イノベーションを生み出すネットワーク組織の推進にモバイルは不可欠ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

モノ作りからコト作りへ。モノ作りは、製品を開発するための階層型の組織。コト作りは、人が中心でネットワーク型の組織による支援体制が必要。つまり社員の成長が会社の成長につながる「自律社会」となる。

» 2012年12月25日 08時00分 公開
[山下竜大,ITmedia]

 12月4日に、反転攻勢へ、モバイルワークスタイルと経営革新をテーマに「第26回 ITmediaエグゼクティブセミナー」を開催。基調講演には、シグマクシスの代表取締役会長 倉重英樹氏が登場し「コト作りモデル考察」と題した講演を行った。

ITの進展とソリューションビジネスへの変遷

 ITの進展とビジネスモデルの変化には、関係性がみてとれる。紙と鉛筆からスタートした情報技術の歴史をたどると、1516年に郵便システムが誕生し、1844年には電報、1876年には電話、1900年にはラジオ、1925年にはテレビが登場した。その後FAXやデジタルカメラ、ビデオカンファレンス、モバイルフォンなどが開発され、そこから生み出されるデータにより現在ではビッグデータの時代が訪れている。

 バックエンドのテクノロジーとしては、1964年に世界初の汎用コンピュータであるIBM S/360が登場して以降、人間の仕事をコンピュータで自動化することで、業務改善を実現してきた。また2000年前後には、ERPやSCMなどのアプリケーションを導入することで、システムの全体最適を目指すという方向性も生まれた。

シグマクシス 倉重会長

 「当時はコンピュータを利用することで、コストを削減することに重きが置かれていた。現在はコストを削減すること以上に、新しいビジネスモデルの創造や顧客との関係を強化する、あるいは知識を管理するなど、新たな価値を生み出すことに重きが置かれている」(倉重氏)

 新たな価値を生み出すためには、最適なビジネスモデルが必要になる。従来型のビジネスモデルの1つとして、「プロダクトビジネスモデル」がある。これは、市場のコモンニーズに対応して製品を製造するビジネスモデルである。このとき顧客と提供者の関係は単純な取引関係で、マーケットショアの獲得が重要業績評価指標(Key Performance Indicator:KPI)であり、製品競争力と営業のカバレッジの拡大が主要成功要因(Critical Success Factors:CSF)となる。

 このモデルで重要視される価値は「付加価値」だ。いかに低コストで、新製品を開発提供、あるいは新しい機能を付加するか、という視点で競争が展開されてきた。「しかし近年、付加価値だけでは製品が売れなくなっている」と倉重氏。そこで登場したのが「課題解決価値」という考え方である。

 付加価値が「作る側の価値概念」であるのに対し、課題解決価値は「買う側の価値概念」である。その商品が、自分の抱えている課題をどれだけ解決してくれるかで、その商品を買うか買わないかを買う側が判断する価値概念である。

 この課題解決価値に対応するモデルが「ソリューションビジネスモデル」だ。

「1つの商品ですべての顧客を満足させることはできない。そこで顧客固有のニーズを満たすことができる“サービス”を提供することで顧客満足度を向上させるのがソリューションビジネスとなる」(倉重氏)

 ソリューションビジネスでは、顧客との関係が長期的な取引関係になり、求められるKPIはクライアントシェアに、そしてCSFは課題を把握する能力やその課題を解決する能力となる。

「モノ作り」と「コト作り」のビジネスモデル

 プロダクトビジネスは“モノ作り”であり、ソリューションビジネスは“コト作り”でもある。モノ作りは、確実に売れるものだけを作ることから利益志向であり、モノを作るためのアルゴリズムがあり、プロセスを重視し、効率性を追求する。モノ作りにおいてはプロセスを忠実に守る人材(コスト)が求められる。

 「モノ作りは、よく工場にたとえられるが、製品を開発するための仕組みが中心であり、階層型の組織で業務管理と労務管理に基づいて、利益を拡大することが会社の成長につながる“管理社会”といえる。一方、コト作りは、課題を解決することが最大の目的であり、目的が明確でなければ実現できない」(倉重氏)。

 また倉重氏は、「コト作りにはアルゴリズムは存在せず、トライ&エラーを繰り返し、答えを導き出すヒューリスティックなアプローチが有効になる。したがって、効率性ではなく、創造性の追求が重視され、どの結果に到達したかが重要になる。これは誰でもが実現できるわけではなく、特定の人に依存するため人財(アセット)が必要になる」と話す。

 コト作りは、人が中心であり、ネットワーク型の組織による支援体制が必要である。つまり社員の成長が会社の成長につながる「自律社会」となる。

 倉重氏は、コト作りの世界を実現するためのビジネス環境について、次のように語っている。「現在、工業社会から知識社会に移り変わろうとしている。ピーター・ドラッカーは知識社会を、知識が最も重要な財産、資源となる社会と定義している。この社会変革を多くの人が認識するまでには30年掛かると言われている」

われわれの生きる社会は、急速にデジタル化、グローバル化、ソリューションが進んでいる。特にグローバル化では、世界を相手に闘わなければならず、そのための競争優位性を確保しなければならない。さらにテロリズムや自然災害、G0(無極化)も視野に入れておく必要がある。

 倉重氏は、「企業はグローバル化という未体験の世界やテロ、自然災害などの予測困難な状況においても、持続的に成長しなければならない。そのためには常にイノベーションを推進することが必要」と言う。辞書では、イノベーションを「刷新」や「新機軸」と訳しているが、シュンペーターは生産技術の革新だけでなく、新商品の導入、新市場・新資源の開拓、新たな経営組織の実施などを含む概念と定義している。

 日本では技術革新という狭い範囲で利用されることが多いが、このイノベーションを創造するメカニズムは、まず解決に必要な情報の「検索」からはじまり、情報の有用性を「評価」し、情報から意味合いを「抽出」、意味合いから新たなアイデアを「組み立てる」という4つのフェーズで構成される。

 このメカニズムは、フェーズ全体として「知の合成」であり、検索と評価のフェーズは「知の適用」で実現される。また、イノベーションの推進は、知の合成と知の適応のほかに、「延長線上の変化」と「大胆な変化」の4象限で構成される。

 この4象限の延長線上の変化と知の適応は、従来の日本企業の強みである「ベストプラクティスの模倣(Improvement)」であり、大胆な変化と知の適応はIBMが推進した「戦略的事業構造転換(Transformation)」。ハイテク企業が進める延長線上の変化と知の合成は「機能の高度化や合体(Invention)」であり、Googleや3Mなどの企業による大胆な変化と知の合成は「新たな事業・価値の創造(Innovation)」となる。

 倉重氏は、「Improvementは現場、Transformationはトップ経営層、Inventionは技術陣、Innovationは組織の変革」と話している。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ITmedia エグゼクティブのご案内

「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上

アドバイザリーボード

根来龍之

早稲田大学商学学術院教授

根来龍之

小尾敏夫

早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授

小尾敏夫

郡山史郎

株式会社CEAFOM 代表取締役社長

郡山史郎

西野弘

株式会社プロシード 代表取締役

西野弘

森田正隆

明治学院大学 経済学部准教授

森田正隆