世界経済は回復方向だが藤田正美の「まるごとオブザーバー」(1/2 ページ)

世界の金融関係者が固唾を呑んで見守っていた欧州の債務危機も、ギリシャの「秩序あるデフォルト」で山を越えた。しかし実際には、金融機関の危機は残っている。

» 2012年03月27日 08時00分 公開
[藤田正美(フリージャーナリスト),ITmedia]

 2008年秋のリーマンショック以来、初めて世界の経済は何となく楽観論に包まれているように見える。昨年秋から今年3月、世界の金融関係者が固唾(かたず)を呑んで見守っていた欧州の債務危機も、ギリシャの「秩序あるデフォルト」で山を越えた(少なくとも当面は)。

 「雇用なき景気回復」と言われ続けてきたアメリカも、雇用がようやく上向きはじめた。失業率もやや下がって、これでオバマ大統領が再選される確率が高まった(圧倒的な対立候補がいない共和党に助けられているという面もあるが)。就業者の数が増えれば、GDP(国内総生産)の7割を占める個人消費も増えるだろうし、その意味では成長率も上がってくるかもしれない。

 金融面ではFRB(米連邦準備理事会)のバーナンキ議長が2014年後半まで現在の超緩和政策を続けるとしている。インフレ率が高まるとか、賃金が急上昇するなどのことがなければ金融引き締めで景気が腰折れするようなことはあるまい。あとは住宅価格がしっかりしてくれば(その徴候はすでにあるが)、米経済はようやく成長軌道に復帰することになるだろう。

 ヨーロッパはギリシャだけでなくイタリアやアイルランド、スペイン、ポルトガルといった国の債務が懸念されているものの、いったんは落ち着きを取り戻している。これでいわゆるセーフティネット(債務危機に陥った国に資金援助をするための機関)の資金拡充ができれば、「無秩序なデフォルト」は防ぐことができるかもしれない。

 ただ実際には、金融機関の危機は残っていると考えたほうがいいのかもしれない。欧州の金融機関に対して、ECB(欧州中央銀行)は総額100兆円にも及ぶ長期(3年)低金利融資を行った。この資金があるために金融機関は、イタリアやスペインの高金利国債を買い、巨額の利益を稼いでいる。これでギリシャなどで失った体力を取り戻させる狙いだ。

 こうした金融支援は「時間稼ぎ」にしか過ぎない。金融機関が体力をつけている間に、例えばポルトガルやスペインといった国の資金繰りがつかなくなったり、フランスの大統領選でサルコジ現大統領が負けて(現在の世論調査では第1回投票で勝っても、決選投票では負けるとされている)、EUの財政的統一への原動力が失われたりすると、状況は変わってくる。イランという不確定要因もある。石油価格が暴騰すれば、その影響は欧州だけでなく、アメリカまで及ぶ。

 それに債務危機を背景に域内貿易が縮小し、これまでEU経済を引っ張ってきたドイツなどに翳りが見えているのも事実である。ギリシャの昨年第4四半期は前年比マイナス7%の成長率となった。EU全体でもマイナス成長は避けられないとされてきたが、このところ落ち込みは予想よりも緩やかになるという見方が強まっているが、中国やインドの減速が目立ってくると、そう楽観的ではない。アメリカと違って、EUの場合は、日本と同じように人口減少、高齢化という「妖怪」に悩まされているからである。

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