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» 2011年01月21日 05時18分 UPDATE

ヘッドハンターの視点:社長交代劇の裏側とその後

会社は数か月前には社長の解雇を決定していて、ヘッドハンターに次期社長探しの依頼をします。「現職の社長には極秘で次期社長を探してほしい」というのです。

[岩本香織(G&Sグローバル・アドバイザーズ),ITmedia]

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 最近は少々事情が変わってきましたが、数年程前までは社長が突然交代することは外資系IT業界では珍しいことではありませんでした。

 ある外資系IT会社の社長は通勤途中に突然米国本社の役員から「日本にいるから朝食を一緒に食べましょう。今からホテルに来てください。」と電話をもらいホテルに向かいました。ホテルに着いた社長が本社役員から解雇を言い渡されている間に、オフィスでは別の米国本社役員が社員を集めて新社長の紹介をしていました。

 当然こういったケースでは、会社は数カ月前には社長の解雇を決定していて、ヘッドハンターに次期社長探しの依頼をします。「現職の社長には極秘で次期社長を探してほしい」というのです。こういう話はとても気が重くなります。現職の社長をクビにすることは既に会社が決めていることで、そこには何らかの会社なりに正当な理由が存在し、わたしがどうこう言える話ではありません。しかしながら極秘で探すと言っても、人の口に戸は建てられないし、業界は狭くみんなどこかでつながっているので、どんなに注意しても100%情報が漏れないことなど確約できません。

 それ以上にわたしが嫌だったのは「次の社長が見つかる前に現社長に動きを気づかれて辞められるとオペレーションが止まってしまい会社として困るから極秘で」という考え方でした。

 (これまで連載を読んでくださっている方は既にお気づきだと思いますが、)わたしはこういう時には営業的には間違っていても「あなたが候補者だったらこのやり方をどう思いますか? わたしだったら『この会社はいつか自分にも同じことをするかもしれない』と思います。もし転職しても信頼関係を築くのはとても難しいです。現社長との件をきちんと決着してから次期社長を探した方がいいと思います」と、噛みつかずにはいられませんでした。ただ、多くのケースでは「既に決まったことだから」と、わたしの主張は受け入れられませんでした。

 そして、ここからが本当の問題です。突然新社長が発表されると「この人どんな人?」と複数の社員によって非公式業界一斉調査(噂の収集)が実施されます。そこから得た悪い情報だけはあっという間に社内に伝わり、社長もその空気は感じます。誰でも悪口を言われるのはとても嫌ですが、ここで鈍感力を発揮し社員と粘り強くチーム作りをするか否かが大きなポイントとなります。ここで社長も社員を敵と考えてしまう場合、さらに問題は危険な方向に……。それは味方を増やすための「お友達採用」です。

 大手IT企業(A社)出身のBさんは外資系中堅IT企業(C社)の新社長に就任した際に、自分の元部下を採用するためにそれまでには存在しなかった役員待遇の新しいポジションを作り、A社で一緒だった「お友達」を複数採用しました。以前からいた役員はそのことに関して相談もされず、もちろん合意もないまま元部下たちがやってきました。彼らは何事に関しても「A社では○○だった」が口癖で、それは以前からいた社員にとってはC社を見下しているように思えました。

 Bさんとお友達はC社をA社化することに一所懸命でした。A社は確かに立派な会社で見習う点はあったとしても規模も、売り物も違うC社において同じことをしてもうまくいかないことは明らかでした。「そんなにA社がいいなら転職しなきゃよかったのに」と社員の不満が膨らみ、社内はバラバラになりBさんはビジネスにおいて結果を出せず、退職することになりました。Bさんが連れてきた人たちも居場所がなくなり退職し、以前からいた社員もモチベーションをなくし退職していきました。結局Bさんが入社する前よりもC社の状況は悪化したのです。

 Bさんは親分肌の義理人情にあつい方としても知られていました。BさんはA社で不遇だった同僚を救ってあげたかったのかもしれません。しかしながら、Bさんが優先すべきはそれよりBさんの手腕を買ったC社とその社員です。他の役員とも相談して、C社の改革のために必要なポジションに結果的に採用したのだったら違った結果が出ていたかもしれません。

 先日、前出の鈍感力を発揮した社長2人と話をしました。少し前に「絶対やりたくないのは社長です」と書きましたが、1人の社長は「自分のことが書かれているんじゃないかと思ったよ。でも、社員とともに何かを達成した時の満足感、喜びは何事にもかえられない。だから本当に大変だけど社長はやめられないんだ」と話してくれました。

 そして別の社長が「全く同感だ。所詮社長一人で出来ることには限度がある。でもTEAMは奇跡を起こす集団(Together Everyone Achieve Miracle)なんだよ」と教えてくれました。

 彼らのように自分の悪口を言う人たちさえもTeamと考えられた時、「奇跡」は起こるのかもしれませんね。

著者プロフィール

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岩本香織(いわもと かおり)

G&S Global Advisors Inc. 副社長

USの大学卒業後、アンダーセンコンサルティング(現:アクセンチュア)入社。東京事務所初の女性マネージャー。米国ならびにフィリピンでの駐在を含む8年間に、大手日系・外資系企業のビジネス/ITコンサルティングプロジェクトを担当。 1994年コーン・フェリー(KFI)入社、1998年外資系ソフトウェアベンダーを経て、1999年KFI復帰、テクノロジーチーム日本代表。2002年〜2006年テクノロジーチームAsia/Pacific代表兼務。2010年8月KFI退職。2010年9月より現職。


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