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» 2011年07月06日 07時00分 UPDATE

エグゼクティブのための人財育成塾:ファシリテーター型リーダーの「巻き込み力」〜その2 (1/3)

前回のコラムでは、ファシリテーター型リーダーの定義とその要件に関して解説した。今回は、ファシリテーター型リーダーが発揮すべき「巻き込み力」とは具体的にどのようなものかを理解するために、身近なケースを題材に解説する。

[井上浩二(シンスター),ITmedia]

組織はなぜ動かない?

 星(ほし)新五(しんご)は、ある玩具メーカーの関東営業所営業2課に所属する営業マンである。W大を卒業して8年、同社の営業として頑張ってきた功績を認められ、今年主任に抜擢された若手のホープである。星の所属する関東営業所は、総勢35名。営業1課と2課があり、営業2課は、課長、係長、主任に加え、営業が10名(男性7名、女性3名)、営業事務(女性)が3名で構成されている。会社の業績は、少子化のトレンドに加え、長引くデフレの影響も受け、今期も減収減益となっている。

 市場ニーズに応える商品開発や売上向上のための販売促進活動を行うなど、全社をあげてさまざまな取り組みがなされていたが、十分な成果には結びついていなかった。このような施策の効果を上げるためには、社員のモチベーションアップの取り組みが必要なのではないかと星は常々考えていた。

 ある日、このような厳しい状況下でも着実な業績アップを実現している小売りチェーンを訪問した星は、お客様の購買部の様子を見ていてある事に気が付いた。どの机もきれいに整頓されており、書類が山積みになっている机は1つもない。書類棚も整理されており、トイレも清掃が行き届いている。

 そこで、担当バイヤーの山下課長に「御社の皆さんは、机の上をきちんと整理していて素晴らしいですね。どうやっているのですか?」と聞いてみた。「星さん、良いところに気付いてくれますね。数年前から製造業でやっている5S活動を取り入れてみたのですよ。気持ちよく元気に仕事をするには、まずは各自の身の回りからって事でね。やっぱり、身を正すと自然と“しゃきっ”として、仕事に身が入るのだと思います。

 この活動がうまく行き出してから皆の仕事にもミスが少なくなり、なんとか目標も達成できているのだと思っています。」この話を聞いた星は、営業2課でも是非この活動を取り入れて、各自のモラル・モチベーションアップにつなげたいと考えた。

 数日後の課の全体会議で、星はこの事をメンバーに話し、自分たちもお客さまに見習ってこの活動を行うべきではないかと提案した。その話を聞いた近藤課長は、「星、良い事を言うなあ。是非実践しよう!まずは、俺の机の上からだな。皆も実践してくれ。」と話し、星をこの活動のリーダーとして課で取り組むこととなった。

 会議が終了すると、数名のメンバーは早速机の上を整理し始めた。翌日の朝には、営業事務のメンバーが課の皆の机の上を拭いてくれていた。星は、皆が自分の考えを理解し、賛同して積極的に取り組んでもらえると、きれいに片付いた事務所で皆のモチベーションが上がり仕事に取り組めるようになると嬉しく思っていた。

 しかし、この会議から1週間も経つと徐々に机の上を整理しないメンバーが出てきた。部下の吉田君(男性・28歳)の机が1番散らかっていたので、星は「吉田君、ちょっと机の上が散らかりすぎているよ。これじゃミスもしやすくなるから、毎日片付けるようにしないと。」と注意した。

 すると、「主任、今から外出なので帰ったら片しますよ。すみません。」と苦笑いしながら答え、いそいそと出かけてしまった。課長の机に目をやると、課長の机も以前の状態に戻っていた。星は、「課長、お願いしますよ。課長から率先して片付けてくれなくちゃ。」と声をかけた。近藤課長は、「いやぁ、すまん、すまん。気をつけるから」と言って、一応その時は書類を簡単に整理して見せた。星は、自分の仕事もあるので、その程度の声掛けをして外出した。

 会議から2週間も経つと、課の机の上はほとんど以前の状態に戻ってしまった。最初に机拭きを協力してくれた営業事務で1番若手の田中さんに、「皆、ちっともきれいにしてくれないね。うちの会社では、整理整頓は無理なのかな? 」と星は声を掛けた。「そんなことないですよ。きれいにしていた方が、気持ち良いのは皆一緒ですから。私も、机の上を片付けてくれるように頼むように心掛けますね。」と言ってくれた。

 その言動にも期待をかけてもう1週間様子を見たが、一向に改善の兆しは見えなかった。そこで、星はまた課の全体会議で話をした。「皆さん、5S活動はどうなっているのですか? 皆さんもこの活動を実践しようと賛成して頂いたと思うのですが、現在の2課を見渡してみると一向に改善していません。」 すると、星の5年先輩の高橋係長が「星君、皆も気にかけているのだよ。でも、なかなか思ったように直ぐには出来ないのだと思うよ。やり方を変えてみてはどうだろう? 」と答えた。その話を受け、吉田君は「主任、申し訳ないですが、外回りが忙しくてとても時間がありませんよ。主任に時間があるのだったら、主任が片して下さいよ。」と付け加えた。「ふざけるな! 」と心の中で思いながらも、星は黙ってしまった。

 総論は賛成するが、なかなか実行されない、組織が動かない。分かりやすくするために、今回のケースは少々極端に書いたところもあるが、このような事例は多くの企業で良く見受けられる。星主任の活動のどこに問題があるのか。読者の皆さんは、どう思われるだろうか。以下、「巻き込み」のプロセスに照らし合わせて解説する。

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