発電量が多いときに電力を蓄え、必要なときに放電する蓄電所。電力網に接続し、電力の需給を調整するこの蓄電所が全国で急拡大している。
発電量が多いときに電力を蓄え、必要なときに放電する蓄電所。電力網に接続し、電力の需給を調整するこの蓄電所が全国で急拡大している。昨年9月時点の数は111件に上り、接続規模は令和12年までに3〜5倍に増えると予測されている。東北や九州、四国などで導入が多く検討され、太陽光発電など再生可能エネルギーの普及に貢献する一方、住宅街近くでも設置が増えるとみられ、安全確保や地域との共存も課題となる。
福岡県田川市の小高い丘に、リチウムイオン電池を搭載したコンテナが合計26基並ぶ。昨年11月下旬、出力約3万キロワット、1万世帯が使う電気を約3時間分ためられる蓄電所が運転を開始した。
蓄電所を運営するのは再エネ開発などを手掛ける「しろくま電力」(東京)。同社の谷本貫造社長は「電気をためることが普及する時代が始まる」と強調。協業する米インフラ投資ファンドの日本法人「ヘキサ・エネルギーサービス」の水田洋一郎最高経営責任者(CEO)も「電力系統の調整力を担保するため、蓄電池が主力になることは間違いない」と話す。
蓄電所は系統用蓄電池ともいわれ、両社は全国10カ所で開発を進める。田川は第1号案件で、太陽光などの発電量が多い日中に電気を蓄え、需要が高い時間に売電して収益を得る。経済産業省が創設した支援制度を活用しており、しろくま電力は10年時点で国内に導入される系統用蓄電池の容量の3割を担うという。三重県や北海道などでも稼働を予定する。
蓄電所の開発は全国で急拡大している。和歌山県紀の川市では6年、関西電力とオリックスが手掛ける大規模蓄電所が運転を開始し、大阪ガスも大阪府吹田市や佐賀県武雄市などで事業を手掛ける。通信や金融などエネルギー業界外からの参入も相次ぎ、世界的な導入拡大で、九州電力は国内に続き米国でも蓄電池事業に参画した。
蓄電所は電力の需要(使用量)と供給(発電量)の調整役を担う。電力は常に需給を一致させる必要があり、バランスが崩れると大規模停電につながる恐れがある。
近年は再エネの導入拡大に伴い、昼間の供給が需要を多く上回り、供給を抑える「出力制御」が各地で頻発している。太陽光や風力などで発電した電気の受け入れを一時停止する措置で、8年度の出力制御率の短期予測は九州電力管内で6.9%、東北電力管内で4.0%などと各地で供給過多が問題となっている。
一方、データセンターや人工知能(AI)の普及で電力需要は増す。脱炭素化の流れで二酸化炭素を排出する火力発電所は減少傾向にあり、柔軟に充放電できる蓄電池に注目が集まっている。
国は4年の電気事業法改正で、系統用蓄電池を「発電事業」と位置づけ、補助制度を創設して導入を促しているほか、蓄電池の技術革新やコスト低下、6年4月から蓄電池などの調整電源を取引する「需給調整市場」の本格運用が始まったことも参入を後押ししている。資源エネルギー庁によると、6年9月の蓄電所の数は111件、接続規模は約50万キロワットで前年同期の5倍となった。
大和証券のエネルギー担当アナリスト、西川周作氏は「需給調整の最も合理的な解決策は蓄電池だと考える。一方で導入が増えてくると、市民生活に影響が出る可能性があり、火災や騒音対策など、地域と共生するための対策が欠かせない」と指摘する。
蓄電池設備はエネルギーを蓄える装置で、過剰な電流が生じた場合、発火事故に発展する危険性がある。6年3月には鹿児島県伊佐市で、蓄電池が設置された建屋から出火し、消防隊員4人が負傷する事故が起きた。
大規模太陽光発電所(メガソーラー)をはじめとした太陽光発電設備も、急拡大で森林伐採や景観の悪化などのトラブルが相次いだ。蓄電所も設置予定地の中に水害の恐れがあると指摘されるケースがあり、経産省は申請時のルールを厳格化する方針を示している。
ほぼ中国製とされる国内の太陽光パネルと同様に、蓄電システムも中国製への依存が課題で、経済安全保障上の懸念が指摘される。
西川氏は「収益を確保できるとして事業者が殺到しているが、需給調整市場の価格は落ち着いていくだろう。長期的な事業計画がなければ短期で撤退する事業者が生まれ、地域に課題を残す可能性もある」と語る。(一居真由子)
copyright (c) Sankei Digital All rights reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授