マーケティングの<点と線と面>がつながっていないことは、医療ミスを引き起こすだけでなく、現場で働くマーケターの「仕事のつまらなさ」や「飽き」にもつながっています。マーケティングのデジタル化によって仕事や組織が超高度に分業化された結果、特に若手のマーケターは「CPA◯◯円以下で顧客獲得目標数◯◯人」といった局所的な(点の)仕事しか取り組む機会がなくなってしまいました。
その結果、あらゆるKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)が分断され、現場は「KPI達成のためのKPI達成」で溢れ返ってしまいました。例えば、自動車や住宅メーカーにおけるWebサイトのKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)のひとつに「来場予約」があります。Web担当は自身のKPI達成を目指し、数字が足りなければプレゼントキャンペーンや広告出稿などで来場予約数を増やそうとします。しかし、プレゼント目当ての予約客を増やしても、ドタキャンが多かったり、来場してもホットな見込み客にならなかったり、営業の手間を奪うだけで、むしろ全体の営業効率を悪化させることになりかねません。
マーケティングの最終ゴールは成約数を増やすことであり、来場予約数や来場客数はそのための手段でしかありません。それなのに、行き過ぎた分業と個別KPI達成への圧力が、必ずしも目的の達成につながらない部分最適業務を大量に生み出してしまっているのです。
現場のマーケターは、上記のような不毛地帯から抜け出すため、一生懸命勉強をしています。しかし、幅が広く、一つひとつの奥が深いマーケティングの学習は一筋縄ではいきません。
特に、マーケティングのデジタル化は、大量の「点の仕事」を生み出しました。そして、すべてのマーケターは、必ずいずれかの「点の仕事」からキャリアが始まります。しかし、先にも述べた通り、点(個別施策)は線(頂上に至るルート)上にある個別障害物を乗り越えるひとつの解決策であり、目的はあくまでルートを進み、頂上に達することです。頂上が見えず、自身が進んでいるルートの全貌も分からず、目の前の障害物とだけ対峙していても、質の高い問題解決にはつながりづらいでしょう。何よりも、その仕事はあまりおもしろくないですよね。
もちろん、点は重要です。点があるから線がつくれるし、線を進むから面が成立します。しかし、点だけを見て点に取り組むのと、面の中で線を見て、その線上にある点の種類と順番を知った上で、目の前にある点と対峙するのでは、仕事の精度や創意工夫、やりがいに雲泥の差が生まれます。
日曜日の朝に友だちと待ち合わせをし、「さ、行こうか」と言われ、1時間くらい歩かされたら誰だって不安になりますよね? 「どこに向かっているの?」「目的地まではどのくらいの距離があるの?(何時間歩くの?)」「どんな道順なの?」「途中で休憩はするの?」、そして何より「なぜそこに行くの?(苦労して目的地に着いたらどんないいことがあるの?)」―― 聞きたいことが山ほどあるはずです。
面と線が分からない中で点の仕事に取り組むのは、戦略面からも現場で働くマーケターの精神面からも健全ではありません。これら背景情報が分からないまま取り組む「やらされ仕事」の膨張が、「自分の頭で考え、現場で創意工夫を繰り返す力」を弱体化させ、医療ミスを誘発する一因になっています。
これらの課題を解決するためには、「いま取り組んでいる仕事は、どんな戦略の全体像(面)の、どのルート(線)に置かれた障害物を乗り越えるためのもの(点)なのか」、強く意識をしながら仕事に取り組む以外にありません。
株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長
1973年横浜生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上の広告宣伝・広報・販売促進を支援。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる「働き方」ノート』(WAVE出版)ほか著書・共著書多数。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授