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» 2008年08月14日 07時00分 UPDATE

新世紀情報社会の春秋:携帯電話市場の曲がり角――「官製不況」だけで片付けられない落ち込み (1/2)

日本の携帯電話市場は大きな曲がり角を迎えている。販売制度の変更が大きな要因とされているが、そこをさらに掘り下げてみると、携帯電話市場が差し掛かっている大きな「潮目」がおぼろげながら見えてくる。

[成川泰教(NEC総研),ITmedia]

消費マインドの低迷と期待感のピークアウト

 iPhone 3Gの発売が一段落した日本の携帯電話市場だが、熱気に溢れた夏のお祭り騒ぎが終わって見えてきたのは、毎日の猛暑とは似ても似つかぬ寒い市場の姿だった。国内の携帯電話出荷台数が大きく落ち込んでいることが、主要企業の業績などから明らかになってきている。業界団体や民間調査会社の見通しでは、2008年度は前年度比で2割程度の減少を見込む声が多い。日本の携帯電話市場が今後どうなるかは非常に注目されるテーマだ。

 こうした状況に至った要因として、いくつかの側面が挙げられているが、なかでも販売奨励金の廃止と割賦販売制への移行という販売制度の変更が携帯電話市場低迷の大きな要因となっていることは、多くの関係者に共通した見方になっている。これを一種の「官製不況」だと揶揄する向きも少なくない。

 しかし、もう一段掘り下げてみるとその深層には、機能面を中心とした携帯電話に対する生活者の期待感に、ある意味でのピークアウトが見られることと、所得の伸び悩みや物価の上昇など経済活動としての消費行動(あるいは消費マインド)そのものの低迷が大きな要因としてあることは間違いない。

 iPhone 3Gが発売されたこともあって、筆者も久しぶりに量販店の携帯電話売り場に足を運んでみたのだが、電車の中吊りやテレビの広告などで見覚えのある最新型の機種を手にしてみて、洗練されたデザインや触感に感心したのもつかの間、そこに表示されている値段を目にするやドン引きしてしまったというのは、まぎれもない事実である。

 もちろん最新の携帯電話には様々な機能や知恵や工夫が詰まっているのだから、それに見合った本来の値段がこれなのだということは理解している。部材や技術の観点から、パソコンやデジカメ、ゲーム機といった他のエレクトロニクス商品と比較しても、十分妥当な金額だと思えなくはない。しかし「ゼロ円」含め、少し前までの記憶に焼きついている価格とは意味が違うのだということを、直感的に納得するのはなかなか難しいというのが正直なところだ。

 さらにこれを快適に使うには年間にして端末と同じくらいの金額の通信料が必要になる。そう考えると、やはり携帯電話というのはそれなりに贅沢な品物なのだとあらためて思う。販売制度の変更は折りしも日々の家計支出の見直しを迫られた生活者に、携帯電話のそうした側面を再認識させる結果になってしまっているようだ。

「衣食住情」の時代と行き過ぎた贅沢

 かといって、いまさら携帯電話を手放すことはできないというのが、また別の意味での生活者の本音である。理由をたずねれば各者各様の答えが返ってくるのだろうが、一言でいうなら携帯電話は必需品だということにつきる。これをもう少し煮詰めて表現するなら、情報社会である現代においては情報そのものが必需なのであり、それにまつわる様々な行為をするための道具は大きな価値を持つことになる。いまや「衣食住情」が社会生活の基本要素だと言っていいだろう。

 いまさらだが携帯電話の持つ価値は、人とのコミュニケーションができ、生活に必要な様々な情報を入手することができ、そしてそれが個人個人の手元に常時帯同できるというところにある。そして端末とサービスを中心とした複合産業として急成長を遂げる過程で、携帯電話には様々な機能や役割が提案されてきたわけだが、ここへきてその方向性に大きな変化が出てきている。

 こうした流れは日本だけに限ったことではないようだ。ノキアやソニーエリクソンといった海外大手の端末メーカの業績でも、先進国での景気減速の影響を受けて、 このところ好調だった高機能機の成長にブレーキがかかっているようである。携帯電話は必需品でも新たに付加される機能ほどニーズは小さくなると同時に、その必需性も少なくなる。

 景気が悪くなると真っ先に削られるのは贅沢品というのは、経済の常である。巨大化した携帯電話の市場は大きな曲がり角を迎えており、そのインパクトが最も顕著なのが日本市場だといえるだろう。

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