コロナ禍、急速なデジタル化によって働き方が柔軟になる一方、職場での人間関係やコミュニケーションに課題を抱える企業も増えています。通信業界の最前線でコミュニケーションの変化を長年見続けてきた、株式会社Ridgelinezシニアアドバイザー・佐藤浩之さんが、リモートワークを円滑に進める次世代コミュニケーションについてお話しします。
この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。
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これからご紹介するのは、私自身がRidgelinezで取り組んだ、チームコミュニケーションツール「Slack」を用いた事例です。
Ridgelinez は2020年に設立された会社で、国内外からさまざまなバックグラウンドを持つメンバーが参加しています。「多様性のある環境だからこそ、新しいカルチャーをつくっていきたい」――そうした思いを胸にSlackを導入しました(現在、デジタルコミュニケーションの中心はSlackとZoom / Teamsを併用することで定着していますが、当初はSlackのみでコミュニケーションを図っていました)。
私が重きを置いていたのは、(1)リモートワークの効率化、(2)役職や立場を超えたコミュニケーションの円滑化です。特に難しいのは(2)の実現です。上司・部下、社外パートナー、顧客など、立場の違いがあるなかで、心地よい協働のカルチャーを生み出すために「オープン性」に着目しました。
誰もがフラッとのぞきに来て、好きなことを話していろいろな人とコミュニケーションをとり、課題を解決できる、そんな空間になってほしい。そこで注目したのがSlackでした。
Slackの大きな特徴は、外部ツールとの連携が可能で、会話のテーマに応じて自由に専用のチャット部屋(チャネル)がつくれる点です。チャネルは閲覧権限も設定できますが、Ridgelinez アカウントに招待されている人であれば、社内外問わず誰でも参加できるオープンな状態にすることも可能です。
ビジネスコミュニケーションツールというと、かつてはクローズドな状態で使用するというイメージもありましたが、どのチャネルを見てもクローズド(権限のある人しか見られない)になっていたらつまらないので、経営情報のような社外秘になり得るようなものを除いて、基本的にはオープンで気軽に参加できるようにしています。
オープンな議論の場がつくれるSlackは、私の目指すRidgelinez の姿にとてもマッチしていると感じました。
では、私の経験も踏まえて、役職や立場を超えたコミュニケーションの円滑化のために押さえておきたい5つのポイントを紹介しましょう。
プライベートなシーンでLINEのようなチャットが主流になっている中、「メールよりもチャットのほうが話しやすい」という感覚を持っている人も多いのではないでしょうか。LINEだとスタンプ1つでも気軽に送れるのに、メールだと「はい、とひと言で返すのもおかしいかな」と難しく考えてしまうものです。
立場を超えてコミュニケーションを円滑化するために、ビジネスコミュニケーションにもLINEのような気軽さを取り入れたいとSlackを導入し、2つのことを実践しました。
1つ目は、メールのように「〇〇〇様」「〇〇〇さん」とわざわざ書くのはやめて、メンション機能(メッセージを送ると特定の相手に通知される機能)を使えばOKにすること。
コミュニケーションをとるたびに「あ、この人には様をつけなくちゃ」なんて相手の立場を意識していたら、居心地が悪くなってしまうからです。
2つ目は、相手が上司だから「承知しました」とかしこまった返事をしなくてもよいように、Slackで使えるさまざまな絵文字(笑顔、ハート、グッドなど)での返事を積極的に行ないました。誰もがフラットな立場で気軽にコミュニケーションができるSlackというメタバース空間をつくる。その延長線上に、心理的安全性のあるフラットな人間関係というカルチャーが定着するのではないかと考えています。
新しいものはシンプルで使いやすいしくみから始めることが大切です。Slackの導入にあたってもオープン性を最大限に生かすため、なるべくルールのような縛りは決めたくありませんでした。
Slackは外部のツールと連携もできますし、プログラミングができれば複雑なカスタマイズも可能ですが、最初から複雑な仕組みをつくってしまうと、初めて使う人の頭はパンクしてしまいます。
実際に、これは便利かなと初期にチャットボットを組み入れた際は「これはなんだ? 勝手に返信が来て気持ち悪い」といわれてしまいました。あくまで初めはシンプルであることが大切なのです。
社内で新しいツールを導入したけれど、浸透せずにフェードアウトしてしまう。これって会社のあるあるではないでしょうか。どんなに便利な機能性を持つツールだとしても、ただ導入しただけで会社のカルチャーを変えられるわけではないですよね。
実際にメインのコミュニケーションツールを電子メールからSlackへ転換した当初は、抵抗感を持つメンバーもいました。そこで、Slackを社内に浸透させるために、エバンジェリストチームを立ち上げました。エバンジェリスト、とは日本語では「伝道師」のこと。テクノロジーを分かりやすく解説し、啓蒙するという役割を担う人材で、特にIT業界ではエバンジェリストの活躍の場が広がっています。
Ridgelinez の場合は、社内から自薦と他薦でエバンジェリストを募集し、チームをつくりました。エバンジェリストに期待したのは、単に使い方を教えるということではなく、Slackの魅力を伝えてもらうこと。
例えば「Slackのどんなところに魅力を感じ、みんなが使うようになるのか」を議論し、議論の中で出てきた「Slackをビジネス以外のコミュニケーションにも使ってもらう」というアイデアをもとに、映画のような趣味嗜好の話ができるチャネルを作りました。他にも議論をもとにさまざまな取り組みを行なうことで、結果的にエバンジェリストはSlack文化の浸透にとても重要な役割を果たしてくれています。
もしあなたがなにか新しいことを始めるのなら、ぜひエバンジェリストチームをつくることをおすすめします。活動期間は短期でもいいですが、ボランティア活動ではなく、オフィシャルに業務として認められた形で活動することが周りの意識も高まるので重要です。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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明治学院大学 経済学部准教授