地方にも「年収1000万円超」がある 地方上場企業で広がるエグゼクティブ転職の可能性今、エグゼクティブが「地方」で描くキャリア戦略(1/2 ページ)

近年、地方に本社を置く上場企業や上場準備企業で、高度な経営課題を解決できるエグゼクティブへの期待が高まっている。その背景と実際の転職事例、そしてエグゼクティブを取り巻く今後のキャリアの可能性を探る。

» 2026年07月10日 08時00分 公開
[江口勝彦ITmedia]

 前回の記事では、地方オーナー企業において、事業承継や組織変革を支える「経営者の右腕」としてエグゼクティブ人材が求められていることを解説しました。

 しかし、地方企業におけるエグゼクティブ需要は、オーナー企業だけにとどまりません。近年は、地方に本社を置く上場企業や上場準備企業においても、専門性を持つエグゼクティブ人材へのニーズが高まっています。

 その背景にあるのは、ガバナンス強化やグローバル対応、リスクマネジメント対応など、経営課題の高度化です。単なるマネジャー職ではなく、実践知と専門性によって企業の成長を後押しできる存在が求められています。

 第3回となる本記事では、地方に本社を置く大企業がエグゼクティブを求める背景や役割、実際の転職事例を通じて、地方転職の新たな可能性を探ります。

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地方上場企業は、高度な経営課題を迅速に解決できる人材を求めている

 地方に本社を置く上場企業や上場準備企業がエグゼクティブを求める背景には、経営課題の高度化に加え、それらに対応できる人材の不足があります。

 もちろん、前回取り上げた地方オーナー企業におけるエグゼクティブの役割においても、事業目標の達成の責任は重く、多様な経営課題への対応が求められます。しかし、上場企業や上場準備企業では、その責任の範囲がさらに広がります。

 株主・投資家・取引先・社員など、多くのステークホルダーに対して説明責任を負うため、単に利益を生み出すだけでは十分ではありません。中長期的な成長戦略の実行に加え、ガバナンスや情報セキュリティの強化、リスク管理、海外展開といった高度な経営課題への対応も必須となります。

 さらに、それらを着実かつスピーディーに実行し続けることが、企業価値と市場における信頼性の向上にも直結します。そのため、上場企業では複雑化する経営課題を実務レベルで推進できるエグゼクティブへのニーズが高まっているのです。

 しかし、地方にはこういった領域を大きな組織で経験した人材が豊富に存在するわけではありません。その結果、地方の上場企業では社内で人材を育成することに加え、外部から即戦力となるエグゼクティブを迎え入れる事例が増えています。

エグゼクティブの真価は、過去の「実践知」で未来の危機を予測すること

 地方上場企業・上場準備企業がエグゼクティブに期待する役割を一言で表すなら、「専門知識の発揮と未来予測」です。特に、「これまでどのような経営課題に向き合い、それをいかに乗り越えてきたのか」という実践知が重視されます。

 なぜなら、地方上場企業や上場準備企業の多くは、今まさに新たな成長フェーズへ踏み出す段階にあるからです。事業拡大に伴い、これまで経験したことのない課題に直面する場面では、エグゼクティブが非常に頼れる存在になります。

 例えば、情報セキュリティ体制の高度化や海外拠点の展開、ガバナンス強化などは、万が一その過程で判断ミスや事故が起きると、企業価値や事業の成長に大きな影響を及ぼしかねません。しかし、企業にとっては初めて経験する課題であっても、過去に同様の局面を経験したエグゼクティブにとっては「すでに通った道」である場合があります。

 次にどのような問題が起きる可能性があり、どんな体制を整え、どこまで先回りして準備をするべきか。このように未来の課題を予測し、事故や混乱が起きる前に打ち手を選択できることこそ、エグゼクティブ人材の持つ大きな価値なのです。

 また、エグゼクティブは理想と現実のギャップを埋める存在でもあります。

 今は100人規模の企業が、将来的に500人や1000人規模への成長を目指すうえでは、実際にその成長過程を経験した人材が加わることで、組織運営や意思決定の精度、変革のスピードは大きく変わります。

 地方上場企業が求めているのは、目の前の課題を解決する人材だけではなく、これから起こる変化を見据えて一歩先の経営を支えられる存在なのです。

年収1000万超を実現 ‐ 地方上場企業への転職事例3選

 豊富なケーススタディと専門知識を持つエグゼクティブが、地方上場企業や上場準備企業に転職し、組織にさまざまな変化をもたらした事例があります。

 一つ目は、関東圏から中部地方の電子部品企業へ転職した、40代のD氏の例です。

 D氏は複数の大手保険会社において、リスクマネジメントやガバナンス強化の担当者として豊富なインシデント対応経験を持ちます。事業推進の中心人物として活躍していましたが、ゆくゆくはパートナーの地元で暮らしたいという思いがありました。

 当初は「地方にこれまでの経験を生かせる場があるのか」と感じていたD氏。しかし、あるきっかけで現在の勤務先が上場を目指していることを知り、企業の経営課題とD氏の持つスキルとが一致したことで、転職が実現しました。

 現在は年収1000万円以上を得るリスク管理マネージャーとして、上場に向けた社内体制の強化を担当しています。パートナーの両親の近くで暮らしながら、自身の専門性を最大限に発揮できる環境を手に入れ、D氏は「家族全員が幸せになれる転職だった」と話しました。

 二つ目の事例は、北陸地方の金融機関にセキュリティエンジニアとして転職したE氏です。

 新卒で首都圏の大手IT企業に入社して以来、20年以上にわたってシステム開発やインフラ領域を担当してきたE氏は、セキュリティに関する高い専門性を持つ人物です。「いつか故郷に戻りたい」と考えていた中で、地元にほど近い金融機関の求人と出会いました。

 数多くの顧客情報を扱う金融機関では、極めて強固なセキュリティ対策が求められます。業務内容ではE氏の持つ知見が存分に活きるものが多く、立地条件もあいまって、まさに運命的なマッチングとなりました。

 今では高度なセキュリティ体制の構築を担当するエンジニアとして、自身の望むキャリアと暮らしの両方を手に入れています。

 三つ目は、外資系企業でマーケティング経験を積み、甲信越地方の上場企業に転職したF氏とG氏の事例です。

 この企業は実店舗とECショップの両方で商品を販売しており、直近の数年間で急成長を遂げましたが、ECサイトの運営に課題を持っていました。そこで、マーケティング部門の核を担う人物として、F氏とG氏を迎え入れました。

 大手外資系EC企業で責任者を務めたF氏と、外資系を含む複数の企業でマーケティング戦略の立案・実行に携わったG氏。現在は、物流の最適化も含めたECショップの運営全般に関わる業務を担当しています。

 F氏・G氏という大手企業で経験を積んだ人材の入社により、マーケティング部門全体のスキルがレベルアップし、今後は事業のさらなるスケール化も視野に入れているそうです。

 上記で紹介したものはいずれも、地方への転職でありながら年収1000万円超を実現したケースです。その共通点は、地方上場企業がこれから直面する経営課題や成長フェーズを見据え、組織を前進させる人材としてエグゼクティブを迎えていることです。

 またエグゼクティブ側も、自らの望む暮らしと仕事とを重ね合わせながら、これまで培った専門性や経験を発揮する新たな挑戦の場として、地方上場企業を選んでいます。地方企業とエグゼクティブとの出会いは、単なる経験豊富な人材の補充ではなく、「企業の未来をともに設計するためのパートナーシップ」へと変化しつつあるのです。

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