従来のIT投資とDX投資が大きく異なるのは、IT投資が部分的な仕事のやり方の省力化などにとどまるのに対し、DX投資は前述の通り社内の仕事のやり方や風土まで変えつつ、新たな付加価値を創出するという点です。
再度カーボンニュートラル推進を例にとると、単に電気使用量の数値を見える化するデジタルツールを導入しても、コストアップにしかなりません。しかし、旭鉄工のように「ムダな」電気使用量を見える化して、そのムダを削減するという仕組みを整備すると、今までのレベルと違う節電という新たな付加価値を創出することができます。その付加価値と投資効果を比較する必要があります。その付加価値創出を行うという前提なしに投資対効果を考えている限りいつまでたってもDX投資はできません。
DXに必要なのはIT人材だけではなく経営者(リーダー)自身がDX人材になることです。前述のようなDXによる付加価値創出はIT人材にはできません。デジタルで何ができるかを理解しDXの取り組みを推進する経営者の強いリーダーシップが必要です。
プログラミング言語を学んでコードを書けるようになる必要はなく、むしろビジネスの観点からデジタル技術を理解し、「デジタルでこんなことができるのではないか」と社内に提起し、推進していく能力が求められます。
もっとも、最初から壮大なシステムを考える必要はありません。最初から新たな付加価値創出は難しいでしょう。トヨタ生産方式では「カイゼンは人を楽にすること」です。であれば、「DXはデジタルで人を楽にすること」といってもいいでしょう。
まずは経営者(リーダー)自身が社内の付加価値の低い業務をなくすことから始めましょう。対面の会議や出張、書類の作成や回覧などがあるでしょう。風土を変えるのは仕組みではなく行動です。経営者自身がデジタルを活用して自分の仕事のやり方を見直す、具体的な行動を取る。そうしないと誰も変わってくれません。これが「経営者がDX人材になること」といえます。
旭鉄工の取り組みに対し、費用対効果が分からないとか成功する保証がない、という声が時々あります。しかし、旭鉄工のDXは費用対効果が保証されたから始めたわけではなく、変革しないと生き残れないという危機感から始めました。DXをなんとしても成功させるという強い経営者のリーダーシップが必要ですし、始めないと成功を得ることは絶対にできません。
DXにはいろいろな形がありますが、旭鉄工と同じような効果を狙う製造業であればそのためのツールやノウハウは確立されています。旭鉄工の成果の数分の1でも相当大きな成果ですし、その程度であれば決して難しくありません。まずはやってみましょう。
旭鉄工の取り組みには世間一般の常識やこれまでの製造業でのやり方と大きく異なるところがたくさんあります。しかし、これは付加価値の低い業務をなくし新たな付加価値を創出するという「付加価値ファースト」の考えに基づいて行動しただけです。
今回は旭鉄工のDXのエッセンスについて述べました。より具体的で詳細な内容については拙著「付加価値ファースト」を一読すると理解いただけるはずです。旭鉄工のDXの成功ノウハウを展開し多くの会社の役に立ちたいという私の思いが詰まっています。
旭鉄工株式会社 代表取締役社長。
i Smart Technologies株式会社 代表取締役社長 CEO。
1992年東京大学大学院工学系修士修了、トヨタ自動車に21年勤務。おもに車両運動性能の開発に従事後、生産調査室でトヨタ生産方式を学び2013年旭鉄工に転籍。製造現場はもちろん、経理、営業でもIoTデータを活用する体制を構築し、労務費を年4億節減するなどで損益分岐点を29億円下げ、同じ売上高で利益を10億円上乗せ。電力分CO2排出量もすでに26%低減など大きな成果を上げる。
「旭鉄工の成功ノウハウを他社でも役立てたい」と「i Smart Technologies株式会社」を設立し、IoTモニタリング、データ分析、改善指導までトータルで生産性向上を実現するKaaS(Kaizen as a Service)を全国展開。その実績が評価され、2018年に経済産業省主催「第7回 ものづくり日本大賞 特別賞」を受賞するなど受賞歴多数。これまで数百回の講演、100社以上の改善指導実績あり。
著書に『Small Factory 4.0 〜第四次「町工場」革命を目指せ!』(三恵社)がある。日本デジタルトランスフォーメーション推進協会アドバイザー。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授