「即レス」は脳を疲弊させる?! 能力発揮するための睡眠習慣とはビジネス著者が語る、リーダーの仕事術

オンとオフの切り替えがはっきりしていないためにこのリズムが狂ってしまうと、毎日の睡眠で疲れが取りきれず、心身ともに疲弊していく。どうすればいいのだろうか。

» 2023年07月27日 07時02分 公開
[白濱龍太郎ITmedia]

 この記事は「経営者JP」の企画協力を受けております。


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便利になってもパフォーマンスが上がるとは限らない

『ぐっすり眠る習慣』(Amazon)

 いつでもどこでもメールを確認でき、連絡が取り合える今の時代。

 顔を合わせなくても仕事ができるのは便利ですが、そのぶん個人の行動は見づらくなりました。

 この状況下では、とにかく反応が早く「即レス」できる人が優秀だと思われがちです。上司の不安をぬぐい去り、過干渉の「極度のマイクロマネジメント」に陥ることを避けられるため、理想の部下にも思えます。

 しかしそれは、一見、円滑にコミュニケーションがとれているようですが、実は「考える力が衰え、パフォーマンスが落ちている」という危険信号かもしれません。

 なぜなら、わたしたちは四六時中ずっと集中力が高いということはありえないからです。

 人間の体の構造上、朝起きてから夜に近づくにつれ、どうしても脳のパフォーマンスは落ちていきます。

 それなのにいつでも返信できる状態というのは、「常時オン」なのではなく、「オンとオフが曖昧になっているだけ」かもしれないのです。

「かくれ不眠」があなたの力を削いでいく

 それはどういうことか。

 「毎日ちゃんと眠れているし、大丈夫」と思うかもしれませんが、実はそうとも限らないということが分かっています。

 アメリカのランド研究所によると、「出勤しても頭や身体のなんらかの不調のせいで本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態」であるプレゼンティーイズムにより、日本は1380億ドル(約18・3兆円)もの経済損失をしているとの調査結果が出ています。

 また、スタンフォード大学の調査では、男子バスケットボール選手に睡眠指導を行ったところ、ダッシュのタイム・フリースローやスリーポイントシュートの成功率・モチベーションに至るまで、あらゆるものが向上したという結果があります。

 つまり、睡眠の状態が良ければもっとパフォーマンスを発揮できるということ。

 多くの人が、知らず知らずのうちに不眠状態に陥っている可能性があるのです。

 なぜこんなことが起きるかというと、疲労回復のためには何時間眠ったかよりも「どれだけ深く眠れたか」が大切だからです。

 人間の体は機械ではないので、いきなりスイッチを切るように深く眠ることはできません。深く眠るにはコツがあり、飛行機の着陸のように眠りにつく必要があります。

 その鍵を握っているのは、人間に元来備わっている「体内時計」のリズムです。

 これは、自律神経の働き・体温の変化・ホルモンの分泌などのリズムのことで、毎朝、太陽の光を浴びることでリセットされ、夜には自然に眠気が訪れます。

 オンとオフの切り替えがはっきりしていないためにこのリズムが狂ってしまうと、毎日の睡眠で疲れが取りきれず、心身ともに疲弊していきます。それが、「睡眠負債」と呼ばれるものです。

 具体的には、寝る直前までスマホやパソコンを見ていては、ブルーライトによって睡眠をうながすメラトニンが減少してしまうし、食事や入浴のあとすぐにふとんに入れば深部体温が下がりきらず眠りが浅くなります。その他、拙著『ぐっすり眠る習慣』に記したような注意すべきポイントがいくつもあります。

 ちなみに、毎日帰ってきて「バタンキュー」で眠ってしまうという人は、深く眠れているわけではなく、睡眠負債が貯まりすぎているだけ。脳が悲鳴を上げて強制的にシャットダウンされたような状態なので、要注意です。

集中力が一気に高まる「ゴールデンタイム」がある

 この体内時計のリズムが整って深く眠れるようになれば、日中に必ず集中できる「ゴールデンタイム」が出現します。

 それは、起きてから4時間後。

 ぐっすり眠った翌朝には、ドーパミンというホルモンが脳内にしっかりチャージされた状態となります。ドーパミンはやる気や集中力、幸福感などを高める効果のある神経伝達物質で、日中のエネルギッシュな活動の源となるもの。

 それがだんだんと活発に働きはじめ、交感神経の活動を高める効果のあるノルアドレナリンが生成されて積極性が高まり、血圧や心拍数が上昇していきます。

 そのピークが起床から約4時間後で、脳が一番効率よく働くタイミングになります。

 これを活用すれば、集中したいときに合わせて1日の予定を立てられるようになり、非常に効率的です。

 先述したように、人間の脳は基本的に「起きてから時間が経過するほど働きが鈍くなる」もの。

 ですから、頭を使う会議やアイデアが求められる仕事は午前中に、定例会議などは午後にしてしまってもいいでしょう。

 逆に、大事な意思決定を夜にしたり、遅くまでメールでやりとりしたりすることは、頭が回っておらず非常に危険です。

 もちろん、スムーズに仕事を進めるのは大切ですが、頭が回っていない状態で仕事をするのは非効率的ですし、相手も反射的に返すだけになって考える力が育たず、永遠にマネジメントの負担が減りません。

 その反面、瞬時にメールの返信が返ってこなかったとしても、的確な報告をしたり、画期的なアイデアを出せたりする人もいるはず。それは、体内時計のリズムを乱す誘惑に打ち克ち、仕事に集中できる自己管理能力が高いということでもあります。

 時には「信じて待つ」という姿勢も大切ということです。

「この時間はNG」と宣言しておくことも大事なマネジメント

 この原理は、マネジメントする側にとっても大いに役立ちます。

 日ごろからマネジメントだけに特化できている人はいいですが、部下の指導をしながら自分の仕事をしている「プレーイングマネージャー」の方も多いのではないでしょうか。

 それはつまり、マネージャー自身も集中して仕事をする時間が必要ということ。

 にもかかわらず、四六時中、部下の面倒をみているのでは、自分の仕事のパフォーマンスは落ち、部下の指導も的確でなくなってどんどん負のスパイラルにはまってしまいます。

 それに、いつでも上司が「オン」の状態に見えると、部下も気をつかいます。「いつでも連絡してね」というのは一見、親切なようですが、一時も気が抜けない窮屈さがあるのです。

 すでに自分のリズムができている中堅社員ならまだいいものの、仕事の全容をつかみきれていない若手社員の場合、考えることを放棄して「言いなり社員」になってしまうおそれもあります。そうなってしまえば、組織全体の効率が落ちるのは言わずもがな。

 そんなとき、あらかじめ「連絡はこの時間からこの時間までにお願い」「この時間は作業しているから」と伝える習慣をつけることで、自然とオンオフを分ける風土が組織全体に根づいていくのではないでしょうか。

 本来、休むのは動くため。日々の睡眠によって、わたしたちはもっと自分の力を発揮させることができます。

 ぜひ「オンオフの切り替え」を大切にして、自分も会社も「健康経営」でいきましょう。

著者プロフィール:白濱龍太郎(しらはま・りゅうたろう)睡眠専門医

筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。公立総合病院睡眠センター長などを経て、2013年に「RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」を設立。約2万人の睡眠に悩む人を救ってきた。自身がオンオフの切り替えが苦手だったことから、睡眠の大切さを幅広く発信。医療以外の場でも、マイクロソフトやPHILIPSなど世界的企業での講演や、日本オリンピック協会(JOC)強化スタッフとして選手村で選手のサポートを行うなど、ビジネスやスポーツ界からの信頼も厚い。慶応義塾大学特任准教授、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。『ぐっすり眠る習慣』(アスコム)など著書やテレビ出演も多数。


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