また、こんな話もある。
さまざまな会社で、「目標必達」という言葉が使われている。従業員に発破をかけるために用いられていると思うが、1つの疑問が常にあった。
「常に目標達成している人物を、信用していいのだろうか?」
確かに、経営者からすれば毎度のように目標を達成してくれる人物はありがたい存在である。給料を上げたり、ボーナスを気前よく振る舞ったりもしたくなるだろう。だが、一方で「常に目標を達成できる」ということは、「目標が低く設定されていた」ということではないか?
ある会社の人事評価制度について議論があった際、「目標の難易度」に話が及んだ。
この会社の経営者は「社員が必ず目標達成してくれないと困る」という方針であった。そのため、目標の達成度合いに応じてボーナスの額や、次の年の昇給の度合いを決定していた。
しかし、低すぎる目標では会社の利益が出ず、高すぎる目標では社員のやる気を損なう。
そこで、毎年のように各部門長は経営者と、「ぎりぎり達成できそうな目標」を折衝することに心を砕いていた。
そして、部門長と社員の努力で、この会社はほとんどの人が毎年、目標を達成していた。経営者は自分の正しさを確信していた。
しかし数年後、この会社の商品は陳腐化し、誰も目標を達成できる人間はいなくなった。あとに続く商品はない。
当然である。リスクの高い試みに誰も手を出そうとしなかったからだ。目標達成できなければ、社員として会社での立場はなかった。
経営者はひとり、「リスクの高い新規事業はオレがつくる」と息巻いていたが、それもかなわず、この会社は事業規模を縮小せざるを得なかった。
もちろん、目標達成が本人の努力の証であることは、疑う余地はない。しかし、毎回のように目標達成をしている人間がいたら、毎年のように目標達成している組織があったら、その働き方を疑ってみるべきだ。
なぜなら「失敗できない」という状況ほど、人間を保守的たらしめることはないからだ。
『イノベーションのジレンマ』(翔泳社)で有名な、ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが指摘するように、大企業のなかからイノベーションが起きにくい理由は、まさに「失敗を避ける」からであり、会社員が受ける人事評価にとって失敗が致命的であるからなのだ。
すなわち、無難に目標達成をしていたほうが評価がいいから、イノベーションが起きにくい、と言い換えることもできる。
チャレンジの必要な目標に対して、成果を出せるかどうかは、確率の問題であり、長期的なチャレンジを続けたものだけが成果を出すことができる。それ以外は「偽の成果」と言ってもいい。
2◆仕事ができる人が見えないところで必ずしていること◆
失敗を避けずにチャレンジを続ける
Deloitteで12年間経営コンサルティングに従事し、社内ベンチャーの立ち上げにも参画。東京支社長、大阪支社長を歴任。1000社以上にIT・人事のアドバイザリーサービスを提供し、1万人以上のビジネスパーソンに会う。その後独立し、オウンドメディア支援の「ティネクト株式会社」を設立。コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行なう。自身が運営するメディア「Books&Apps」は月間200万PVを超え、ソーシャルシェア数千以上のヒット記事を毎月のように公開。著書に『仕事で必要な「本当のコミュニケーション能力」はどう身につければいいのか?』(日本実業出版社)、『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)などがある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授