連載
» 2012年06月11日 08時00分 UPDATE

マニュアルから企業理念が見える:【新連載】真のグロ−バル企業になるためのマニュアルのあり方 (1/2)

改定を前提としないマニュアルは使われず、それはマニュアルではない。最終的にマニュアルは社員の手垢で汚れ、ボロボロになっていなくてはならない。

[勝畑 良(ディー・オー・エム・フロンティア),ITmedia]

 地獄の沙汰も金次第ということわざがある。現在の企業を支配している考え方は金に換算できる効率という名の絶対神信仰である。効率という看板を持ち出せばどのような人もその前にひれ伏さざるをえない。規制緩和策を背景に企業が効率を経営の前面に持ち出すようになってから、企業はその社会的使命、社会に果たすべき責任を放棄するようになった。効率のために何でもありになってからの企業は、いままで持っていた全ての矜持をかなぐり捨てた。

 平均的にいえば、企業の全成員の50%から60%が当該企業の正規社員でないこと、この結果企業の宝ともいうべき技術、ノウハウ、業務経験が誰にも継承されず放置されていること、毎年3万人を連続して超えている自殺者の過半数が企業から退職を強要されていたという事実、70万人を超える勤労者が、人目を避けつつうつ病又はうつ的状況で病院の精神科を訪ねていること、関西本線のあの悲惨な列車事故の要因となった過密ダイヤなど、これらが効率化という名の下に実行された企業の諸施策と無関係だと主張できる企業責任者は一人もいないだろう。

 一番恐ろしいことは企業の責任者がこの状況を知りながら目をつぶり、自分とは無関係な他界のことであると自らに言い聞かせ、毎日を過ごしている自己欺瞞(ぎまん)である。現在の状況が続く限り、そして、企業が何らかの対策を取ろうとしない限り、前述の事実は増大することはあっても決して減少することはないと断言できる。こうした自己欺瞞が企業風土の破壊に直接、間接に結びついている。

 企業はどうしてこんなに血迷ってしまったのか。効率化は人間を幸せにするための必要な企業概念ではないのか。企業は効率と人間としての幸福とを両立させうる人材もツ−ルも、そしてこの2つを一体化する技法も所有しているはずである。

 マニュアルはこの企業が持っているツ−ルの1つである。十分検証もされないまま経営者にその本質も理解されず、企業の管理テーブルから放りだされてしまった技法である。これほど重要で効率的なツ−ルがなぜこのような状態で放置されているのか。現代の企業が直面している最重要課題は、少しも効率を落とさず、社員の企業に対する一体感、一員感、所属感を増大させ、企業が企業を構成する全ての人たちの共同体であるということを全員に再認識させ、その永続性確保にまい進することである。マニュアルはこのことを実現させるだろう。

企業内におけるマニュアルとは何か

 企業は社員を企業目的のために一体化させることが必要不可欠である。このためのツールには大別すると2つある。1つは対話を通じて、企業の考えている意思を伝達するオーラルコミニュケーションである。この技法は社長を中心とする幹部会から、管理者とある部下との居酒屋での対話にいたるまでさまざまな種類があり、公式のものも非公式のものもある。

 もう1つはライティングコミニュケーションと呼ばれるものである。企業の遵法性をうたいあげたコードから社員の守るべき安全行動を明示した規則類などである。マニュアルはこのライティングコミュニケーションを構成する文書の1つである。企業目的を社員に伝達するための技法にはさまざまな目的がある。特にこのライティングコミュニケーションが用いられる場合は、伝達すべき事柄が重要で、社員に繰り返し伝える必要があるためである。つまり反復性がどうしても必要である。反復性を確保するためには伝達内容の固定化が必要となる。固定化された企業内文書は必然的に改正しにくいという短所を持つことになる。

 このため、変化の激しい時代には不適合の烙印を押されやすい。しかし、個性的な人間集団である企業において、企業意思を一体化させ集約化していくためには、社員の理解を得なくては何も進まない。難しいことほど理解するためには繰り返しが不可欠である。この矛盾を解決するためにはどうしてもこの改正しにくいという前提を打破しなくてはならない。つまり、マニュアルは一度作れば終わりではない。常に改定することを前提として作り上げていかなくてはならない。

 企業内で業務マニュアルを作成する社員は、当然のことながらこのことに気が付いていた。彼らの考えたことは改定を必要としないマニュアルを制作することだった。改定の必要がないマニュアルとは、業務の処理手順でなく業務の必要性つまり、業務の理念を抽象的言語を連ねて書くという方法だった。理念主義によって制作されたマニュアルは改訂する必要かせない。業務処理手順は日進月歩時代環境の変化に即応して変わっていくが理念を書いたマニュアルはそこに存在するだけの経典となる。こうしてマニュアルは存在するが利用はされず、ロッカーの中で埃りをかぶっているということになる。

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