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» 2011年11月29日 08時00分 UPDATE

日本の元気ダマ:仕事を創りに帰りたい離島、海士町の挑戦 (1/2)

存続の危機に陥っていた町を、都会から移住してきた300人のIターン者、島民、町の職員たちが三位一体となって盛りたてた。

[藤井正隆,ITmedia]

 島根半島の沖合約60キロメートル、隠岐諸島の中にある海士町は、高齢化と財政危機による基金残高の減少で存続の危機に陥っていました。しかし、町職員、町民、Iターン(故郷以外の地域に就職すること)者が三位一体となって島全体の活性化を図った結果、新しい産業ができ、新規Iターン希望者が集まる元気な町になったのです。

ないものはない!

fujii001.jpg 海士町から見える海 この海もすべて国立公園に指定されている

 羽田空港から飛行機で鳥取・米子鬼太郎空港へ、そこからバスとフェリーを乗り継いで約6時間半、島根県隠岐の島に豊かな自然に囲まれた素敵な町があります。約300人のIターン者を含む人口約2400人の町、海士町です。

※海の士(さむらい)と書いて、海士(あま)と呼びます

 海士町のある中ノ島は、島全体が大山隠岐国立公園に指定されている自然豊かな地域です。また、鎌倉時代に後鳥羽上皇が流されて一生を終えた島としても知られ、貴重な文化遺産・史跡や伝承が数多く残っています。

fujii002.jpg 何もない、そしてすべてある!

 海士町菱浦港のフェリー発着所に着くと、「ないものはない!」と書かれたポスターがあちらこちらに貼られています。また、山内道雄町長をはじめとする町の職員の名刺にも「ないものはない!」と大きく書かれています。

 この「ないものはない!」には、2つの意味が込められています。

 1つ目は、「何にも無いよ」といういい意味での開き直りです。コンビニもなければ、娯楽施設もない。買い物のために海を渡って松江まで行くこともあるそうです。2つ目は「無いモノは無い、すべてがここにある」という意味です。海には豊富な魚がおり、種をまいて育てた農産物が豊富にあります。

町長自ら給与カットして財源を作る

 豊かな自然に囲まれた海士町ですが、ここ十数年は、少子高齢化による生産年齢人口の減少、公共投資の急激な縮小、地方交付税の大幅な減額による財政危機などの影響で、基金残高が年々減少するという危機的状況にありました。

 このままでは町が存続できない。まさに崖っぷちに追い込まれた海士町がいかにして元気になったのか、そこには山内町長のリーダーシップの下、島民一体になった取り組みがありました。

fujii003.jpg 山内町長(海士町公式Webサイトより) 給与カットの経緯を話しながら、職員に対する感謝の念で思わず涙ぐみ言葉を詰まらせた。

 山内町長がまず行ったのは、自らの給与を50%カットすることです。町長が「隗より始めよ(言い出した者から始めよ)」を実践したところ、職員から「私たち(の給与)も減らして下さい」と申し出がありました。課長の給与も30%カットとなり、彼らの給与水準は公務員としては全国最低となってしまいました。

 ただ耐えて忍ぶだけではありません。ここからが挑戦です。海士町は給与をカットして得た資金を元手に、最新の瞬間冷凍技術「CAS」の導入や産業創出への取り組みを始めたのです。

 CAS(急速特殊冷凍により、細胞を壊すことなく保存できる技術)は、海士町で捕れた魚を他地域へ販売にすることに大きく貢献しました。以前は本土に運ぶ間に傷んでしまっていた特産物の白イカなどを、まったく損傷無しで販売できるようになったのです。

 そのほかにも、

 ・海産物のブランド化 第三セクターの株式会社ふるさと海士を創業。全国、海外への地場産物販売を行い、事業計画を1年前倒して単年度黒字化することに成功。

 ・ブランド牛の育成 農業特区を取って肉牛の業界に新たに参入。松坂牛に匹敵するレベルと評価される「隠岐牛」を飼育。

 ・独自販路の開拓 Uターン者が中心となって、海士いわがき生産株式会社を起業。養殖岩がきを東京のオイスターバーへ独自ルートで販売。

 などの海の幸・山の幸を生かした新商品開発や、CASを活用した販路拡大などを行ってきました。

 海士町の挑戦は農業・漁業にとどまりません。総務省の「地域ICT(情報通信技術)利活用モデル構築事業」にも積極的に取り組み、IT(情報技術)による都心との情報交流もスタートさせました。離島の模様を情報発信する「海士と東京との双方向メディア」として都内の飲食店にディスプレーを設置し、養殖中の岩ガキや隠岐固有の黒毛和牛・隠岐牛の放牧風景を飲食店でお客様に見せるといった取り組みも実施しています。

挑戦を支えるIターン者たち

 海士町には町民の約1割にあたる、Iターン者が暮らしています。

 ひとくちにIターンと言っても、実際に離島で暮らすことはとても勇気のいる決断です。同じように過疎や高齢化に悩む地方の自治体が、主要都市で「Iターン・Uターンフェア」を開催したり、住宅や仕事を斡旋したりなどの知恵を絞っていますが、なかなか人が集っていないのが現状です。

 しかし海士町には、20〜40代の働き盛りで、しかも、トヨタ自動車やソニー、リクルートといった有名企業で勤めていた優秀な若者が、都会の生活を捨てて、Iターンをしているのです。

 彼らはどのような理由で、海士町にやってくるのでしょうか?

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