サントリーHDの鳥井信宏社長、ビール事業の国内シェア25%「達成しないといけない」

2030年の目標として掲げる国内酒類売上高1兆円達成に向け、ビール類を中心に付加価値の高い商品を投入し続ける方針を強調。人口減で縮小が続く国内市場でも販売数量を上積みしつつ、早期にビール事業でシェア25%を目指す考えも明らかにした。

» 2025年08月08日 14時01分 公開
[産経新聞]
産経新聞

 サントリーホールディングス(HD)の鳥井信宏社長が8日までに産経新聞の取材に応じた。国内外の成長戦略では、現時点では企業の合併・買収(M&A)ではなく、グループの既存ブランドへの投資に注力していく考えを示した。2030年の目標として掲げる国内酒類売上高1兆円達成に向け、ビール類を中心に付加価値の高い商品を投入し続ける方針を強調。人口減で縮小が続く国内市場でも販売数量を上積みしつつ、早期にビール事業でシェア25%を目指す考えも明らかにした。主なやり取りは次の通り。

インタビューに応じるサントリーホールディングスの鳥井信宏社長(酒井真大撮影)

――26年10月のビール類の税率一本化への戦略は

 「(ビール類で)それぞれブランドがしっかり育ってきたのが強みだ。これからも継続してブランド力強化のための投資を行う。ビールには『ザ・プレミアム・モルツ』や『サントリー生ビール』があり、エコノミーカテゴリーでは(第3のビールの)『金麦』もある。酒税が一本化されても、それぞれのカテゴリーで強いブランドは残る。他社に負けない健闘もしている」

(酒井真大撮影)

ウイスキーは供給量を伸ばす

――30年の国内酒類売上高1兆円を達成する方策は

 「どれだけ高付加価値の商品をお客さまに提供していけるかがカギとなる。ビール類で言えば、プレミアムビールであったり、酒類全体では、近年供給が不足し、ご迷惑をかけているウイスキー。ウイスキーは引き続き品質向上に取り組み、供給量を伸ばしていければ、大きく変わっていくだろう」

――国内のビール事業シェアで早期に25%を目指す方針も示した

 「ビール会社の大手は4社なので、4分の1にあたる25%のシェア獲得は1つの大きな目標として、当然達成しないといけないという意味合いもある。今後、(人口減などで)国内のビール類の市場は少しずつ縮小する中、成長していくのはすごく大変。何か画期的なイノベーション(技術革新)が必要になる」

――ノンアルコール飲料事業では、1月に「ノンアル部」を新設している

 「ノンアル飲料に関する技術は大きく向上しており、本当においしくなっている。私のようなお酒好きでもノンアルを選ぶときも出てきているぐらいだ。9月に全国で飲食店向けに発売するノンアル飲料『ZEROPPA(ゼロッパ)』は本当にイノベーションのある商品。こうした商品をどんどん作っていきたい」

大規模M&Aには否定的

――約1兆6千億円を投じた米スピリッツ大手のビーム社の買収から10年以上が経過したが、国内外の事業の成長戦略は

(酒井真大撮影)

 「2009年に買収した仏飲料大手のオランジーナ・シュウェップス・グループや、14年に買収したビームなど、グループ全体で幅広いジャンルに強いブランドを持っている。各ブランドの価値を高める投資の方がリターンが確実。今すぐにM&Aでグループに迎え入れたいブランドは私の知る限り、ないと考えている」

――社長として、どういったことに取り組みたいか

 「まさに時代が大きく変わる中で、会社自身が若返る必要はある。新しいことへの挑戦は当社のDNAである『やってみなはれ』の最たるもの。あとは、海外の売上比率が半分強を占めるようになる中で、海外においても、社員が失敗を恐れずに、新しいことに積極的に挑戦できる環境にしていく必要がある。そのために、経営計画や重要業績評価指標(KPI)も変えなければならない」

――会社が若返る必要があるということの真意は

 「例えば、商品のPRやイメージキャラクターが10年変わらないとする。当初20歳の人は30歳に、10歳の人が20歳になりお酒を飲むようになるにも関わらず、キャラクターやPR、マーケティング手法が同じでいいのかということだ。経営のセンスや自身が持つスキルの重要性を認識しているグローバルな人材は若手にどんどん増えている。そうした社員たちの若い発想に大いに期待したい」

(酒井真大撮影)

鳥井信宏

とりい・のぶひろ 1991年、米ブランダイズ大院修了、同年、日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)入行。97年、サントリー(現サントリーホールディングス)入社。サントリー食品インターナショナル社長、サントリーホールディングス副社長などを経て、2025年3月から現職。大阪府出身。59歳。

編集後記

「リーダーというよりもフラット、フランク、フレキシブル、ファン、というのを大事にしている」。グループトップとして目指すリーダー像を問われた鳥井社長は迷わずこう答えた。原点は社会人としてのスタート時に先輩から教わったことだ。ビジネスパートナーと対等な関係で仕事を進める上でも重要だと今も感じている。約10年ぶりの創業家出身のトップ。だが、強力なリーダーシップで社員を引っ張るというよりも、フラットな関係で一緒に「やってみなはれ」の精神を体現し、日本、そして世界でもさらなる成長を目指していく。(永田岳彦)

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