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» 2012年10月19日 08時00分 UPDATE

ビジネスイノベーターの群像:おいしい食品でより多くの人を幸せにしたい―オイシックス 高島社長 (1/2)

今ほど食の安全に対する問題意識が広まっていない。食品をインターネットで注文する習慣もない。ましてや、農家が小規模な小売業者に対して農作物を直接販売するといったことも一般的ではない。そんな2000年に、オイシックスのインターネット販売は始まった。

[聞き手:浅井英二、文:山田久美,ITmedia]
takashima3.jpg オイシックス 高島社長

 2011年3月の福島第一原発事故を機に、食の安全に対する問題意識が急速に高まる中、いち早く放射性物質の検査体制を整えたオイシックスが、前年比の1.5倍と大きく売り上げを伸ばした。

 しかし、インターネットによって食品流通を変革しようと同社を起業した高島宏平社長の受け止め方は至って冷静だ。

 「われわれの企業理念は、安全でおいしい食品を通して、お客さまに満足と感動を与えること。そのため、放射性物質の検査体制の整備は当然の対応だった。これまでも福島第一原発事故に限らず、中国製の餃子に農薬が含まれていた事件など、食の安全に対する問題意識が高まるきっかけは幾度もあった。そしてそのたびに、図らずも、弊社の商品に関心を寄せてもらう機会を得てきた。しかし、どのようなきっかけであれ、関心を寄せてくれた顧客に対して満足と感動を与えることができなければ、弊社のファンやリピーターになってもらうことはできない。当社は今後も、顧客一人ひとりに対して大きな満足と感動を与えることができる商品を提供していけるよう、まい進するだけだ」(高島氏)

 この話からも、高島氏が自社の商品に対して絶対の自信を持っていることがうかがえる。また、売上の数値がお客さまを幸せにした数を表していると捉えているため、売上の成長には徹底的にこだわる。

野菜の販売から始めたのは最も難易度が高い商材だったから

 高島氏が、「作った人が、自分の子どもに食べさせられるものだけを食卓へ」というポリシーの下、インターネットを通じて安全でおいしい食品を一般家庭に宅配しようとオイシックスを創設したのは2000年。今ほど食の安全に対する問題意識が広まっていないころのことだった。また、当時はまだ食品をインターネットで注文するという習慣もなく、ましてや農家がネットの小売業者に対して農作物を直接販売するといったことも一般的ではなかった。

 高島氏は、まずは20品目の野菜の販売から始めることにした。扱う野菜は、高島氏らが自らの足で開拓した契約農家から直接仕入れたものだ。そして、徐々に肉や魚、牛乳などへと幅を広げていったのである。最初に野菜を選んだのは、野菜のインターネット販売が最も難易度が高いだろうと判断したからだ。

 「野菜には賞味期限もないし、かさばって重たい割に単価が安い。最も扱いが難しい商材から始めた方が、今後、品目の点数や幅を増やしていきやすいだろうと考えた」(高島氏)

 東京大学大学院で情報工学を学んだ後、外資系コンサルティング会社のマッキンゼーに入社。Eコマースグループのコアメンバーとして多忙な毎日を送っていた高島氏が、オイシックスを創設しようと思ったのは、学生時代にさかのぼる。

 「学生時代からインターネットをベースとしたベンチャー企業を運営していた。卒業後はいったん就職したものの、何かインターネットに関連するビジネスを立ち上げたいと考えていた。そして、広く社会に役立つ領域ということを考えた結果、衣食住、特に“食”に焦点を絞ることにした」(高島氏)

 食に注目した理由は、主に次の3つだった。1点目は、普段店頭に並んでいる食品がどのような環境の下、だれによってどのように製造や生産されているか分からない中、インターネットの特徴を生かせば情報の透明化が図れるのではないか。2点目は、仲介業者が多い食品流通業界において、インターネットを使えば、生産者と消費者を直接結び付けることができるので、無駄なコストが省け、信頼性が高まる。3点目は、食に対するニーズは家族構成などによって異なるパーソナルなものであり、インターネットの機能を活用すれば、個々のニーズにより合致した商品やサービスを提供できると考えたからだ。

 「最も難易度が高いから」という理由で野菜のインターネット販売を始めた高島氏だったが、難易度の高さは想像以上だった。

 まず、農家に「インターネットで野菜を販売したい」といくら説明しても、全く理解してもらえなかった。加えて、どうにか農家と契約し、仕入れ先を確保しても、品質と納期の管理の仕方が、野菜の種類などによって大きく異なっていたのだ。創業メンバーにはこれまで農業や食品小売の経験が全くなかった。そのため、野菜の扱い方を一から学ぶ必要があったのだ。

 「野菜は自然が相手。そのため、トマト1個を届けるだけでも、こんなに配慮すべき項目があるとは思わなかった。特に、台風や害虫の発生によって急きょ、農作物の出荷ができなくなった場合、代替品をどこからどうやって調達するかは大きな問題となった。また、それぞれに食べごろがあり、オペレーションが非常に難しかった」(高島氏)

 最も食べごろの状態で顧客に商品を届けるには、どのタイミングで出荷すればよいかなど、高島氏は試行錯誤を重ねながら、生鮮食品ならでは課題を1つ1つクリアしていった。そういった地道な努力の甲斐あって、現在では契約農家は1000軒以上、取り扱い品目は野菜を中心に、肉や魚も含め3500品目に達している。

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