており、「とれる魚を無駄なく活用しようという流れがある」と指摘する。流通大手のイオンが「モッタイナイお魚シリーズ」を開発したり、水産庁の事業で各地の取り組みを支援したり、動きが活性化しているという。
今回の飲食店の入る施設は観光交流拠点「SICSサステナブルラウンジ」。令和元年度から高松港や周辺エリアの地域資源を活用しチャーター船による島旅の提供などを行っている高松支店が新たに、旅行者の交流スペースとして「地域と旅行者」「地域と企業」を結ぶコミュニケーションラウンジを設けた。これまで型絵染めやいけばななどの体験イベント、里海づくりを考える講演などを開催したほか、企業や団体のプロモーションスペースとしても利用可能だ。
運営や店舗プロデュースには、情報誌出版や飲食業などを展開する「ナイスタウン」や高松市内のデザイン会社「人生は上々だ」が協力。同社の村上モリロー社長によると、店名の「クセモノ」は、「『この魚はいい意味でもクセモノですね』という地元漁師の言葉がヒントになった」という。「サステナブルという言葉を意識して使わなくても実現できている社会を目指したい」と話した。
市中央卸売市場の青果棟は、7年に現在地から東に4キロほど離れた場所に移転予定。その青果棟の跡地に水産物棟を新築移転し、余剰地で海や船にちなんだ多様な活動ができるエリアを整備する計画もある。
JTBは市場への新たな人流創出、地域のにぎわいづくりを狙い、市と包括連携協定を締結。山梨県での観光交流拠点の整備など、地域の資源を活用した観光サービスの開発は全国の同社支店で進められているが、社会的課題のSDGsを意識したフードの提供や船旅の提案などは高松支店独自の取り組みだという。
浜田充支店長は「来年は瀬戸内国際芸術祭と大阪・関西万博が開催される。インバウンド需要も見据え、市中央卸売市場が持つ特性を生かし、持続可能な地域づくりに取り組んでいきたい」と意気込んでいる。
(和田基宏)
「クセモノズ」の営業時間はランチ・カフェ午前11時〜午後2時半ラストオーダー。ディナー(金、土、祝前日のみ)は午後6〜9時半ラストオーダー。水曜定休。
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明治学院大学 経済学部准教授