保護主義を掲げるトランプ米大統領の就任や物価高など資源小国日本を取り巻く環境が厳しさを増す中、リサイクルを国ぐるみに拡大する「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の取り組みが始まっている。
保護主義を掲げるトランプ米大統領の就任や物価高など資源小国日本を取り巻く環境が厳しさを増す中、リサイクルを国ぐるみに拡大する「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の取り組みが始まっている。資源を効率よく回すことは、海外依存度を減らして経済安全保障につながるとともに環境保護にもなる。生産から消費までの理解と実践が求められる中、日本人が伝統的に持つ「もったいない」の精神を生かすことが鍵を握る。
びんやペットボトル、紙などを再利用する従来のリサイクルの行動様式を、サーキュラーエコノミーは経済全体に拡大。資源の有効活用を経済の「体質」にする。幅広い製品の設計・製造段階から再生素材を組み込み、販売、消費段階での廃棄を減らし、使用後は回収する仕組みをつくる。
シャープが2月13日から順次発売する冷蔵庫の5機種(市場想定価格は税込み34万円〜41万円前後)。再生プラスチック素材を従来品から最大約2.8倍に増やし、冷蔵室の仕切りなど内部に初めて採用した。
同社は2001年、関西リサイクルシステムズ(大阪府枚方市)と共同でリサイクル技術を実用化。使用済みの冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコンを解体し、細かいプラスチックに再資源化している。「洗濯機は4巡目に入っている」とシャープの担当者は語る。
再生素材を活用する動きはほかの業界にも広まりつつある。建物のインテリア設計を手掛ける三井デザインテック(東京)が試作したベンチソファはマットレスにペットボトルのリサイクル材を約70%使用。使用後に解体して繊維にし、別の製品に使用できる。
「素材が長期間の使用後にも廃棄されず再活用されるのかどうか。これからのデザインはそこまでの知識を求められる」と田中映子デザインディレクター。同社は25年度に家具、26年度にインテリアでサーキュラーエコノミーを意識したデザインを実用化する方針だ。
資源の再生だけでなく消費段階で製品を共有して使う「シェアリング」も、廃棄を減らすという点でサーキュラーエコノミーの重要な鍵だ。
ラクサス・テクノロジーズ(広島市)は中古のブランドバッグを自社の専門チームで修復、クリーニング。平均30万〜40万円で販売されているバッグを、月額定額制(税込み1万780円)で貸し出している。川本康博執行役員は「高い品質のバッグを多くの人が使用でき、良い品物を見る目を養うことができる」と、環境への配慮だけでなく経済的な価値を生んでいるとの認識を示す。
トランプ米政権の保護主義が世界のブロック化に発展すれば、資源に乏しい日本にとっては危機的だ。政府は24年12月、再生材供給ネットワークの形成、リサイクルしやすい製品を増やすための新たな認定制度創設などの政策をまとめた。
経済人らが集まり2月6、7日に開催した「関西財界セミナー」では、今回初めてサーキュラーエコノミーを分科会のテーマに設定。主催者声明は「官民が連携してルールづくりを進めるとともに、消費者の行動変容を促す」と明記した。
立命館大の笹尾俊明教授(環境経済学)は「トップダウンで取り組みを進めている欧州に比べて、日本人には昔から物を大事にする『もったいない』という文化がある。食品ロスの削減など身近なところから消費者の意識を変え、企業の行動を変えていく対策が有効だ」と指摘する。(牛島要平)
資源の効率的な利用や再利用、再生などを通じ、廃棄物の最少化を図る社会経済システムを指す。英語で「Circular(循環する) Economy(経済)」と表記する。欧州を中心に広まった考え方で、資源に乏しい日本も「成長志向型の資源自律経済」を掲げる。実現に向けてはさまざまな分野の技術開発が不可欠なため、産業政策としても重視されている。政府は2030年の国内市場規模が20年比1.6倍の80兆円に拡大すると試算している。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授