誰もが陥っている“その場しのぎ症候群”の処方箋生き残れない経営(1/2 ページ)

「その場しのぎ」による悪影響はじわじわとくる生産の低下、間違った解決による不良品の生産ひいては製品の市場改修など経営資源まで食いつぶす恐れがある。

» 2011年08月22日 07時00分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

 企業人、誰にも覚えがあろう。毎日毎日が忙しくて忙しくて、こなしている仕事で雑用が多く、しかもどうも自分で選択したというより、他から与えられて、あるいは押し付けられて余儀なくやらざるを得ないトラブル処理や、会議出席などに振り回され、限られた時間の中で、一見テキパキ処理しようが、悩み苦しんで処理しようが、結局は「その場しのぎ」で切り抜けている。

 偶然できたつかの間の空白の時間、しかもごく短時間にホッとして机に座って書類を処理して、それがあたかも本来の仕事をしている錯覚に捉われ、それさえ叶わぬときは自宅に書類を持ち帰り、あるいは休日に出てきて書類を処理する。本来は「その場しのぎ」を脱するための根本策を講じなければならないのに、精神的にも肉体的にも疲れ果てて、そこまで思いが及ばない、いや少なくとも手が付かない……というわけだ。

 この状態を放置しておいてよいはずがない。放置すれば、いろいろな問題が深刻化する。

 ロジャー E.ボーン教授(カリフォルニア大学)も、その研究成果の中で指摘している(「Diamond Harvard Business Review」=「DHBR」May 2011. 「その場しのぎ症候群から脱する法」西尚久訳、本記事のタイトルはここから一部借用)。R.E.ボーン教授によると、企業では問題が次々と発生し、対処する時間が不足することが常態化している。問題を放置するよりも「その場しのぎ」でも手を打った方がよい場合もある。

 しかし、「その場しのぎ」による悪影響は、仮に問題が解決してもシステマティックな解決よりも時間を要し、生産性が著しく低下し、不充分どころか間違った解決をもたらし、最悪の場合は製品の市場回収や工場の操業停止、有能な人材の疲弊による退職など、本来業務の経営資源まで食いつぶすことである。

 なぜ「その場しのぎ症候群」が多くの企業で発生し、しかも常態化しているのか。

 企業の実態を若干分析してみよう。大手エレクトロニクス・メーカーA社のB生産管理係長の例だ。よくもまあ毎日毎日、問題が次々と発生するものだ。製品の納期問題が、最多だ。購入資材や外注部品の納入遅れ、治工具や型などのトラブルによる製造工程の遅れ、顧客からの短納期品の飛び込み受注などにより、製品納期遅れが発生する。それに伴う生産計画変更が必要だ。さらに製造ラインを遊ばせる事態になると、製造班長や係長から猛烈な突き上げを食らう。

 火消しのため東奔西走の活躍だ。しかしB係長は、資材や外注部品の恒常的遅れに対する根本的解決策や、頻発する短納期飛び込み受注に対する営業との背景分析や根本策などの手を打たなければならないと時には思いつつ、いつも時間がない。むしろ、その場しのぎの手を打って事態が一段落するたびに、一種の達成感さえ味わった。

 次は、設計の例だ。中堅健康機器メーカーC社のD設計課長は、毎日時間に追われていた。まず、C社ではプロフィットセンターが設計部署になっているので、担当部門の業績結果はD課長の最重要課題だ。予算収益未達成が予想されると(大体未達成が多い)、D課長はその原因究明と対策で多大の時間を取られた。製品改良や新製品開発の推進も必要だ。さらに、多くの会議の膨大な資料作成があり、ほとんどの場合設計部署責任で作成する。合間を縫って、関連部署からの問い合わせに対応したり、多くの会議に出席する必要がある。

 ある時トップから、健康機器のある電気部品を価格低減の目的で、国産からドイツ製に切り替える検討をするよう指示された。該当電気部品のテストが必要だ。Dは担当者Eに指示した。指示されたEは、これまた毎日時間に追われていた。該当電気部品について、メーカーからの性能データの裏づけをするテスト指示書を出した。彼も、相談を受けたD課長も、トップ指示でもあり、その程度のテストで何とかなると安易に考えた。

 2年後に、市場で該当健康機器の出火事故が発生した。ドイツ製電気部品の耐用試験がC社ルールに厳密にのっとらず、甘かったのだ。「その場しのぎ」の付けが回った。

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