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» 2013年01月21日 08時00分 UPDATE

U理論が導くイノベーションへの道:「出現する未来」を実現する7つのステップ――プレゼンシング:Presensing(前編) (1/2)

過去の延長線にはない「その時、歴史が動いた」と感じるできごとを体験したことがあるだろうか。それがターニングポイントとなることがある。

[中土井 僚(オーセンティックワークス),ITmedia]

 「U理論」とはマサチューセッツ工科大学 スローン校 経営学部上級講師であるC・オットー・シャーマー博士が提唱している過去の延長線ではない、全く新しい可能性の未来を創発するイノベーションの理論です。

 「U理論」ではイノベーションをもたらすプロセスを「行動の源(ソース)を転換するプロセス」「出現する未来を迎え入れるプロセス」「その出現する未来を具現化、実体化するプロセス」のという3つに大別しています。さらに、その3つのプロセスを7つのステップに詳細化しています。7つのステップの概要は第2回目のコラムにて詳しく紹介していますのでそちらを参照してください。

 今回は、いよいよ「出現する未来を迎え入れるプロセス」である4番目のステップ「プレゼンシング(Presensing)」を紹介します。

出現する未来につながる「プレゼンシング(Presensing)」

 プレゼンシングとは、源(ソース)につながることですが、オットー博士はその体験をした人の言葉として以下のような引用をしています。

 「わたしは、わたしが体験したことを言葉で説明することができない。わたしの全存在が減速し、静寂、存在、そして真の自己をより感じる。わたしは自分自身より大きな“何か”につながる。」

 「分かったような、分からないような……」というのが率直な感想かと思います。わたし自身、幾度となくプレゼンシングの体験をしましたが、一度たりとも言葉で説明できる範囲だったことはありません。それは、まるで出産の痛みと喜びを説明できることもなければ、それを一生体験できない。男性は決して知ることができないのと似ているのではないかと思います。

 従って、プレゼンシングが何であるのかを定義したり、詳細に解説したとしても、出産の痛みと喜びを定義したり、解説したりするのと同様に意味のない行為になると思っています。当コラムでは、読者の皆さまにプレゼンシングという状態に対して何かしら興味を抱いてもらうのとともに、それに至る重要なポイントとなる「手放す(Letting Go)」について何かしら理解してもらうことを目指して、紹介ます。

伏見工業高校ラグビー部を全国優勝へと導いたターニングポイント

 プレゼンシングの状態をイメージする上で比較的分かりやすいエピソードを1つ紹介します。高校ラグビーを題材にした昭和を代表するドラマ「スクール☆ウオーズ〜泣き虫先生の7年戦争〜」のモデルともなり、NHK「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」でも取り上げられた伏見工業高校ラグビー部の元監督である山口良治さんにまつわるエピソードです。

 昭和49年当時、伏見工業高校は「ツッパリ」と呼ばれる不良高校生が数多く在籍しており、京都一 荒れた学校」とまで呼ばれていました。山口良治さんは、その伏見工業高校に赴任し、文字通り涙を流しながら、高校生と向き合い、弱小チームであった伏見工業高校ラグビー部を全国優勝へと導いたことで有名です。その快進撃の影にあったいくつものエピソードのうち、大きなターニングポイントとなったのが、当時のラグビー名門校である花園高校との一戦です。

 山口さんは教師として赴任する半年前まで、オール・ジャパンの代表選手だったこともあり、着任初日には部員達が大喜びで出迎えてくれるだろうと期待していたが、誰もグラウンドにはおらず、その後もどれだけ練習に来いと言っても、練習をしないどころか「お前、いてもたろか!」とバットを振りかざされたこともあったそうです。

 しかも、苦労して設定した練習試合には当日になって誰ひとり集まらず、相手の選手達に頭を下げて謝らなければならない始末。「どうして、生徒達はついてきてくれないのか」という苦しみを抱えたままの日々が過ぎました。まともな練習もできないまま、公式戦「春の京都府大会」が始まり、初戦で昨年の全国大会準優勝校、名門・花園高校と対戦になります。山口さんが予想していた通り、試合開始わずか40秒後からどんどん点を取られてしまい、部員達はぶざまな姿をさらします。

 そんな部員達の姿を見て、山口さんは「俺の言うことを聞かないから、ぶざまな試合になるんだ!」!」と腸が煮えくりかえる思いをしたそうです。そんな苛立ちの中で、1点も入れられないまま、20対0、40対0と点差を広げられ、後半15分経った頃には、80対0という大差がついてしまいました。

 その時、山口さんの身体の奥からこらえられないものが込み上げて来て「この情けない子供たちは今、どんな気持ちなんだろう。無茶苦茶やられて悔しいやろうな。歯がゆいやろうな。情けない思いをしているやろうな。俺は今までこいつらに、何をしてやったんや!」と初めて自分自身に矢印が向き、何にもやってやれず「俺は、全日本の選手やったんや! 俺は、監督や! 俺は、教師や!」と偉そうなことばかり言っている自分に気付いた時、ただ、ただ、「本当にすまん」という気持ちが大粒の涙とともに湧きあがってきたそうです。

 その後も、一方的に点を取られ試合が終了した時には「112対0」という記録的な大敗でした。強がりながらも、肩を落としてトボトボとベンチに帰ってくる部員達を集め、山口さんはこう語りかけたそうです。「お疲れさん、ケガはなかったか。悔しかったやろな」

 その時、山口さんに最も抵抗していた部員が地面に泣きながら崩れ落ち「俺は悔しい!」と声を上げ、それにつられるかのように20人の部員全員が泣きだしました。そして、部員達は「悔しい! 先生、花園に勝たせてくれ!」と訴え、山口さんは「必ず、勝たせてやる。俺についてこい!」と応え、深い一体感に満たされました。

 その後「打倒、花園!」を合言葉に、猛練習が始まり、部員達は、厳しい練習を乗り越え、1年後に同じ大会で決勝まで勝ち残り、決勝戦で花園高校と再び対戦し、見事18対12で勝利をおさめ京都一に輝きます。

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