この世に「どんな病気も治せる万能薬」がないように、「あらゆるマーケティング課題を一発で解決してくれる万能施策」もない。これらは、自身の病気に合った薬を飲んでいないことに原因がある。
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マーケティングの現場では、今日もどこかで以下のような不幸や落胆が生まれています。
これらの大半は、施策そのものが悪かったのではなく、マーケティングの医療ミスによって引き起こされたものです。つまり、診断と処方のいずれか、または両方を間違うことによって「取り組む前から失敗する(期待する成果が得られない)ことが確定していた取り組み」なのです。
マーケティングの目的は「お客様に買っていただくこと」ですから、マーケターの仕事とは自社商品がお客様に買っていただけない理由(=病気)を正しく診察・診断し、その病気を最も効果的に治療する薬を処方することと言えます。
それにもかかわらず、多くの現場で、頭痛の人に胃腸薬が処方され、胃痛の人に頭痛薬が処方されてしまう。そして「なんだこの薬は! ぜんぜん効かないじゃないか!」とトラブルになる。また、患者側が「先生、最近なんだか体調が悪いんです。話題の“あの薬”をもらえませんか?」と「流行りの薬」を欲しがり、自身の病気とは関係のない新薬を飲み、「まったく効かないじゃん!」と落胆する。これらは、飲んだ薬(施策)に問題があるのではなく、自身の病気に合った薬を飲んでいないことに原因があります。
この世に「どんな病気も治せる万能薬」がないように、「あらゆるマーケティング課題を一発で解決してくれる万能施策」もありません。また、「健康になるための“健康薬”」がないように、「売上をあげるための“売上向上施策”」もありません。あるのは、売上をあげるための「認知向上施策」「興味喚起施策」「理解促進施策」「信頼獲得施策」などであり、「売上をあげるための施策」が存在するわけではないのです。
頭痛薬が頭痛にしか効かないように、特定の手法や施策は特定の課題にしか効きません。「健康な体(=売上)」は、「各症状に応じて飲む複数の薬(=施策)」が構造的に効いた結果として得られるのです。そのためには、自身の病気を正しく診断し、正しい処方を行う以外に方法はありません。
ではなぜ、マーケティングの現場ではこれほど多くの医療ミスが頻発してしまうのでしょうか。それは、多くのマーケターが持っているさまざま々な知識(点)が、マーケティングの流れ(線)や、戦略の全体像(面)とつながっていないからです。
マーケティングを「お客様に買っていただくこと、および買い続けていただくことを頂上とした登山」と見立てた場合、頂上に至るルートは必ずしも1本とは限りません。主要なルート(線)がマーケティングの流れであり、それぞれのルート上に存在するさまざまな障害物を乗り越えるための具体策が施策(点)であり、頂上までの複数ルートの設計がマーケティング戦略の全体像(面)を表します。
全体像やルートを見失ってしまう最も大きな要因が、各ルートに潜む障害物です。目の前の障害物を乗り越えること(点)に集中しすぎるあまり、障害物を乗り越えることそのものが目的化し、「あれ、これって何のためにやってるんだっけ?」と自分がいる位置を見失ってしまう。その障害物は頂上に至るルート(線)に存在している「乗り越えなければならないひとつの通過点」であり、常に「その先がある(ゴールは常に登頂である)」ことを忘れてはなりません。
頂上に達するための戦略の全貌が見え、それぞれのルートの位置付けや代表的な障害物、それらを乗り越える戦術の背景と意味が分かったとき、マーケティングは格段に正確に、そしておもしろくなります。
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早稲田大学商学学術院教授
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明治学院大学 経済学部准教授