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» 2012年11月19日 11時44分 UPDATE

Gartner Column:IT戦略の策定方法について極める(前編)――CIO/ITエグゼクティブの成功とは何か? (1/2)

ITのケーパビリティをどう生かすか、ITを企業、組織の中で何を目的にして投資して導入するのかを決めることがIT戦略のポイントとなる。

[小西一有(ガートナー ジャパン),ITmedia]

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 10月に開催したGartner Symposium/ITxpo 2012にて、CIO向けのワークショップをいくつか開催したのですが、多くの皆さまから事前申し込みが殺到したテーマが、アナリストのデーブ・アロンと、わたしが共同で担当したIT戦略策定に関するものでした。そこで、今回から2回に分けて、IT戦略策定のポイントと課題について、本コラムにて説明します。

IT戦略とは何か

 IT戦略というと、何か小難しい言葉に聞こえるかもしれませんし、ちょっと格好良い言葉にも聞こえます。興味の方向性がどの辺りにあるのかはそれぞれかもしれませんが、まずは、IT戦略の定義について話したいと思います。

 われわれガートナーが戦略について話をする時によくこの言葉を引用します。「Nice Landing! However wrong airport.」です。「素晴らしい着陸だよ。でも、空港が違うけどね。」という意味です。つまり、戦術や施策レベルの話では素晴らしい成果を上げられるが、その成果を上げる領域や方向性が違うとか、そもそも達成すべき目標(値)が不明で成果を特定、測定できない状況だよねと言っています。

 これは、戦略がないもしくは、ないに等しい場合に発生する現象です。つまり、ITのケーパビリティをどう生かすか、もしくは、ITを企業、組織の中で、何を目的にして投資して導入するのかを決めることがIT戦略のポイントとなるわけです。

 しばしば、お客さまからこのような話を聞くことがあります。「テクノロジーが進化するのに応じてIT戦略を変化させたいので、中期的なテクノロジ・トレンドを教えてほしい」というものです。この言葉は、まずテクノロジがあって、その先に、テクノロジをどのように生かすかを考えようとするものです。

 絶対的に間違っているというわけではありませんが、「何がしたい」のかが後回しになっていて、危険な思想、思考と言わざるを得ません。企業や組織におけるテクノロジの存在は、あくまで道具なのであり、道具を使って「何がしたい」のかが重要であることはいうまでもありません。しかし、意外とテクノロジ・セントリック(中心)な人が多い印象は否めません。

 ガートナーエグゼクティブプログラムでは、戦略について、以下のように3つの要素が必要だと考えます。(1)方向性を決めていること。つまり、何に集中し、何を捨てるのかが明確であること。(2)戦略目標が設定されていること。これは、財務目標ではなく、戦略の方向性に正しく沿った目標であることが肝要です。(3)戦略を達成するためのリソースが示されていること。リソースとは、ヒト、モノ、カネをコアにする経営資源のことです。

 (1)で選択と集中がしっかりできていれば、おのずと限られた資源を、どこからどこに回せば良いのかが明確になります。日本企業の多くは、「欲しがりません勝つまでは」のごとく、ヒトもカネもないから、歯を食いしばって頑張れという企業、組織が少なくありませんが、それでは、早晩に疲弊してしまい良い結果は生み出せません。

 マネジメントならば、適正なリソースを必要な時期に、適切に投入しなければなりません。言い方を変えると、それがマネジメントの仕事であり、「歯を食いしばって……」と言ったり、そのような風が吹いていたりするのは、マネジメントの能力不足を露呈させていることに他なりません。

 この3つの要素は、IT戦略も同じです。つまり、IT戦略を読めば、何に集中して何を捨てるのかが分かる。そして、ITのケーパビリティを投入して、何を達成しようとしているのかが分かる。リソース(ヒト、モノ、カネ)をどのように配分するのかが分かる、ということです。

IT戦略の具体的な構成

 概念的に、IT戦略とは何かを理解いただいたところで、では具体的にどのような構成にすべきかを、ここでは論じましょう。先に述べたように、何を目的にITケーパビリティを投入するのかが最重要であることは言うまでもありません。つまり、ビジネスが何をしたいと考えていて、ビジネスの具体的な目標にITがどのように貢献するのかを、最初に定義するべきです。

 ガートナーでは、このことをデマンドサイド(需要側)の視点と呼び、IT戦略の3本柱の一つに据えるようアドバイスをしています。そして、デマンドサイドの視点があれば、一方ではサプライサイド(供給側)の視点が在るのは必然です。サプライサイドの視点とは、IT戦略においてはIT側のことに他なりません。これも3本柱の一つですが、以下を記述します。

 (1)IT組織が提供するサービスとプロセスのスコープに関する概要、及び、これらのサービスやプロセスの適切な効率性、有効性、機敏性、高い完全性を確保するためのアプローチに関する説明。(2)ビジネスの成功または変革へと結び付くアーキテクチャ実装への道のりや、それに付随する重大なリスクに関する側面。(3)自社ビジネスの人材、そして、IT 組織の人材管理(HCM)アプローチ、つまり、現在および今後必要となる構造やスキルにフォーカスする。(4)IT ソーシング・アプローチの戦略的な特長。

 これまで、IT 戦略と言えば、アーキテクチャの技術面だけにフォーカスしてきたことが多いように思います。インフラやアプリケーションの資産、活動について延々と記述し、実現不能な一大スペクタクルを創造してきました。この落とし穴にはまらないよう注意が必要です。ちなみに、このような実現不能な記述書は、WORN(Write Once Read Never:一度書いたら二度と読まれない)と呼ばれ、自己満足だけの最悪の戦略文書といわれます。

 そして、3本柱の最後が、需要と供給を調整するためにコントロールサイド(調整側)の視点です。デマンドサイドの視点とサプライサイドの視点は、まず、一致することがないと考えるべきです。往々にして、過剰なデマンドに対して、防戦一方なサプライサイドという姿が目に浮かびますが、「予算がないから……」とか「定量的な評価指標により評価できない(コスト対効果の説明がつかない)」という苦しい言い訳で、ビジネスサイドを煙に巻くようなことはないでしょうか。

 そのような(理不尽な)ことを起きにくくするために、このコントロールサイドの視点では、次のような項目を記述します。「ITガバナンス」「IT財務管理」「評価指標」です。これらの各項目に、強い影響を与える「IT基本原則」を加え、トレーソオフの関係を明確にすることが、成功に導くIT戦略を策定しているCIO/ITエグゼクティブに共通していることも付け加えておかなければなりません。

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