従来の「管理」業務がAIに代替される一方、対人業務が増加し管理職への負担は増している。これからのマネジャーには、組織を管理するのではなく、人やAIの可能性を引き出し、未来の方向性を示して新しい価値へと「編集」する役割が求められる。
管理職は以前にも増して忙しくなっている。それにもかかわらず、組織は以前より良くなったという実感が乏しい。会議は増え、判断も増え、管理項目も増え続けているにもかかわらず、「マネジメントが機能している」と胸を張って言える企業は決して多くありません。なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。
私は、その理由は極めてシンプルだと考えています。マネジメントという仕事そのものが、いま根本から再定義され始めているからです。
これまでのマネジャーは、管理することが仕事でした。売上目標を管理し、進捗を確認し、部下の行動をチェックし、会議を運営し、資料をまとめ、評価を行う。組織を一定のルールで動かし、計画通りに実行させることが求められてきました。
高度経済成長期から続く日本企業の組織運営は、この管理機能を中心に発展してきたと言っても過言ではありません。市場が拡大し、需要が右肩上がりで増え続ける時代には、組織を標準化し、均質なアウトプットを出し続けることが競争力そのものだったからです。
しかし、その前提は大きく変わりました。市場は成熟し、人材不足は深刻化し、働き方は多様化しました。そして、そこへ生成AIが加わったことで、「管理」という仕事の価値そのものが急速に変わり始めています。
生成AIは、もはや単なる業務効率化ツールではありません。AIエージェントは、スケジュールを調整し、会議を要約し、レポートを作成し、データを分析し、次に取るべきアクションまで提案する存在へと進化しています。
ここで重要なのは、AIが代替するのは「判断」ではなく、「管理」という行為だということです。進捗確認、報告書作成、KPI集計、タスク整理、情報共有。こうした仕事はAIの方が速く、正確にこなせるようになっていくでしょう。
つまり、「管理できる人」が評価される時代ではなくなりつつあるのです。
もちろん、全てがAIに置き換わるわけではありません。しかし少なくとも、「管理が得意であること」がマネジャーとしての最大の価値ではなくなることは間違いありません。では、人間のマネジャーには何が残るのでしょうか。
近年、「管理職は罰ゲームだ」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。その背景には、ハラスメント対応、メンタルケア、多様な働き方への対応、人材不足によるプレイングマネジャー化、採用や育成まで含めた役割の肥大化があります。
興味深いのは、管理業務そのものはAIによって減り始めているにもかかわらず、人間にしかできない仕事は逆に増え続けていることです。
部下の不安を受け止めること。キャリアについて対話すること。価値観の異なるメンバー同士をつなぐこと。心理的安全性をつくること。変化の意味を言葉にして伝えること。こうした仕事には正解がありません。そしてAIが完全に代替することもできません。
管理職の負荷が増えている本当の理由は、「管理」が増えたからではなく、「人に向き合う仕事」が増えたからなのです。
人的資本経営も、本質的には同じ流れの中にあります。
多くの企業が健康経営やウェルビーイング、勤務間インターバル、エンゲージメント向上に取り組んでいます。しかし、これらは福利厚生を充実させることが目的ではありません。企業価値を生み出す源泉が、人そのものへ移ったという認識の表れです。
設備や資本だけでは競争優位を築けない時代になり、人が安心して能力を発揮できる環境を整えること自体が経営戦略となりました。つまり、マネジャーは成果を管理する人ではなく、人が成果を生み出せる環境を設計する人へと役割を変え始めているのです。
最近、開発現場では「バイブコーディング」という考え方が注目されています。AIに細かな仕様を一つ一つ指示するのではなく、「こんな世界を実現したい」「こんな体験を提供したい」という方向性だけを示し、AIがコードを書いていくという発想です。
ここで重要なのは技術力ではありません。どのような価値を生み出したいのか。その世界観を描き、言語化する力です。
これは開発だけの話ではありません。営業でも、人事でも、マーケティングでも、経営でも同じです。細かな実行はAIが担い、人間は「どこへ向かうのか」を描く。その構図は、すでにあらゆる仕事へ広がり始めています。
こうして見てくると、AI時代にマネジャーに求められる役割は、従来とは大きく異なります。
第一は、方向性を示すことです。AIは無数の選択肢を提示できますが、どの未来を選ぶべきかは決められません。
第二は、意味を与えることです。なぜこの仕事をするのか。なぜこの組織が存在するのか。その問いに答えられるのは人間だけです。
第三は、人を育てることです。知識はAIが教えられます。しかし、挑戦する勇気や、自ら成長したいという意欲は、人との関わりの中でしか育ちません。
そして最後は、安心をつくることです。不確実性が高まる時代だからこそ、人は優秀な上司よりも、安心してついていけるリーダーを求めます。
生成AIの登場によって、多くの人は「仕事がAIに奪われるのではないか」と不安を抱いています。しかし、私は少し違う見方をしています。
AIが代替するのは、人間が本来やる必要のなかった仕事です。進捗を確認すること。資料をまとめること。情報を整理すること。報告書を作ること。こうした管理業務はAIが担い、人間は本来向き合うべき仕事へ戻っていくのだと考えています。
その仕事とは、人の可能性を見いだすこと。異なる価値観をつなぐこと。組織に意味を与えること。そして、不確実な未来に向けて方向性を示すことです。だからこそ、これからのマネジャーには、従来以上に高い役割が求められます。
管理をする人ではなく、組織の可能性を引き出す人。業務を監督する人ではなく、人と組織の未来を設計する人。そのような存在へと進化することが期待されているのです。
私は、マネジメントとは本来、人を管理することではないと考えています。
マネジメントとは、人・AI・組織、それぞれの可能性を編集し、新しい社会価値へと変換する営みである。
AIが進化するほど、人間に求められる役割は小さくなるのではありません。むしろ逆です。人が何を目指し、何を大切にし、どのような未来を描くのか。その方向性を示し、人と組織の力を1つの価値へと編集していく仕事は、人間にしか担うことができません。
管理する時代は終わりました。これから始まるのは、「人間の可能性を編集するマネジメント」の時代です。
そして、その編集力こそが、AI時代において企業の競争力を左右する、新しいマネジメント力になっていくのではないでしょうか
株式会社経営者JP 代表取締役社長・CEOに
早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。その後、現リクルートエグゼクティブエージェントのマネージングディレクターを経て、2010年に経営者JPを設立。2万名超の経営人材と対面してきた経験から、経営人材の採用・転職支援などを提供している。2021年、経営人材度を客観指標で明らかにするオリジナルのアセスメント「経営者力診断」をリリース。また、著書には、『社長になる人の条件』『ずるいマネジメント』他。「日本経済新聞」「朝日新聞」「読売新聞」「産経新聞」「日経産業新聞」「週刊東洋経済」「週刊現代」「プレジデント」フジテレビ「ホンマでっか?!TV」「WBS」その他メディア出演多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授