立場に関係なく、周りから信頼され、どんな状況でも仕事が速く、たんたんと成果を出す――「あの人、仕事できるよね?」と言われる人は、日ごろから何を考え、行動しているのか。『仕事ができる人が見えないところで必ずしていること』の著者で、経営コンサルタントとして1万人超のビジネスパーソンを見てきた安達裕哉氏が、仕事ができる人に共通する資質を紹介する。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
ビジネス書の著者たちによる連載コーナー「ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術」バックナンバーへ。
人を採用することに関して、本田宗一郎の含蓄のある言葉を紹介する。
「どうだね、君が手に負えないと思う者だけ、採用してみては」
「言うは易(やす)く行なうは難(かた)し」の見本のような言葉だ。本田宗一郎は「自分の手に負えない者」こそが、優秀で採用したい人物だと言っている。
本田宗一郎の器の大きさが表れていて採用の本質を突いているが、この採用方法は普通の人には実行が難しい。ほとんどの会社は「手に負えない人」を採用しないため、社員以上のレベルの人は、その会社に来ない。能力の高い人物を採用できないのは、自分たちの器が小さいからだ。
だから、実際には「器の大きい人物」が面接官にならない限り、その会社の平均以上の人材すら、確保するのが難しいのである。
さまざまな会社で採用活動を見てきたが、応募者を見極めてやろうと言っていた面接官が、その実、応募者に見切られているなんてことは枚挙にいとまがない。
したがって、採用活動をうまくやろうと思えば、まず「面接官の人選」が一にも二にも大事である。では、「器の大きい人物」をどのように判定すべきだろうか?
私が少し前に手伝った会社も、面接官の人選に苦労した会社のうちの1社だった。
その会社では伝統的に、チームリーダーと役員が面接官をしていたが、私が見る限り、有能な人物はそのうちのよく言って半分程度、残りは年功序列で、能力にかかわらずその地位に就いた人物であった。そこで私はおせっかいとは思いながらも、社長に言った。
私I:いまの面接官だと、なかなかいい人が採れないかもしれません。
社長X:うむ。それは知っている。今年は彼らの適性を確かめてから、面接官に登用する。
I:適性ですか? どのように確かめるのですか?
X:では一緒にお願いします。ちょうどこれから適性を確かめる面談だから。
そう言って私をその場に残した。10分後、1人の役員が入室した。
X:今日は、採用の面接官をやってもらうかどうか、少し考え方を聞きたくて来てもらった。いまからする質問に答えてほしい。
役員Y:はい。なんなりと聞いてください。
私は、「どんな質問をするのだろう?」と、期待していたのだが、意に反して、社長は役員にあたりさわりのない、ごく当たり前の質問を投げかける。
X:どんな人を採りたいか?
X:応募者の何を見るか?
X:どんな質問をするか?
役員もそういった質問は想定済みらしく、あたりさわりのない、模範的な回答をする。私は「どうしてこれで適性が分かるのだろう……」と、不思議だった。
そして、20分程度の時間が経ち、社長が言った。
X:では、最後の質問だ。誰を面接官にすべきかの参考にしたいので、身のまわりで、自分より優秀だと思う人を挙げてみてくれ。
役員は不思議そうな顔をしている。
Y:自分より優秀……ですか?
X:そうだ。
役員は苦笑しながら答えた。
Y:まあ、お世辞ではないですが、社長、あとは◯◯さんです。
X:◯◯さんか、なるほど。まあ、役員のなかでは確かに頭抜けて優秀かもしれないな。ちなみに理由を教えてくれないか?
役員が理由をひと通り述べると、社長は「……うん、ありがとう」と言い、面談は終了した。その後、2人ほどの役員とリーダーに同じような質問をし、4人目の面接となった。
彼はリーダーであったが、次期役員候補と目される人物であった。最初の役員と同じような質問が社長から投げかけられたあと、最後のお決まりの質問となった。
X:では、最後の質問をいいかな? 誰を面接官にすべきかの参考にしたいので、身のまわりで、自分より優秀だと思う人を挙げてみてくれ。
そのリーダーは、ちょっと考えていたが、やがて口を開いた。
リーダーK:まずAさん、洞察力と、営業力が素晴らしいです。続いて、Bさん、営業力はあまりないですが、人望があり、人をやる気にさせる力がずば抜けています。リーダーのCさん、現場を任せたら社長よりもうまいでしょう……すみません。そして、うちの部のDさん、新人なんですが、ハッキリ言って私よりも設計する力は上です。
X:ずいぶんと多いな。
社長はニコッと笑ってリーダーに言った。
K:当たり前です。皆私よりもいいところがあり、そして、私に劣るところがある。
X:分かった。ありがとう。
リーダーが退出し、私と2人きりになり、社長は誇らしげに言った。
X:というわけで、面接官はアイツに決定だな。
I:そういうことですか……。
X:彼は器が大きいんだ。私よりも上かもな。私はまだまだ変なプライドがあるからな。
I:確かに、面接官に変なプライドは邪魔ですね。
X:そうだろう。「身のまわりで、自分より優秀な人間を挙げてみよ」と言われて、挙げることのできた人数が、その人間の器の大きさだよ。
I:なるほど……。
X:今年こそ、採用をきちんとやりたいな。まあ、彼に任せれば大丈夫だろう。
そして、社長の予想通り、そのリーダーは素晴らしい人物を数多く採用した。時には応募者に教えを請い、時には応募者を説得し、八面六臂(はちめんろっぴ)の素晴らしい活躍だったそうだ。
ほんとうに優れた人物は、他の人の優れたところもよく分かるという。
世界の富を独占した鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーの墓誌にはこう刻まれているそうだ。
「自分より優れた者に協力してもらえる技を知っている者、ここに眠る」
最高の大きさの器を持つ人物の言葉だ。
1◆仕事ができる人が見えないところで必ずしていること◆
まわりの人の自分より優秀なところを挙げられる、器の大きさがある
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授