日本のアニメは本当に世界一? 本気の世界戦略が生き残りのカギ岐路に立つ日本のコンテンツ産業(前編)(1/3 ページ)

日本のコンテンツ産業は今、大きな転換点に差し掛かっている。昨年、「コンテンツグローバル戦略報告書」を発表した経済産業省の井上悟志氏に話を聞いた。

» 2008年02月28日 09時00分 公開
[岡崎勝己,ITmedia]

逆境を迎える日本経済、コンテンツ産業がけん引役に

――経済産業省ではコンテンツ産業を、日本経済の中でどのように位置付けているのでしょうか。

井上 経済産業省はこれまで、総務省や外務省、文化庁と連携を図りつつ、映画、アニメ、ゲームといったコンテンツにかかわるさまざまな施策を講じてきました。その最終的な目的は、コンテンツの利活用を通じた日本経済の活性化にほかなりません。

 日本経済を中・長期的に見ると極めて厳しい状況に置かれています。言うまでもなく、少子化による継続的な人口の減少といったことがその要因です。こうした逆境を乗り切り、さらなる成長を果たす上で、従来からの日本の強みであったモノ作りに加えて、現在、日本の雇用の約3分の2を生むにまで成長したサービス産業の振興を欠かすことができません。

経済産業省 商務情報政策局
文化情報関連産業課 課長補佐
井上悟志氏

 なかでもコンテンツ産業は、その質が世界でも高く評価されている実績から、サービス産業の柱の1つとして、日本経済のけん引役となる可能性を秘めているわけです。実際に、一昨年6月に当省がまとめた「新経済成長戦略」でも、コンテンツ産業を重点振興分野の1つに位置付けています。

――昨年、「コンテンツグローバル戦略報告書」をまとめた意義は?

井上 ビジネスの仕組みにまで踏み込み課題を検討することが、産業の育成には欠かすことができません。今回の報告書は、そうした観点からコンテンツ産業の課題をまとめています。GDHや集英社、ホリプロ、スクウェア・エニックスのほか、東芝やソニーなどのメーカーも含め、コンテンツ産業に携わる多彩な企業からメンバーを選定し、まさに現場レベルの視点からコンテンツ産業の課題抽出のために議論を重ねました。

 そこで明らかとなったのは、コンテンツ産業は今、大きな環境の変化に伴う課題に直面しているということです。その1つが“グローバル化”の急速な進展です。

アニメバブルに見るコンテンツ市場の“今”

井上 現在、各国において作品を制作し、輸出するという既存のコンテンツビジネスのモデルが、特にハリウッドを中心にさらに洗練されたかたちで変貌を遂げつつあります。世界中に企画を求め、場合によっては国外で制作する。一昨年、国内でヒットしたある映画は、米国の大手映画会社が資金を提供した上で、日本市場を意識し、日本人による作品作りを行った。このように、資金調達も含めてビジネスのグローバル化が急速な勢いで進んでいるわけです。

――どのような対策が求められているのでしょう。

井上 日本のコンテンツ産業の市場規模は、2005年の段階で米国に次ぐ13.7兆円に上ります。一方で、海外市場における売上依存度は米国の17.8%に対してわずか1.9%と遠く及ばない。これは、これまで日本のコンテンツ産業が国内需要に支えられてきたために、海外市場の開拓が非常に遅れていることを示しています。

 確かに日本では、これまで閉じた環境の中で、国内のさまざまなコンテンツが多彩かつ多様に進化してきました。しかし、一方でこうしたモデルでは、さらなる市場拡大を図ることは非常に難しい。現に、アニメ産業では、いわゆる“アニメバブル”によって製作される作品の数こそ増えたものの、作品数に比例して売上が伸びているのかといえば、残念ながら“否”と言わざるを得ません。これには、作品数の急増に伴う粗造品の増加など、さまざまな要因が指摘されていますが、国内だけでは市場が限られてしまうことを見逃すことはできません。

 こうした状況を打破するためには、やはり新たな市場を海外に求めなくてはならない。海外市場の開拓にいち早く着手した韓国では、韓国映画の輸出額を1996年の40万ドルから2005年には7600万ドルまでに飛躍的に拡大させることに成功しているのですから。

 しかしながら、現状、海外市場の開拓を促進することは非常に難しい。

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