大規模インフラ運用や全社のクラウド移行を指揮してきたDeNA・IT本部長の金子俊一氏。現在は「AIネイティブ化」の責任者として、AI時代を見据えた組織改革までもけん引している。経営と現場をつなぐITリーダーのこれまでの軌跡と、今後の展望に迫る。
企業におけるIT基盤やセキュリティ、そしてデータ戦略の重要性が高まる中、最前線で采配を振るリーダーたちは何を考え、いかにして困難を乗り越えてきたのか。本連載「IT責任者の矜持」では、日本のIT業界を牽引するエグゼクティブたちのキャリアと哲学に迫る。
第1回は、ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)でIT本部 本部長を務める金子俊一氏。文系出身というバックグラウンドからエンジニアの世界に飛び込み、桁違いの大規模トラフィックとの格闘、全社クラウド移行、そして全社的なAX(AIトランスフォーメーション)推進までを主導してきた同氏に、これまでの歩みとIT責任者としての矜持を聞いた。
金子 俊一(KANEKO Shunichi)
――ディー・エヌ・エー グループエグゼクティブ、IT本部 本部長
文系出身でありながら、2003年に専門商社でSEとしてキャリアを開始する。DeNAへ転職後は「Yahoo!モバゲー」の立ち上げや任天堂との協業など、世界最大級の大規模インフラの運用を牽引。数千台のオンプレミスサーバで運用されていた全社システムのクラウド移行も指揮した。現在はグループエグゼクティブとして経営視点でIT全般を管掌しつつ、全社の「AIネイティブ化」責任者として、AI人材の育成や次世代の組織づくりも主導している。
――現在、DeNAではどのようなお立場で業務に当たっているのでしょうか。特定の「CxO」という肩書ではないとお聞きしました。
金子氏: 現在は、IT本部 本部長という肩書です。DeNAのIT全般を管掌する立場にあります。
DeNAは各領域の代表的な責任者を「グループエグゼクティブ」と定義しています。各事業の責任者や人事、財務の責任者など、現在50人弱がこの立場におり、私もその一人として経営会議などに出席しています。
――いわゆるCIO、CTOのような立場かと思いますが、そういったITを統括する立場で果たすべき役割についてどう捉えていますか。
金子氏: 大きく2つ意識しています。
1つ目は、特定のセクションに閉じず、「DeNAのIT全体がどうあるべきか」という中長期的なビジョンを持つことです。現在、社内には、サービス/プロダクトのIT、社内向けのIT(情報システム)、セキュリティ、品質管理などを管轄する部門がそれぞれ存在しています。各部門長は自部門のやるべきことにフォーカスしていればよいのですが、私の立場ではそれらを俯瞰し、内外の 環境変化に合わせて「今どこを強化しなければいけないのか」という現状の対策を決め、将来の全体像を描かなければなりません。
2つ目は、経営レイヤーとの「通訳」です。「なぜこのプログラムを書き換えなければならないのか」「それをしないと経営指標にどういう影響を及ぼすのか」など、技術的な事象を経営陣に分かりやすく伝える役割です。ほぼ毎週のように社長や会長と直接対話しています。
――もともと大学は文系のご出身だそうですね。そこからなぜITの世界へ飛び込んだのでしょうか。
金子氏: 私が就職活動をしていた2000年頃は、ちょうど「IT革命」という言葉が世の中に出てきたタイミングでした。大学のレポートも手書き半分、Word半分という時代でしたが、就職活動サイトに触れた時、初めてシステムらしいシステムに出会い、「今後は何をするにしてもITがベースのスキルになる」という強烈なパラダイムシフトを感じたんです。
当時のSEの応募要件は「初心者大歓迎」「コミュニケーション能力があれば大丈夫」という文言が多く、文系でしたが思い切って飛び込みました。
――1社目ではどのような経験をされたのですか。
金子氏: 専門商社だったのですが、社長が「これからはITだ。ITを若い奴にやらせろ」と、既存の営業組織と切り離した社長直轄の若手エンジニアリング部門を作っており、そこに配属されました 。
エンジニアリング部門といっても特に決まった仕事はなかったので、自発的にいろんなことに取り組みました。例えば、営業部門に張り付いて社内のSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)やCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を一から作り上げました。サポートも自分たちで担い、「フォルダ名に全角スペースが入ってます!」といった細かいトラブル対応も全力でやりましたね。
同時に外部の勉強会に参加したり、1人で社外のSI案件に出向いたりして、開発の腕を磨きました。
――そこからDeNAへ転職されたきっかけは何だったのでしょうか。
金子氏: 公共系の案件で、1000人規模のユーザーが同時にアクセスして業務利用するシステムの開発に携わっていたことがありました。このシステムがアクセス負荷で落ちてしまうことが多く、大規模トラフィックの扱いに課題を感じていたんです。
そんな時、技術雑誌で「DeNAのモバゲーが急成長しており、オープンソースの MySQLで大量のトラフィックを捌いている」という記事を読み、この会社で技術的なチャレンジをしたいと感じたのがきっかけです。
――入社直後から「Yahoo!モバゲー」の立ち上げという巨大プロジェクトに携わったと伺いました。
金子氏: ちょうど入社したタイミングで『怪盗ロワイヤル』に代表されるソーシャルゲームの大ヒットがあり、多くのエンジニアがモバゲー事業に携わることになりました。最初はECサイトの開発で入社したのですが、「Yahoo!モバゲーを立ち上げるからよろしく」と言われて半年後には異動になりました。2010年頃のことですね。
Yahoo!モバゲーでは、プロキシサーバの開発と運用を任されました。当時は、いわゆるSNS(Social Networking Service)が大流行していた時代で、Social Graph(ユーザーのつながり)を考慮した処理が必要でした。Googleが公開したOpen Socialの参照実装「Shindig」(後にApache Shindig)を読み解きながら、必要なログを出力できるようにしたり、レイテンシが減るように修正したり、セキュリティの要件を検討したりしました。2〜3カ月で整えてリリースにこぎつけました。
商用リリース後は本当に怖かったですね(笑)。100台超のプロキシサーバのログを集約して確認できる構成にしたのですが、エラーが起きるとその情報があちこちから送られてくるので、エラーログが滝のように流れるんですよね。当時は品質以上にデリバリ速度が優先される時代でしたが、平静を装いつつ、とにかく必死に対応しました。
本当にどんな負荷が来ても大丈夫だと言えるようになったのは、1億人規模のユーザーを想定した負荷試験のノウハウが積み上がった2016年頃からです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授