日頃からどれほどの意識を持って相手の表情や行動、周囲の状況を“観察”しているかによって、気づく力には差が出てしまうが、気づく力は磨くことができる。
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お客さまから「気がきかない!」とクレームを受けた接客従事者が、「してほしいことがあるなら、店員に気づいてもらうのを待たずに言えばいいのに」と憤慨しているのを見たことがあります。
確かに「察してもらえなかった」とヘソを曲げられるのはめんどうくさいでしょう。しかし、人は感情の生き物です。思いに気づいてくれる人に好感を持つのは不思議なことではありません。人は自分を大切にしてくれる人に心を開くものです。
つまり「察してあげられる人=気がきく人」になれるよう努めることは、接客業に限らず、お客さまを相手にしたビジネスにおいて非常に重要だと言えます。そして、気がきく人に共通しているのは「気づく力」が優れていることです。しかし、日頃からどれほどの意識を持って相手の表情や行動、周囲の状況を“観察”しているかによって、気づく力には差が出てしまいます。
ここまで読んで「私には気づくセンスがないから」「あの部下には教えても仕方ない」と思った人もいるかもしれません。しかし、言い続けることで、気づく力は磨くことができます。
前職でサービス指導教官として新人を指導した時のこと。厳しい面接を突破してきた訓練生であっても、初めはこの「気づく力」に差がありました。
授業中に西日が射し、教室の一番前で授業を行なっていた私がまぶしそうな素振りを見せたのでしょう。教室のちょうど真ん中あたりに座っていた訓練生がチラッと窓の方を見たので、自分がまぶしそうにしたことに気づきました。
次に彼女は窓側に座る訓練生仲間を見たのです。それは「誰かカーテンを閉めてくれないかしら」というような表情でしたが、最終的に彼女がそっと身を低くしてカーテンを閉めに行きました。
私は彼女の気づく力と「できれば授業を中断させず、自分がしゃしゃり出ないようにしてカーテンを閉めたい」という奥ゆかしい気持ちに感心しました。一方で私の素振りにも彼女の配慮あるしぐさにも誰も気づかなかったことが悲しくなり、結局、授業を中断して話をしたのでした。
客室乗務員(以下、CA)はお客さまに高い接客品質を提供することが求められるため、「気づかない」ことは論外。さらに「気づくだけ」では気づかないのと大差はありません。次からは行動するようにとも伝えました。
それからは自ら行動できる訓練生が少しずつ増えていったのです。環境や指導の継続、そして本人のやる気があれば、「気づかない」から「気づける」ようになり、「気がきく人」へと成長できるのです。
しかし、同じ環境や状況で同じことを見たり聞いたりしても、気づく人、気づかない人がいるのはなぜでしょうか?
ある時、新人CAが緊張しながら、それでも笑顔を絶やさずに客室内を巡回していました。ところが、テーブルに空のカップが放置されたり、「毛布をください」という要望が出たりしていたのです。
つまり、巡回はしていたものの、お客さまや客室内を観察することへの意識が追い付かなかったのでしょう。このように「ただ瞳に風景を映しているだけ」「ぼんやりと聞いているだけ」では、情報を拾い切ることができず、質のよい気づきは得られません「しっかりと見る、聞く」を意識しているかどうかで差がつくのです。
よく見る、聞く、というのは、その場面が自分の中でしっかり記録されていて、後で思い出してもその状況がよみがえってくることです。写真の入ったフォルダーをみれば、その時の記憶が鮮明に思い出され、ボイスレコーダーや動画を聞き返せば、相手の声のトーンや口調も思い出されるような感覚です。
そして、気づいて行動するなら、「その行動は相手が望むものであるのか」と考えることも大切です。相手の望む行動に近づける秘訣(ひけつ)も「よく見る」「よく聞く」なのです。
接客マナーの研修では、「外見力、察知力、会話力が大切」と伝えています。この中で気がきく人になるために必要なのは、気づく力である「察知力」です。
そして、この察知力を高めるために大切なのが、質のいい気づきです。これは職場で指導を受けたり、研修で学んだりしなくても自発的に得ることが可能です。
もし、赤ちゃんの世話をした経験やペットや植物を育てた経験があるなら、その時のことを思い出してみてください。いずれも言葉を話すことができない相手ですから、しっかりと観察をしたのではないでしょうか。観察というよりも、情報を得ようと無意識のうちによく見て、よく聞いていたというほうがふさわしいかもしれません。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授