【第20回】ホンダの経営戦略を支えた藤沢武夫ミドルが経営を変える(1/2 ページ)

創業者の本田宗一郎を支え、ホンダを世界的な大企業に育て上げた参謀、藤沢武夫。長らく絶版状態だった同氏の著書がこのたび復刻された。ここから独自の経営哲学を読み取ることができる。

» 2009年05月12日 07時45分 公開
[吉村典久(和歌山大学),ITmedia]

 毎年、新入生を対象にした経営学の入門科目を担当している。入門科目ゆえ、専門的な用語を解説することよりも、企業経営の現場をイメージしてもらって、それに関心を持ってもらうことを主眼としている。少しでも学生のイメージをふくらませるため、授業では録画したテレビ番組などを視聴してもらう場合がある。毎年見直しをかけているのだが、「これだけは外せない」というもの、いわば「鉄板」が数本ある。

 その1つが、本田技研工業(ホンダ)に関するものだ。同社の創業から、創業者である本田宗一郎とその補佐役の藤沢武夫の引退までをドラマ仕立てにしたものである。大昔に放送されたものだが、本務校のみならず、非常勤先の大学などの授業でも視聴させている。筆者自身は何度見たか分からないが、まったく飽きない。実に良くできた作品である。

学生の関心も高いホンダのドラマ

 「企業経営者はいかなる意思決定を下すのか」「どんなことに、どれほど頭を悩ましているのか」――視聴に先立って学生には、こうした点をメモしながら見るようにお願いしている。若者の自動車離れが喧伝されており、実際、自動車に興味のない学生も多い。そのため興味を持って視聴する学生は少ないのではないかと思われるが、居眠りする学生は少なく、真面目にメモを取る学生が目立つ。最終試験の答案に授業で視聴したものの感想を一言書いてもらっているのだが、「ホンダのドラマが面白かった」という学生も多い。

 製品やサービスにおいて他社との競争にいかに打ち勝つか、新規分野(ホンダの場合には、四輪車市場や米国市場への進出)をいかに展開していくか、部品メーカーとの取引をいかに行うか、労働者のモティベーションをいかに高めるか、銀行あるいは政府との関係をどうするかなど、企業経営にかかわるさまざまな意思決定の現場が、上手に再現されている。

宗一郎を支えた藤沢の思い

 このドラマの主人公は宗一郎ではない。その名補佐役だった藤沢である。この藤沢は何冊かの著書を残しており、絶版状態だった1冊がこの4月に、一部改訂されて復刻された。藤沢武夫著『松明は自分の手で』(PHP研究所)である。恥ずかしながら絶版を理由にこれまで手にしたことがなかったため、さっそく購入して読んでみた。

 「第1章 本田宗一郎との出会い」は、藤沢が宗一郎に対してともに引退を勧告する記述から始まる。その後、宗一郎との出会い、そして同社の成長過程を追いながら、何を思って藤沢が経営者としての判断を下していったのかがつづられている。

「自動車企業の中には、前を行くものの灯りを頼りに、ついてゆく行き方をする会社もある。しかし、たとえ小さい松明(たいまつ)であろうと、ホンダは自分のつくった松明を自分の手で揚げて、前の人たちには関係なく好きな道を歩んで行く企業とする」(本書129ページ)


 創業当初からの画期的な新技術によるエンジン開発(4サイクル・オーバーヘッドバルブ・エンジン)、戦後二輪車が商売になるのか見通しが立たない段階での複数の大型工場の建設、オートバイの流通網としての全国の自転車店の活用、二輪車の米国進出、技術研究所の独立、四輪車市場への進出、四輪車の整備拠点の充実、米国の環境保護法であるマスキー法に対応したCVCCエンジンの開発……。ホンダ自身がつくった松明を掲げるに至った経緯を、その当事者である藤沢が語っている。

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