大き過ぎて分からない海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(1/3 ページ)

デジタルメディアによって、知識の形や進化、とらえ方は変化している。従来の知識のピラミッドは、形の無い「知識のネットワーク」に変わりつつある。ネット世界の新しい理解の仕方とは。

» 2012年07月11日 08時02分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

 この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。

3分で分かる「大き過ぎて分からない」の要点

  • デジタルメディアによって、知識の形や進化、とらえ方は変化している
  • 従来の知識のピラミッドは、形の無い「知識のネットワーク」に変わりつつある
  • 本や出版の構造によって、専門知識の性質は形作られていた
  • 出版できる紙の量には限度があったため、知識をふるいにかけるシステムが生まれた。今そのシステムは廃れてしまった
  • ウェブ上では、ふるいにかけられた知識はどんどん前に押し出され、そのためすべてのデータにアクセスできるようになっている
  • 知識のネットワークは、個人の調査ではなく集団によるアイディアの発達を促進している
  • ネットワーク化された専門知識は、さまざまな人々が集まり相互作用する大きな集団によって発展している
  • インターネットは多様性を保証していない。「反響室」が既存の考え方を強めている
  • 長文式の構造化された議論は、論理的思考の乱雑なネットワークに取って代わられつつある
  • 今日、科学的検証は、膨大なデータに飲み込まれている

この要約書から学べること

  • 従来の知識の概念はインターネットによってどのように変化しているか
  • 「知識のネットワーク」はどのようにして、さまざまな分野での理解を促進しているか
  • 相互作用する無制限のネットワーク化された知識がもたらす問題

本書の推薦コメント

 理路整然と巧みにまとめられた本書の中で、ハーバード大学の研究員であるデビット・ワインバーガーは、インターネットが従来の知識の概念と知識人の概念に与える影響を検証しています。インターネットにつながった世界では、乱雑で活動的な集まりの中で専門家とアマチュアがあまりにも執拗に議論と分析を繰り返しているため、真実を立証し、結論を導き出すことはほとんど不可能です。

 しかし、科学やその他の分野は、いまだかつて無いほど進歩しています。インターネットの接続性は、世界の集団知能を高めるのでしょうか?それとも、知恵や理解そして本当の知識は、最も低俗な大衆の嗜好にまでおちぶれてしまうのでしょうか?知識の形の進化を分析した学術的な本書を、図書館司書から科学者、IT専門家からビジネス戦略家まで、情報の流れについて考える仕事に就いているすべての方にお薦めします。

 もはや、人々の暮らしや産業に欠かすことのできない存在となったインターネットは、情報のボーダレス化が進む一方、そこに混在する広範囲な問題については、いまだに具体的な解決がなされていません。例えば、文章や画像、音楽の無断使用などの著作権や肖像権の侵害の数は膨大すぎて、完全には監視できていません。そのほか、風評被害や情報漏えい、アダルトジャンルに対する規制や取り締まりの体制に及んでも実際のところ、法律が適切に機能しているとは決して言い難いものであるということがいえます。

 そして、このように限度なしに氾濫し続ける情報には、裏づけが不十分なものも大変多いのも事実です。中でも、あたかも真実の言明と言わんばかりの捏造(ねつぞう)情報が都合よく紛れ込み、ネットユーザーを混乱の渦へと巻き込むことすら、事実頻繁に起こっています。このようなことから、インターネットの世界は、発展すればするほど情報の玉石混淆は増殖し続けるという論及も否定できないものだと言えるでしょう。

 本書のタイトル「大き過ぎて分からない」は、あまりにも漠然とし過ぎていて、読者の方々はなんとも難解な心象を受けたのではないかと思います。本書を一言で言うと「ネット世界の新しい理解の仕方」だといえます。これからのウェブ環境で起こること、それをどのように対応していくかについてブロガーである著者が、学術的視点をベースに解説しています。

 その中身は、これまでまん延していたウェブならではの特性やユーザーの危機を生む構造について知ることができます。また、本書から今後必須となるウェブリテラシーを身につけることで、分析力や適応力を効果的に役に立てることができるようになるのではないかと思います。過去のウェブ2.0から受継がれた悲劇の副産物をどのように、賢く制御するかという点について細かく書いてある本書は、ネットの世界と新たな関わり方を「知る」という観点から全ての人にお薦めする一冊です。

知識のネットワーク

 デジタル時代が到来するまで、ほとんどの人は標準的な知識体系に従って生きていました。学生は教科を学び、能力を証明するために資格を取得し、専門家になっていました。そして、自分の知識を生かして研究を行い、研究結果や結論を共有するために本や論文を執筆していました。また、専門家は自分の研究結果を入念に調べ、それが正確であるか誤っているか見定めていました。

 新しい発見は、世間に認められるようになると、既成の知識体系の中に組み込まれ、それがさらなる研究と学習の基盤になりました。昔から、このような知識体系は紙を使って情報を伝達してきました。しかし、それは、デジタルメディアの登場によってすべてが変わることで、変化しました。ただ単にオンライン情報が豊富にあるということだけで、何が真実で何がそうでないのか見定めることが困難になっています。

 デジタルメディアによって知識に関する考え方が試されている中、大学や図書館、科学研究所などの機関は、知識の構造基盤について考え直さなければなりません。しかし、長年抱えてきた考え方を疑問視することは、不安を生み出します。この不安は、例えば「グーグルのせいで私たちはバカになっている」や「インターネットは頭のおかしい奴らに機会を与えている」などといったインターネットに関する警告として現れます。しかし、例えこのような不安を人々が口にしても、科学はいまだかつて無いスピードで進歩していますし、以前は手にできなかった情報を人々は手に入れています。

 さらに今、以前は限られたわずかな人しか取り組むことのなかった、ましてや解決することなどできなかった問題に、思いもよらない人が取り組む方法を提供しています。デジタル時代は、知識の「形と本質」を新しくネットワークでつながったものに進化させているのです。今、「部屋の中で最も知識を持っているのは、部屋そのものです」。つまり、その部屋の中で人々とアイディアを結び付け、それを部屋の外に接続するネットワークが、一番賢いのです。知識は、そのようなことを可能にするネットワークからは切り離せなくなっており、まさに、ネットワークなしでは考えられなくなっているのです。

 デジタルメディアの出現で、知識体系の様式も変化してきたことが分かります。その大きな特徴はオンライン上でふんだんに情報を入手できてしまうことにあります。このことは、知識の構造基盤に混迷をもたらす要因となりつつも問題解決へのスピードや提案力がそれを凌駕するため、既にデジタルメディアは、なくてはならないものとなっているのです。

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