寿命100歳(以上)海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(1/3 ページ)

来たる長寿の時代はどのようにキャリアや人間関係、家族や信仰を変えるか。

» 2012年08月08日 08時00分 公開
[エグゼクティブブックサマリー]
エグゼクティブブックサマリー

 この記事は、洋書配信サービス「エグゼクティブブックサマリー」から記事提供を受け、抜粋を掲載したものです。サービスを運営するストラテジィエレメントのコンサルタント、鬼塚俊宏氏が中心となり、独自の視点で解説します。

3分で分かる「寿命100歳(以上)」の要点

  • 人々は、昔から寿命を延ばし、いつまでも健康であろうと努力して来た
  • 科学技術によって、臓器を培養し、細胞を形質転換させ、遺伝子を操作することで寿命を延ばすことができる
  • 遺伝子を育て操作することは、多くの現実的で倫理的な問題を提起する可能性がある
  • 未来の食糧不足は、食糧を供給する新しく創造的な方法を生み出すだろう
  • 裕福な人は、そうでない人よりも早く寿命延長技術を使うようになるだろう
  • 寿命が延びれば女性は年を取ってからも出産するようになり、兄弟姉妹の年の差はかなり大きくなるだろう
  • 人々はより長い時間独身で過ごすようになり、結婚の時期がより遅くなるか、より多くの人と付き合うようになるだろう
  • 時間やお金や就く仕事が増えるが、相続財産はほとんどなくなるだろう
  • 人口に大きな影響を与えるのは死亡率ではなく、出生率である
  • 「来世の不死」を約束する宗教は、少し意味の無いものに思えるようになるかもしれない

この要約書から学べること

  • 現在の科学技術はどうやって人間の寿命を延ばすことが出来るのか
  • 寿命を延ばすことで、宗教思考、人道的考え、金銭的思考および感情的思考に引き起こされる倫理的および道徳的ジレンマ
  • 100歳まで生きた時に目の当たりにするだろうビジネスおよび文化の変化

本書の推薦コメント

 技術分析科のソニア・アリソンは、100歳以上まで生きることで生まれることが予想される、哲学的、宗教的、環境的、文化的そして経済的影響を研究し、最新の研究結果を導き出しました。人が100歳以上生きるようになったら、社会は命を同じだけ重要視するでしょうか? 環境汚染は増加し、食糧供給は減少するでしょうか? 中年を優に過ぎた母親が子どもを産んだ場合、家族関係はどのように変化するのでしょう? もし誰も退職しなくなったら、どうすれば出世できるのでしょう?

 本書は、人が100歳以上生きるようになった時に、生活がどのようなものになるか興味深いスナップショットを提供しています。が、もう少し結合組織を使うこともできたはずです。なにはともあれ、長生きはするものです。抗議したくなる点はありますが、アリソンの寿命延長に関する考えをまとめた本書を、今を元気に生きる、寿命を延ばしたいと思っている人にお薦めします。

 世界最長寿国と言えば、日本であるということ、これはもはや言わずと知れたことです。しかし、日本を含めた先進国以外にも、世界的高齢化が止め処もなく進んでいるということもまた事実です。WHO加盟国による193カ国を対象にした2011年度現在の平均寿命は、68歳と公示され、中でも日本の女性は1985年以降、長寿世界ナンバーワンという状況が現在まで続き、同年の調べでは、世界の平均を大きく上回る86歳であるということが公示されています。

 人の寿命が延びるということ、それは、ひとえに豊かさの象徴でもあると言えるのですが、反面、一国が将来を見据えた場合、あらゆることが、これまで以上によりよく整備される必要があるのではないかとも考えられます。例えば、年金制度、雇用条件、医療制度や福祉に関することなど、これらは、長寿国であるが故の整備すべき難題であり、今後も注目すべき重要な課題であると言えます。何れにせよ、この超高齢化社会の真っ只中で、「備えあれば憂いなし」と呼ぶに相応しいこととは一体、どのようなことなのでしょうか。

 本書、「寿命100歳(以上)」は、人々の生命が長寿化していることへの懸念材料と肯定的な見解について具体的に炙りだし解説しています。歴史上、人々は健康を手に入れるためには、常に努力を怠らず、ありとあらゆることに取り組んできました。それが、結果的に新たな問題点を生み出していることへの留意すべき内容が本書に書いてあります。哲学や思想、科学の進歩や宗教的な倫理観を踏まえ、長寿に対する考え方に詳しく迫っている本書を、これからの超高齢化社会と経済の結びつき方や、ビジネスを通じどのように向き合うかについて、興味をお持ちの方にお薦めします。

人間の死:主な死因

 アダムとイブは、不死を手に入れるチャンスを捨てて、禁じられた知恵の木の実を食べたと言われています。聖書によれば、人の寿命が短くなったのは大洪水の後、つまり、ノアがぶどうを育てぶどう酒を作った後だとされています。現在も、ワイン好きのフランス人はワインを飲まない人に比べて心臓病にかかる人が少ないにも関わらず、飲酒はガンの原因だとする研究結果がいくつか出ています。また、ギリシャ神話では、寿命が短くなったのはパンドラのせいだとされています。パンドラとは、言いつけを破って「死を招く箱」を開け、「病と災いと死」を世界に解き放ってしまった女性です。

 「長寿科学の父」と呼ばれるロジャー・ベーコンは、死は不道徳な行為や悪弊を罰するものだと考えていました。さらに、道教では、決められた規則を守れば寿命を延ばすことができると信じられています。しかし、このような哲学や見解のばらばらな科学に関係なく、死は普遍的な現実として存在しています。問題は、現代科学はどのくらい寿命を延ばすことができるのか、ということです。

 確かに「死」とは、普遍的なものです。神話や道教、または、医学的検知を交え考察したものの、結局、異なった分野が混在のまま一手に収集したデータでは、解決することはできません。まずは、長寿に最も影響を与えていることを割り出すことからじっくりと始めてみることが口火になるのではないかと思います。

科学の進歩

 何世紀もかけて、人間は寿命を延ばすことを求めて長い道のりを歩んできました。今の高齢者のほとんどは、1世紀前の同年代の人と比べ、はるかに健康です。現代の人々が昔の人より長生きし健康でいる理由は、伝染病と戦うだけでは収まらない、技術的躍進があったからです。

 病気に侵された臓器の代わりになる置換臓器を移植する新たな科学技術の例を見てみましょう。シングルマザーのクラウディア・カスティーリョは30歳の時結核にかかり、気管と右肺への結合部を損傷してしまいました。肺摘出手術は危険なものであるにも関わらず、クラウディアの医師は彼女の肺と骨髄の幹細胞をドナーの気管細胞に移植し、生体外で気管移植細胞を培養しました。ドナーの気管細胞は、「足場」のような役割を持つ、いわゆる「細胞外マトリックス」です。

 幹細胞が育った3日後、クラウディアは移植手術を受けました。術後すぐ体調が良くなり、わずか10カ月後にはダンスも水泳もできるようになりました。同じような足場は生分解性物質からも作ることができます。10歳のルーク・マセラが膀胱の移植を必要としていた時、医師はルークの筋肉組織と膀胱幹細胞を使って、生体外で膀胱の形をした生分解性の足場上で新しい膀胱を培養しました。移植を受けた後、足場はルークの体内で自然と分解され、機能する膀胱だけが残りました。

 さらに、科学技術によって遺伝子を改良することで、寿命を変えたり伸ばしたりすることができます。2010年、カナダの研究者たちは、遺伝子改良を行い、人間の皮膚細胞を血液細胞に変化させることに成功しました。

 「線維芽細胞」という特殊な細胞を人間の皮膚から抽出し、「OCT4」という新しい遺伝子をその細胞のDNAに導入しました。同細胞はサイトカインとよばれる免疫の活性化を促すたんぱく質を加えて培養されました。この研究のおかげで、今、輸血用の血液を必要とする患者は、自分の皮膚を使って事前に血液を用意しておくことができるようになりました。同じように皮膚を使って他の細胞も培養されています。

 遺伝子操作は、寿命延長に作用する可能性があります。シンシア・ケニヨン博士がぜん虫の一種で見つけたある遺伝子の働きを部分的に止めた時、寿命が倍に伸びました。今度は他の遺伝子を操作すると、平均寿命よりも6カ月も長く健康を維持しました。また、化合物の中にも寿命を延ばす作用を持つものがあります。例えば、赤ワインや赤ブドウの皮はレスベラトロルという化合物を含んでいますが、この化合物はガン、心臓病、アルツハイマー病を予防する効果があるとされています。

 また、研究者は、ラパマイシンと呼ばれる移植後の拒絶反応制御剤の延命効果を、マウスに投与することで実験しました。その結果、メスのマウスの寿命は14%長くなり、オスの場合は9%伸びました。

 ここでは、科学の進歩が長寿にどのような影響を与えているかについて書かれています。これまでもマウス実験の結果は、数多くの可能性に富んだ事例を生んでいます。しかしながら、この数値をどのように人間の生命に生かすことができるかが、常に課題とされることでしょう。

食糧不足

 1798年、随筆家のトマス・マルサスは、地球は、ますます増える人口を養えなくなるだろうと主張しました。また、1968年に発表されベストセラーとなった「The Population Bomb(邦題:「人口爆弾」)の中で、著者のポール・エーリックも、マルサスとほとんど同じことを唱えています。エーリックは、1970年代には、何億人もの人々が餓死するだろうと予測しました。

 しかし、この予測は外れました。現在危惧されている主な問題は、飢餓ではなく、過剰消費と肥満です。1800年以降、小麦は安く手に入るようになり、世界全体のカロリー摂取量は増加しました。マルサスは、食糧が不足したら人間は必要な分の食料を得るために新しい手段を生み出すとは考えていなかったのです。人口の増加が止まらなければ、それだけ進歩も止まりません。食糧が不足したり価格が高騰したりすれば、各世代が新しく工夫した農業や大規模放牧、漁業や収穫の手法を使って需要を満たします。また、驚くべきことに、人間の寿命が人口に大きな影響を与えることはありません。死亡率より出生率の方がより大きな影響を与えます。

 トマス・マルサスやポール・エーリックの予測には、やや詰めの甘さがあったように思います。故に、結果論に過ぎませんが、そもそも人類は歴史上、あらゆる局面に於いて創造と発展を繰り広げてきたため、この予測に反した、言わば、逞しい結果を迎えることができたのかも知れません。

環境への影響

 発展途上国の人々は、先進国の人々と同じくらい環境に配慮しています。しかし、経済力のある人々の方が生態系の保護活動を行いやすいです。将来、新しい技術によって地球環境はより健全に保たれるようになるでしょう。科学技術により、「バクテリア、酵母、藻」を使って廃棄物を燃料に変えることがすでにできるようになっています。いつの日か、自動車はバッテリーを1年間交換しなくても走ることができるようになるでしょう。全体的に、世界はこれからもより環境に優しく健全になって行くと思われます。そして、それによってより長くなった人間の寿命を、より支えられるようになるでしょう。

 先進国の経済力はあらゆることに関して、驚異であることは間違いありません。もちろん、環境保護にいち早く取り組んでいるのも先進国であり、必要なテクノロジーもそこから生まれています。この積み重ねが、人々の寿命に何らかの影響をもたらしているということも過言ではありません。

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