自覚のないリーダーの好例問われるコーチング力(1/2 ページ)

もうろうとした状態で記者会見し辞任した中川昭一前財務・金融担当相。彼からリーダーとしての役割の多くを学ぶことができる。もちろん反面教師として、である。

» 2009年03月04日 07時30分 公開
[細川馨(ビジネスコーチ),ITmedia]

 先日、中川昭一財務・金融担当大臣が辞任した。イタリアのローマで行われた7カ国(G7)財務大臣・中央銀行総裁会議後の記者会見で、まったくろれつが回らず、全世界に醜態をさらした責任を取った形である。進退についても、当初は2009年度予算案と関連法案が衆議院で通過した際に辞任すると辞意を表明するにとどまっていたが、与野党からの相次ぐ批判を浴びて、早期辞任に変更するなど、そのちぐはぐな対応に非難が集中した。さらに、問題の記者会見の様子はインターネットの動画サイトなどで世界中に配信され、日本の国際的な信用を大きく損ねることにもなった。

 今回の騒動の一部始終を通し、ビジネスコーチングに携わる者として、「彼にリーダーとして何が足りなかったのか」を考えさせられた。彼の姿を見て感じたことは次の3点である。


(1)自分の立場を理解していない

(2)「私」と「公」の区別がつかない

(3)リーダーとして訓練されていない


 組織のリーダーは、組織が何を目指し、どのように進んでいくべきかという方向性を明確にし、戦略を練ってその戦略を実行する。リーダーとして自分がやるべきことを考え、役割を果たしていく。リーダーは自分の役割について常に考えていなければならい。それは国を率いるリーダーも組織を率いるリーダーも同じである。

公私混同

 中川氏は、自分がどのような役割を担った人間なのか、自分がどういう立場にあるのかをまったく理解していなかったのではないだろうか。現在のような経済危機にあれば、財務・金融担当大臣の果たすべき役割は、通常よりもさらに重くなる。しかし、彼の姿からは、日本の経済をどのように立て直し、再生させていくのかを示さなければならないという使命感は、まったく伝わってこなかった。

 リーダーは「個人の自分」と「公の自分」を区別した行動を取らなければならない。中川氏はそれができていなかった。財務・金融担当大臣として、どのように振る舞うべきか、どのように発言すべきか、それらが及ぼす影響についての認識が不足していた。個人の振る舞いと公の場での振る舞いは異なるということが分かっていなかったのである。個人的な嗜好(しこう)として、お酒好きでも一向に構わないが、そのせいで公の仕事に支障が出ることは決して許されない。

 リーダーとして、公の場でどのように行動すべきか、何をどのように話すべきか、ということに気を配るのは当然のことだ。個人の言動と公の立場としての言動を区別できない人は、リーダーとしては失格である。

 現在のわが国の首相を見ていても、この区別ができていないように思う。日に日に経済状況が悪化する中で、一刻も早く打開策を打ち出す必要があるのに、それとは関係ない不必要な発言をしたり、個人的な発言をしたりして、足元をすくわれている。公の人間としての言動への配慮、注意が不足しているのではないだろうか。

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