旭鉄工のDXは、製品やサービス、ビジネスモデルの変革、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革を実現し、競争上の優位性を確立した。どのように進めたのだろうか。
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自動車部品製造を行う旭鉄工はDXにより成果を上げた企業として知られています。
1、IoTデータを活用してトヨタ生産方式に則ったカイゼンをスピードアップし、年間4億円の労務費を節減。
2、IoTデータで原価管理を行いカイゼン活動につなげることで製品1点1点の利益率を向上
3、「ムダな」電気使用量を1時間ごとにリアルタイムで見える化。再エネや高効率設備への投資なしに電気使用量を2013年比で26%削減しました。これは年間1.5億円の電気料金節約となっています。売上が150〜160億円程度ですから営業利益率で約1ポイントというきわめて大きな効果といえます。
これらにより本業の自動車部品製造において同じ売上で約10億円の利益を上乗せ、合計30〜40億円効果を出しました。また、その過程で作り上げたIoTシステムiXacsおよびその活用ノウハウを外販する別会社i Smart Technologiesを設立、いわゆる両利きの経営を実践しています。
一言でまとめると、旭鉄工のDXは「IoTを活用したカイゼンPDCAの高速化による収益力向上」であり、製品やサービス、ビジネスモデルの変革、業務、組織、プロセス、企業文化・風土の変革を実現し、競争上の優位性を確立したといえます。
カイゼンが上手くいかない会社にはサルが3匹います。
(1)見ザル:これは問題を見ない、または見えない状態を指します。多くの製造業向けのIoT(デジタル)ツールは、この「見ザル」の問題解消に注力していますが、それだけでは不十分です。
(2)言わザル:このサルは、情報やノウハウの共有不足を象徴しています。組織内で重要な情報が共有されず、必要な対話が行われない状況を指しています。
(3)使わザル:これは、会社としてデジタルツールを活用できていない状況を表しています。 単にデジタルツールを導入するだけではなく、経営においてこれらのツールを適切に活用することが重要です。
旭鉄工のDXの成功は単にデジタルツールの導入・構築をしたから実現したわけではありません。デジタルツールそのものも必要ですが、会社の仕組みや風土を変えることが圧倒的に大事です。
例えばカーボンニュートラル推進に当たっては、「ムダな」電気使用量がリアルタイムで見える化するシステムを独自開発しました。しかし、見えただけでは効果はあがりません。製造現場の従業員にムダを削減するノウハウを考えてもらう必要がありますし、変えることが評価される風土を作る必要もあります。デジタルツールの導入よりもそれを活用する方がよほど難しいし重要です。
旭鉄工の製造現場が凄いのは「見えた問題を徹底的に直す工夫をする」ところです。データを見て発見した問題は現地現物で確認し、対策を打ち、それによる労務費や電気使用量の節減効果を現場が計算します。カイゼンの過程で得られた新しいノウハウは社内で共有し展開、デジタルツールは製造現場の要望でどんどん進化します。月に10回程度(年の間違いではありません)社長へのカイゼン報告会が開催されます。
「IoTのツールは現場のアピールの道具だ」と彼らは言います。効果を社長にアピールする、問題点を社内でアピールしみんなで解決するなど、デジタルツールを効果につなげる力が凄いのです。
しかし、2013年に私がトヨタ自動車から転籍してきたときはまったく異なる風土でした。問題点があっても従来通りのやり方を踏襲し新しいことへの挑戦は避け、誰のせいかの責任追及だけで何も変わらず、品質も収益も低い、そういう会社でした。それを変えるきっかけとしてデジタルツールがあったのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授